

監修医師:
松本 学(きだ呼吸器・リハビリクリニック)
振動障害の概要
振動障害とは、電気工具による振動を身体が受け続けることで生じる、腕や手指の循環障害、神経障害、骨・関節の障害などを指します。
建設業や林業に従事している人に多く発症することが知られています。
振動障害の特徴は手指の循環障害による「レイノー現象」です。レイノー現象とは、手に運ばれる血流が障害されることで肌が白くなり、痛みやしびれなどの症状が生じることです。
そのほか神経障害や骨・関節の障害によるしびれ・痛みなどが現れることもあります。
ただし、これらの症状は振動障害以外の疾患でも生じるため、他の疾患との鑑別が重要です。
振動障害につながる日常生活があるかを聴取し、検査で循環障害・神経障害・骨・関節の障害が確認されれば振動障害の診断につながります。
振動障害の治療・発症予防には身体がうける振動の量を減らすことが重要です。そのうえで定期診察をおこない、腕や肩甲骨のストレッチによって血流を促すことで症状の軽減・発症予防につながります。

振動障害の原因
振動障害の主な原因は、チェーンソーやグラインダー、芝刈り機といった機械による持続的な振動刺激です。振動刺激が腕に伝わることで血液の循環障害・腕や手指の神経障害、骨・関節の障害が引き起こされます。
これらの振動刺激が、毎秒5回以上、2時間以上続くと発症する可能性が高まると言われています。
(出典:厚生労働省「振動障害の予防のために」)
また、作業場所の寒さや手指・腕の筋肉の固さが振動障害の症状を強めることもわかっています。
そのため、暖房や休憩所などの環境改善や、手指・腕を中心とした体操も振動障害の対策として有効です。
振動障害の前兆や初期症状について
振動障害の前兆・初期症状として、指先の循環障害や神経障害、骨・関節の障害が挙げられます。
循環障害では手指への血流が悪くなることで手指が冷えてしまい、しびれや痛みを感じるようになります。症状が進行するとレイノー現象と呼ばれる、手指が発作的に白くなる血流障害がみられることが特徴です。
レイノー現象は通常5〜10分程度で治まることが多いですが、しびれや痛みといった症状を伴うこともあります。
手指の神経障害の特徴は、循環障害と同様にしびれや痛みといった症状です。循環障害と違い神経障害が進行すると、夜間にしびれのせいで目が覚める中途覚醒や、指を細かく動かせなくなる(巧緻運動障害)ことがあります。
また、骨・関節の痛みを伴うことも多いです。初期症状は痛みが顕著ですが、症状が進行することで関節の変形が進む可能性があります。
関節が変形すると痛みだけでなく神経を圧迫してしまい、上述したような神経症状につながることもあります。
振動障害の検査・診断
振動障害の診断は手指の冷えなどの循環障害があるか、手指や手関節での神経障害があるか、しびれや痛みなどの骨・関節障害の有無をもとに判断します。
循環障害の検査は常温検査として、手指の温度をサーモグラフィーや温度計で測ります。加えて手指を冷やして皮膚の温度や発色を検査する「冷却負荷試験」により、レイノー現象が発現するかのチェックをおこないます。
神経障害の検査では手指の神経(正中神経・橈骨神経・尺骨神経)の表面を叩いた際にしびれや痛みが広がるか(Tinel検査)、振動を与えた際に振動を感じることができるかを常温時・冷却時それぞれで検査します。
また、皮膚に触れた際に、触られた感覚があるかどうかのチェックも重要です。
骨・関節障害では関節の痛み・こわばり・関節が動く角度を検査します。また、手指の筋力低下を伴うこともあるため、必要に応じて握力の検査を実施します。
なお、上述した循環障害・神経障害・骨・関節の障害は、振動障害以外の病気でも起こり得ます。そのため、振動障害の原因となる作業をしているかどうかの問診が、鑑別のためには重要です。
振動障害の原因となる生活習慣に加えて身体の異常があれば、振動障害の診断につながります。
振動障害の治療
振動障害の治療では、第一に振動の原因となる作業や工具の使用を中止する必要があります。そのうえで、循環を良くする薬や神経障害に対する薬を用いて、症状の緩和を図ります。
また、循環障害に対する温熱療法や、骨・関節や筋肉の痛み・動きの悪さに対する運動療法などのリハビリも大切です。
なお、症状の改善がみられたからといって、すぐに業務を再開すると症状が再発しやすくなるため、治療やリハビリを継続しながら、徐々に復帰を目指しましょう。
振動障害になりやすい人・予防の方法
振動障害はチェーンソーやグラインダー、芝刈り機など、振動が腕・手指に伝わる道具を日常的に使用している人が発症しやすいです。これらの道具を仕事で使用している人、とくに建設業や林業に従事している人は発症しやすいと言えるでしょう。
予防にはこれらの工具を長時間使用しないことが最も重要です。
振動障害は振動の強さ、振動を受ける時間の関与が大きいため、作業時間を減らすことが予防につながります。厚生労働省からは各企業に対して日振動ばく露量A(8)の計算テーブル(Excel)の使用が求められており、1日に身体にかかる振動量をコントロールすることが振動障害の予防につながります。
また、循環障害をさけるために、腕や肩甲骨のストレッチも大切です。腕や肩甲骨まわりの筋肉のストレッチをおこなうことで腕の血流が良くなり、振動障害の症状を抑える効果が期待できます。
これらの予防方法に加え、定期検査も大切です。定期的に産業医の診察を受け、振動障害の兆候が確認できた段階で作業量を減らすなどの対策を実施します。
定期的な診察で症状をコントロールできれば、振動障害の発症予防・重症化予防につながります。
関連する病気
- レイノー症候群
- 変形性関節症
参考文献




