

監修医師:
松澤 宗範(青山メディカルクリニック)
2014年4月 慶應義塾大学病院初期臨床研修医
2016年4月 慶應義塾大学病院形成外科入局
2016年10月 佐野厚生総合病院形成外科
2017年4月 横浜市立市民病院形成外科
2018年4月 埼玉医科総合医療センター形成外科・美容外科
2018年10月 慶應義塾大学病院形成外科助教休職
2019年2月 銀座美容外科クリニック 分院長
2020年5月 青山メディカルクリニック 開業
所属学会:日本形成外科学会・日本抗加齢医学会・日本アンチエイジング外科学会・日本医学脱毛学会
目次 -INDEX-
巨大リンパ管奇形の概要
巨大リンパ管奇形は、リンパ管に嚢胞(のうほう)状の病変を生じる先天性の疾患です。大小の嚢胞が集まって大きな腫瘤(しゅりゅう=「こぶ」や「しこり」)を形成し、腫瘤ができる部位によってさまざまな症状が現れます。
巨大リンパ管奇形はまれな疾患ではあるものの、総じて難治性の疾患です。
特に首や顔面に病変を認めるケースが多いことで知られ、巨大リンパ管奇形(頚部顔面病変)は、厚生労働省の指定難病に指定されています(2024年現在)。
この疾患は「リンパ管腫」「リンパ管形成不全」などの病名で呼ばれることもありますが、リンパ管系疾患には病態や名称が類似するものが多いため、混同や誤解に注意する必要があります。
巨大リンパ管奇形は、胎生期のリンパ管の形成異常により生じると考えられています。具体的な発症メカニズムは明らかにはなっていません。
巨大リンパ管奇形による腫瘤はがんなどとは異なり、周囲の組織へ広がったり、別の組織へ転移したりする例はほとんど見られないため、良性とされています。しかし、病変が広範囲に及ぶ場合は患者の生活の質を著しく低下させる可能性があります。
巨大リンパ管奇形の治療法としては、主に外科的切除や硬化療法が選択されます。
ただし、病変が神経や主要な脈管と絡み合っている場合は、外科的な切除は難しいとされています。またいずれの治療法でも、成功しても創が残るなど、完治させるのは難しいとされています。
巨大リンパ管奇形は、体の機能面だけでなく整容面からも患者に大きな影響を与えることがあります。
特に顔面の病変では、腫瘤の形成や変形によって醜状(しゅうじょう:人目につくような見た目のこと)が起こり、患者の社会生活への適応が大きく制限される可能性も指摘されています。
継続的な医療ケアと支援が求められる疾患です。

巨大リンパ管奇形の原因
巨大リンパ管奇形はまれな疾患であり、正確な発生機序は現在のところ解明されていません。近年の研究により、細胞の増殖などに関わる「PIK3CA」という遺伝子の変異が関与している可能性が示唆されています。
巨大リンパ管奇形の前兆や初期症状について
巨大リンパ管奇形の初期症状は、多くのケースで出生時から現れます。
腫瘤が生じる部位や大きさによっては出生時には診断されず、小児以降に診断されるケースもあります。
症状は病変の位置や大きさによって異なりますが、一般的に以下のような症状が見られます。
頸部や口腔、肺付近の病変によって気道や気管に狭窄が生じると、呼吸困難が起こることがあります。
顔面や鼻腔、舌、口腔の病変では、摂食・嚥下障害や閉口不全、上顎の肥大、構音障害、閉塞性睡眠時無呼吸症候群などが見られることもあります。
眼やまぶたの病変では、まぶたの開閉不全や視力低下、眼球の突出、眼位の異常、失明のリスクがあります。
耳の病変では、外耳道の閉鎖や中耳炎、内耳の形成不全によって聴力や平衡機能が低下し、難聴やバランス障害が生じる可能性があります。
皮膚や粘膜の病変では「限局性リンパ管腫」と呼ばれるカエルの卵のような集簇性丘疹が現れることがあります。
腫瘍が現れる部位は人によって異なりますが、どの部位でも感染や出血が起こりやすく、腫脹や炎症を繰り返すことが知られています。
巨大リンパ管奇形の検査・診断
巨大リンパ管奇形の診断は主に画像診断と腫瘍の内容物の検査によっておこなわれます。
画像診断では、超音波検査やCT検査、MRI検査などが用いられます。
患者の手のひら大以上の範囲に大小さまざまな複数の嚢胞様の病変が認められることが、診断基準の1つとなっています。
画像診断は病変の範囲だけでなく、周囲の器官などとの関係を把握するのに役立ちます。
腫瘍に針を刺して内容物を採取する検査では、リンパ液の存在が確認されます。
内容物を確かめることにより、ほかの水疱性・嚢胞性疾患との鑑別が可能になります。
また、限局性リンパ管腫の存在や腫瘍の痛み、出血などの症状も診断の補助的な要素になります。
巨大リンパ管奇形の治療
巨大リンパ管奇形の治療では、主に外科的切除と硬化療法、薬物療法が試みられます。
外科的切除
外科的切除は腫瘍自体を取り除く手術ですが、巨大リンパ管奇形の部位や範囲によっては困難なケースもあります。
特に腫瘍が筋肉や神経、血管などに近接している場合は、組織を傷つけるリスクがあるため、慎重な判断が必要とされます。
また、手術後に傷跡が残る可能性が高く、顔面や首などの露出部位の治療では、整容面にも配慮が求められます。
硬化療法
硬化療法は「OK-423」「ブレオマイシン」「エタノール」などの硬化剤を腫瘍に直接注入する治療法です。
硬化剤によって腫瘍内に意図的な炎症を引き起こし、癒着(ゆちゃく)を促すことで、病変を縮小させる効果があります。
硬化療法は比較的低侵襲とされ、外科的切除が困難な部位にも適用できる可能性がありますが、小さい病変には効きにくいという欠点もあります。
薬物療法
巨大リンパ管奇形を含む難治性のリンパ管疾患に対しては「mTOR阻害薬」などの新しい薬物療法が研究されています。
mTOR阻害薬には腫瘍の異常な成長を抑制する効果が期待されています。
また、漢方薬も補助的な治療として用いられることがあります。
巨大リンパ管奇形になりやすい人・予防の方法
巨大リンパ管奇形は、胎児期のリンパ管形成時の異常により発症する、先天性の疾患と考えられています。現在のところ発症そのものを防ぐことは難しく、予防する方法はありません。
巨大リンパ管奇形の病変中では特定の遺伝子の活動が確認されています。しかし、この遺伝子異常は遺伝的に引き継がれるものではないことがわかっています。また、家族歴による発症も報告されていないことから、遺伝情報の違いによる発症リスクの差はないと考えられています。
発症部位や腫瘤の大きさによって、出生直後から生命維持にかかわる重篤な症状に見舞われることもあります。また、難治性なうえ、治療では機能面だけでなく整容面への考慮も求められます。したがって、早期発見と適切な治療の継続が、患者の生活の質を維持するうえで重要です。
参考文献




