

監修医師:
前田 広太郎(医師)
回帰熱の概要
回帰熱とは、スピロヘータというらせん状の細菌であるボレリア属(Borrelia)が原因となる感染症で、発熱と解熱を繰り返すのが特徴です。このような波のある発熱パターンから「回帰」熱と呼ばれます。世界中に分布しており、主にシラミやダニを介して人に感染します。大きく分けて2種類の回帰熱があります。シラミ媒介性回帰熱はボレリア・リクレンティス(Borrelia recurrentis)によるもので、主に貧困地域や戦争・紛争地帯などで流行し、ヒトシラミが媒介します。ダニ媒介性回帰熱はボレリア属の複数の種によって引き起こされるもので、野ネズミなどの野生動物とともに自然界に生息するダニが媒介します。北米、アフリカ、アジアなどで見られます。いずれのタイプも、抗生物質で治療可能ですが、診断が遅れると重篤な合併症を引き起こすこともあります。
回帰熱の原因
回帰熱の原因は、ボレリア属のスピロヘータという細菌です。シラミ媒介性回帰熱ではボレリア・リクルンティス(Borrelia recurrentis)が、ダニ媒介性回帰熱では様々なボレリア属(B. hermsii、B. duttonii、B. miyamotoi)などが原因として知られています。これらの菌は、媒介生物(ベクター)であるシラミやダニに寄生しており、それらが人を咬んだり潰されたりすることで人に感染します。
シラミ媒介性回帰熱のボレリアはアフリカ東部でも流行が続いており、流行地で起こった地域紛争から他国へ逃れた避難民の間で流行した事例が欧州で報告されています。シラミの排泄物中にボレリアが排菌され、皮膚の微細な傷や粘膜を通じて感染します。
ダニ媒介性回帰熱のベクターであるヒメダニはコウモリの生息する洞窟や、げっ歯類・鳥類の営巣地などに生息し、ヒトの住む環境には主にげっ歯類により運ばれると考えられています。コテージや民家の屋根裏で野生動物が巣をつくり、そこにヒメダニが繁殖することもあります。ヒメダニの吸血時間は90分以内であり、通常その刺咬に気づかないことが多いです。
感染のメカニズムで特徴的なのが、「抗原変異」と呼ばれる仕組みです。ボレリアは免疫系から逃れるために、表面の抗原構造を変化させます。このため、最初の感染で発熱が一旦おさまっても、再び菌が増殖して異なる抗原型となり、再び発熱が起こるのです。このサイクルが2回から4回(時に6回以上)繰り返されることがあります。世界的に見てアフリカ諸国での感染例が最多であり、北米、中近東、中央アジア、南欧でも感染例が報告されています。これらの回帰熱は古典的回帰熱とされ、日本国内での感染例は50年以上にわたって報告がありませんが、日本人が国外で感染した例が2例報告されています。
2014年には新興回帰熱の一種として、ボレリアミヤモトイ病が国内にも常在することが明らかとなっていますが、古典的回帰熱とは違い特徴的な再帰性の発熱がみられる頻度が低いことから、古典的回帰熱とは区別して呼称されています。
回帰熱の前兆や初期症状について
回帰熱の潜伏期間は3〜12日程度です。その後、様々な症状が突然出現します。急性期の症状(発熱期)としては、高熱(39~41℃)、寒気、悪寒・戦慄、頭痛、筋肉痛、関節痛、倦怠感、嘔吐、下痢などの消化器症状(とくに小児)、出血傾向(点状出血、結膜出血など)などです。発熱は3〜5日程度で自然に解熱しますが、1週間前後で再び発熱が出現する「再発熱」が特徴です。平均して2〜4回程度の再発が見られます。解熱期の症状として、発汗、体温低下に伴う脱力、脈拍の減少(解熱時徐脈)などがみられます。症状の重さはシラミ媒介性回帰熱の方が強く、死亡率も高い傾向にあり、治療しない場合は致死率最大40%と報告との報告もあります。一方、ダニ媒介性回帰熱は比較的軽症なことが多いですが、脳炎や神経症状、妊婦での流産なども起こりうるため、注意が必要です。
回帰熱の検査・診断
回帰熱の診断は、発熱のパターンを含めた臨床症状でまず疑います。血液検査では、肝酵素上昇、白血球減少、血小板減少、CRPの上昇などがみられます。髄液検査は神経症状がある場合に行われ、髄膜炎所見がみられることがあります。
確定診断としては、 顕微鏡検査で ギムザ染色やライト染色による末梢血塗抹標本でスピロヘータが検出されるか確認します。発熱時に採血するのが基本で、顕微鏡でらせん状の菌体が確認されれば確定診断となります。解熱後は血中に菌が出なくなるため、タイミングが重要です。分子生物学的検査としてはPCR法(ポリメラーゼ連鎖反応)を行い、顕微鏡で同定しにくい菌種の診断に有用です。
回帰熱の治療
治療の基本は抗菌薬の投与です。第一選択薬としてテトラサイクリン系抗菌薬(ドキシサイクリンなど)を投与します。通常、7〜10日間の内服で完治が見込まれます。他の選択肢として、ペニシリンGやエリスロマイシンがあり、小児や妊婦ではアモキシシリンやエリスロマイシンが使用されることがあります。治療中の注意点として、ヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応といって、抗菌薬投与後6時間以内に発熱や血圧低下、頻脈などの全身症状が一過性にあらわれる反応がみられることがあります。これは、ボレリアが大量に破壊されることで内毒素が放出され、全身性炎症反応を引き起こすためです。特にシラミ媒介性回帰熱で頻度が高く(約50%)、治療開始後の観察が重要です。抗菌薬による治療を行わない場合の致死率はシラミ媒介性回帰熱で4~40%、ヒメダニ媒介性回帰熱では2~5%とされます。
回帰熱になりやすい人・予防の方法
回帰熱になりやすい人としては、衛生環境が劣悪な地域に住む人(特に紛争地帯や難民キャンプなど)、農村部や山間部で野ネズミやダニとの接触がある人、アウトドア活動(山登り、キャンプなど)をする人が挙げられます。予防法として、媒介するシラミやダニとの接触を避ける、ダニ忌避剤を使用する、シラミ対策として定期的な入浴と衣類の洗濯・乾燥をする、野外活動後はダニの有無を確認し、速やかに除去するといった手段があります。また、流行地域に行く予定のある人は、事前に情報収集し、必要に応じて医療機関で予防的アドバイスを受けることが推奨されます。
参考文献
- 1)Up to date:Clinical features, diagnosis, and management of relapsing fever
- 2)Up to date:Microbiology, pathogenesis, and epidemiology of relapsing fever
- 3)佐藤 梢:ライム病とその他のボレリア感染症. 医学のあゆみ 277巻 1号 pp. 120-127(2021年04月)




