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発疹熱
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

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防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。現在は「竹内内科小児科医院」の院長。日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医。

発疹熱の概要

発疹熱は「Rickettsia typhi(以下R.typhi)」という細菌による感染症です。

主にネズミに寄生するノミを介して人に感染し、発熱や頭痛、特徴的な発疹を主症状とします。多くの場合は適切な治療で回復しますが、治療が遅れると重症化することもあります。

世界的には熱帯から亜熱帯地域に広く分布しており、特にネズミの生息数が多い港湾都市や沿岸地域で発生が見られます。アフリカ、アジア、地中海沿岸地域での報告が多く、アメリカではカリフォルニア、ハワイ、テキサスなどの沿岸部で患者の発生が確認されています。

日本では極めてまれな感染症です。海外で感染して帰国後に発症した例や、国内の港湾地域での感染例が報告されています。

発疹熱の原因

発疹熱は、ネズミの体に住むノミが媒介するR. typhiという細菌によって引き起こされる感染症です。

クマネズミやドブネズミなどのネズミがこの細菌を持っています。ネズミに住みついているノミが、ネズミの血を吸う際に細菌に感染します。感染したノミが人を刺すと、ノミの糞に含まれる細菌が皮膚から体内に入ることで人に感染します。また、感染したノミを潰してしまった場合にも、ノミの体液により感染することがあります。

港湾都市や沿岸部で多く見られる理由は、ネズミが多く生息し、ノミも多く存在するためです。特にネズミが住みつきやすい古い建物や倉庫、港の施設と周辺地域、衛生状態の悪い都市部の住宅地などで感染リスクが高まります。

また、家庭内でも感染する可能性があります。飼い犬や飼い猫がネズミのノミを家の中に持ち込むことで感染します。

発疹熱の前兆や初期症状について

発疹熱の初期症状は風邪やインフルエンザに似ていることが多く、初期の段階での診断が難しいことがあります。

最も多く見られる症状は発熱です。高熱が突然あらわれ、2週間程度続きます。

さらに頭痛や皮疹も主な症状の一つで、多くの患者さんに見られます。頭痛は、発熱と同時にあらわれることが多く、強い痛みを伴うのが特徴です。

一方、皮疹は通常、発熱から数日後に出現し、胴体から始まって手足に広がっていきます。押しても消えない斑点状または点状出血の形態を取ることが多いです。

また、呼吸器の症状として、咳や軽い呼吸困難が見られることもあります。まれに重症化して深刻な呼吸器の合併症を引き起こすこともあります。

そのほか、発熱に伴う全身のだるさや食欲不振、吐き気、嘔吐、腹痛、下痢などの消化器症状を伴うこともあります。

発疹熱の検査・診断

発疹熱の診断では、問診で症状を確認し、渡航歴や生活環境を聞き取ったうえで、必要な検査を行います。

血液検査

血液検査では、血液中の白血球や血小板が減少していないかを調べます。また、肝臓の働きを示す検査値に異常がないかも確認します。

これらの結果は発疹熱に特有のものではありませんが、病気の程度を判断したり、他の病気と見分けたりするために重要です。

また、抗体値の測定も行い、病気の原因となる細菌に対する抗体が増えているかを調べます。

ただし、結果が出るまでに時間がかかるため、結果が判明する前に治療を開始することが多いです。

PCR検査

PCR検査では、採取した血液から病原体の遺伝子を増幅して調べます。発病して間もない時期に有効な検査で、早期の診断に役立ちます。ただし、抗生物質による治療を始めると細菌が見つかりにくくなるため、疑わしい場合は治療前に検査を行います。

画像検査

せきや息苦しさなどの症状がある場合は、胸部のX線やCTなどの画像検査を行い、肺に炎症や異常な影がないかを確認します。重症度の判断や発心熱による肺の合併症を早期に発見できます。

発疹熱の治療

発疹熱では主に抗生物質による治療が行われます。検査の結果に基づいて適切な抗生物質が処方され、通常2〜3日程度で熱が下がり、その他の症状も良くなっていきます。症状が出たら早めに病院を受診することで、重い症状になるのを防ぐことができます。

また、熱や頭痛がつらい場合は、解熱剤や痛み止めを使って症状を和らげます。病気の回復を助けるために、十分な水分を取ることや、しっかり休養を取ることも大切です。

一般的に発疹熱は、適切な治療を受ければ後遺症もなく治ります。しかし、治療が遅れたり、適切な治療を受けられなかった場合には、重症化する可能性もあります。そのため、海外旅行や港町へ訪問した後に発熱や発疹などの症状が出たときは、できるだけ早く医師に相談することが大切です。

発疹熱になりやすい人・予防の方法

発疹熱は主にネズミの多い環境で感染するリスクが高まります。特に港湾都市や沿岸部の住民、倉庫などの古い建物で働く人、衛生状態の悪い地域への渡航者は注意が必要です。また、ペットを飼っている人も、ノミが家に持ち込まれる可能性があるため気をつける必要があります。

予防の基本は、ネズミを住居や職場に近づけないことです。ネズミ対策として、建物の隙間をふさぎ、殺鼠剤を使用しましょう。清掃や整理整頓を心がけ、ゴミを適切に処理することも大切です。

また、肌の露出を避ける服装や虫除け剤の使用が効果的です。ペットを飼っている場合は、定期的にノミの駆除を行います。

発心熱が流行している海外地域に行く場合は、宿泊施設の衛生状態を確認し、不衛生な場所での滞在は避けることが重要です。また、野外活動の後は体に傷やノミがついていないか確認しましょう。


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