監修医師:
高藤 円香(医師)
中毒性表皮壊死症の概要
中毒性表皮壊死症(toxic epidermal necrolysis;TEN)は、高熱や全身倦怠感などに伴い、くちびるや口の中、目、陰部などを含む全身の皮膚や粘膜に、赤い発疹(紅斑)や水ぶくれ(水疱)、びらん(ただれ)が広範囲にあらわれる重篤な疾患です。
中毒性表皮壊死症が発症するメカニズムは不明ですが、医薬品や感染症をきっかけに免疫的な変化が生じることで発症すると考えられています。原因となる医薬品には、消炎鎮痛薬、抗菌薬、抗けいれん薬、抗尿酸治療薬などがあります。
また、発症との関連性が高い感染症にはマイコプラズマ感染症やウイルス感染症があります。
中毒性表皮壊死症と同じ症状がみられる疾患に、「スティーブンス・ジョンソン症候群」があり、両者は「重症多形滲出性紅斑」とよばれる症候群に含まれます。
中毒性表皮壊死症とスティーブンス・ジョンソン症候群の違いは、水ぶくれやただれなどで皮膚がはがれた状態の面積の違いにあり、日本の診断基準は皮膚が剥がれた面積が10%以下をスティーブンス・ジョンソン症候群、それ以上を中毒性表皮壊死症と診断しています。
スティーブンス・ジョンソン症候群と中毒性表皮壊死症は一連の病態と考えられ、中毒性表皮壊死症は、スティーブンス・ジョンソン症候群から進展して生じる場合が多いです。
中毒性表皮壊死症の発生頻度は、厚生労働省によると人口100万あたり年間0.4~1.3人と報告されており、極めてまれな疾患ですが、その致死率は20〜30%と高いことが特徴です。早期に適切な治療を行うことにより回復が期待できるため、早期診断・治療が重要です。
中毒性表皮壊死症の原因
中毒性表皮壊死症の原因の多くは医薬品です。中毒性表皮壊死症が発症するメカニズムは完全には解明されていませんが、免疫系が異常に反応し、表皮の細胞を攻撃することで発症すると考えられています。この免疫反応には、特定の遺伝子(HLA遺伝子型)が関係している可能性が高いとされています。
中毒性表皮壊死症の原因となる医薬品は多岐にわたりますが、引き起こしやすいと報告されているのは、痛み止めや解熱剤(消炎鎮痛薬)、抗菌薬、抗けいれん薬、高尿酸血症治療薬などです。最も多いのは消炎鎮痛薬と抗菌薬で、全体の約1/3を占めています。
また、感染症が発症のきっかけとなる可能性も指摘されており、マイコプラズマやウイルスなどの感染症が原因となることがあります。とくに小児では、単純ヘルペスウイルスなどのウイルス感染やマイコプラズマ感染、ワクチン接種などにより発症すると報告されています。
中毒性表皮壊死症の前兆や初期症状について
中毒性表皮壊死症では、38℃以上の高熱と倦怠感とともに、全身の皮膚への赤い発疹(紅斑)、ただれ(びらん)、水ぶくれ(水疱)、目の充血、のどの痛みなどがみられます。これらの症状は、原因と考えられる医薬品の服用後2週間以内に発症することが多いですが、数日以内に発症することや、1ヶ月以上経ってから発症することもあります。
皮膚への赤い湿疹やただれ、水ぶくれは大小さまざまで多数出現し、急速に広い範囲へと拡大していきます。一見、正常に見える皮膚でも、わずかな力を加えるだけで皮膚が剥がれてただれた面が露出することがあります。
くちびるや口の中、鼻の粘膜、陰部にも赤い発疹やただれがみられ、痛みをともないます。目は充血し、目やになどがでてきます。
皮膚や粘膜の症状は進行が非常に早く、急激に症状が悪化し、命に関わる重篤な状態になります。
38℃以上の高熱、目の充血、くちびるのただれ、のどの痛み、広範囲におよぶ皮膚の赤い湿疹やただれなどの症状がみられ、症状が持続したり、急激に悪化するような場合で、医薬品を服用している場合は、早急に医療機関を受診するようにしましょう。
中毒性表皮壊死症の検査・診断
中毒性表皮壊死症は、皮膚の広範囲に生じる赤い湿疹(紅斑)やただれ(びらん)、発熱などの臨床症状の有無により診断されます。
さらに、診断においては、似たような症状がみられる他の疾患(ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群、トキシックショック症候群、伝染性膿痂疹、急性汎発性発疹性膿疱症、自己免疫性水疱症など)を除外することも重要です。
診断を補助するための検査として、血液検査、尿検査、胸部や腹部の画像検査(CT)、皮膚の組織検査(皮膚生検)皮膚テスト(パッチテスト)などが行われることがあります。
血液検査や尿検査により、全身状態を把握することができます。皮膚の組織検査は、皮膚の一部を採取して顕微鏡でくわしく観察する検査で、前述の似たような症状がみられる他の疾患を除外するために有用な検査です。
中毒性表皮壊死症の治療
中毒性表皮壊死症の治療の第一は、原因となっている医薬品を速やかに中止することです。皮膚や粘膜の症状を抑える治療に加え、皮膚症状のある部分からの感染予防、輸液や栄養管理による全身の管理、厳重な眼科的管理が必要となるため、入院して治療を行います。
薬物治療では、早期に副腎皮質ステロイド薬の全身療法が効果を期待できるとされています。ステロイド薬の全身療法では、症状が進行しなくなったあとに慎重に減量します。
重症の場合は、発症から早い段階(7日前後)に高用量のステロイド薬を短期間集中して投与する「ステロイドパルス療法」が行われることがあります。症状に応じて、血漿を入れ替えるような(血漿交換療法)や免疫グロブリン製剤を大量に投与する治療(免疫グロブリン製剤大量静注療法)などの治療法も併用されます。
中毒性表皮壊死症は、致死率が20〜30%と重篤な病気ですが、早期に適切な治療を行うことにより回復が期待できる病気です。
中毒性表皮壊死症になりやすい人・予防の方法
中毒性表皮壊死症は、小児から高齢者まであらゆる年代で、年齢を問わずに発症しています。発症には特定の遺伝子型(HLA遺伝子型)が関係している可能性が高く、この遺伝子型をもつ方は発症リスクが高いといえます。
医薬品や感染症が中毒性表皮壊死症の発症のきっかけとなり、感染症ではマイコプラズマ感染、ウイルス感染にかかった場合に中毒性表皮壊死症になりやすい傾向があるとされています。医薬品では、痛み止めや解熱剤(消炎鎮痛薬)、抗菌薬、抗けいれん薬、高尿酸血症治療薬などを使用している方が中毒性表皮壊死症に多いとされています。
発症リスクの高いほかの要因としては、HIV感染、自己免疫疾患などの基礎疾患が報告されています。
中毒性表皮壊死症の明確な予防方法は確立されていません。中毒性表皮壊死症を発症した場合は、原因となった医薬品の名前を必ず「お薬手帳」に記載しておくことが重要です。
関連する病気
- スティーブンス・ジョンソン症候群
- 薬剤アレルギー(薬疹)
- ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群
- トキシックショック症候群
- 伝染性膿痂疹
- 急性汎発性発疹性膿疱症
- 自己免疫性水疱症
参考文献
- 日本皮膚科学会ガイドライン 重症多形滲出性紅斑 スティーヴンス・ジョンソン症候群・中毒性表皮壊死症 診療ガイドライン 日皮会誌:126(9),1637-1685,2016
- 公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター 中毒性表皮壊死症(指定難病39)
- 厚生労働省 重篤副作用疾患別対応マニュアル 中毒性表皮壊死融解症(中毒性表皮壊死症)(ライエル症候群、ライエル症候群型薬疹)
- 公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター 概要・診断基準等 中毒性表皮壊死症
- 公益社団法人 日本皮膚科学会 Q1 「中毒性表皮壊死症」とはどんな病気ですか?
- 日本小児皮膚科学会 スティーヴンス・ジョンソン症候群・中毒性表皮壊死症