

監修医師:
西田 陽登(医師)
目次 -INDEX-
平滑筋肉腫の概要
平滑筋肉腫は、平滑筋になる細胞から発生する稀な悪性腫瘍です。
平滑筋は、自律神経の支配を受けてヒトの意思とは関係なく自動的に収縮する筋肉であり、主に消化管、血管、子宮や気道などの臓器の壁の中に存在します。主に中年から高齢の成人に発生し、女性よりも男性にやや多い傾向があります。良性の平滑筋腫(たとえば子宮筋腫)とは異なり、平滑筋肉腫は進行が早く、他臓器に転移する可能性があり、生命にも影響を及ぼすことがあります。
平滑筋肉腫の原因
平滑筋肉腫の明確な原因はまだ完全には解明されていません。しかし、以下の要因が発症リスクを高める可能性があると考えられています。
遺伝的要因
DNA修復遺伝子や腫瘍抑制遺伝子の異常が関与する可能性があります。
外的要因
放射線被曝や化学物質への長期的な曝露が関連することがあります。
基礎疾患
まれながら、特に子宮筋腫などの良性の平滑筋腫がもともとあった場合や免疫不全状態を持つ患者さんで悪性化することが報告されています。
これらの要因が平滑筋に分化する細胞の異常な増殖を引き起こし、最終的に悪性腫瘍へと進行すると考えられています。
平滑筋肉腫の前兆や初期症状について
平滑筋肉腫の症状は、発生部位や腫瘍の大きさによって大きく異なります。腫瘍が小さな初期段階では無症状であることも多いため、症状が出現した時には病気が進行していることもあります。そのため、以下に部位ごとの主な症状を挙げます。
子宮(子宮平滑筋肉腫)
女性では子宮に発生する平滑筋肉腫が最も一般的です。多くが最初から悪性である平滑筋肉腫と言われていますが、まれに良性の平滑筋腫から発生するものあると言われています。子宮に平滑筋肉腫ができた場合、不正出血、月経量の増加などの子宮に関連した症状が認められ、腹痛や骨盤部の痛み、腫瘍による圧迫感を伴うこともあります。
血管(血管平滑筋肉腫)
静脈や動脈の壁の平滑筋細胞から発生するものを言います。血管は全身に張りめぐらされているため、四肢に多いと言われていますが、腫瘍の発生部位は全身の多岐にわたります。まれながら、上大静脈や下大静脈などの大きな血管からも発生することがあります。腫瘍ができた位置に腫瘤を触れたり、血行障害による浮腫や疼痛を認めたりすることがあります。
消化管(消化管平滑筋肉腫)
胃や腸の壁にある平滑筋細胞が腫瘍になります。消化管に関連した症状が認められ、腹痛や吐き気などの腸管が詰まる(腸閉塞)ことによる症状や腫瘍からの出血によって便に血が混じることもあります。
皮膚(皮膚平滑筋肉腫)
立毛筋などの皮膚にある平滑筋細胞が腫瘍になることがあります。症状としては主に四肢に腫瘤を形成し、痛みのない腫瘤や痛みを伴う腫瘤を形成します。
軟部組織(軟部平滑筋肉腫)
体幹の筋肉内や筋肉・組織の間を中心に発生しますが、全身のどの部位にも発生します。発生部位によって症状や診断の手法が異なるため、部位ごとに適切な対応が必要です。主に痛みのない腫瘤を形成し、腫瘍が深部に発生するため、大きな病変として発見されることが多くなります。周囲の組織を圧迫したり、周囲組織へ浸潤したりすることで運動障害や痛みを伴うことがあります。後腹膜と呼ばれる体幹の深部に発生した場合、周囲の組織に浸潤しやすいため、早期の段階での発見が難しくなったり、再発・転移の原因になったりすることがあります。なお、軟部平滑筋肉腫は腹部・骨盤部への転移も多いと言われています。
これらの症状が現れたときは消化器内科を受診しましょう。
平滑筋肉腫の検査・診断
平滑筋肉腫の診断には以下のステップが含まれます。
問診・身体診察
症状や既往歴を確認し、腫瘍の有無を身体的に評価します。
画像検査
超音波検査
腹部や骨盤内の腫瘍の評価に有用です。
CT(コンピュータ断層撮影)
腫瘍の位置・大きさや転移の有無を詳しく評価します。
MRI(磁気共鳴画像)
腫瘍の周囲組織への浸潤や詳細な軟部構造を把握するために利用します。
病理検査
生検
腫瘍の一部を採取し、顕微鏡で悪性の腫瘍細胞の有無を確認します。
免疫組織化学染色
平滑筋肉腫に発現している特有のマーカー(デスミンやα-平滑筋アクチン)の有無を調べます。
平滑筋肉腫が転移・再発しやすいかどうかは、腫瘍細胞の特徴に大きく影響されます。以下に、特に転移や再発リスクが高い組織像の特徴を解説します。
1. 細胞密度の増加(富細胞性)、高度な細胞異型
腫瘍細胞の密度が非常に多い場合、悪性度が高く、転移の可能性が高まります。また、腫瘍細胞が通常の腫瘍細胞と比較しても異常な形態を示す場合、悪性度が高いとされています。この場合、腫瘍の増殖・浸潤能力が高く、遠隔転移や再発のリスクが上昇します。
2. 高い核分裂像(有糸分裂像の増加)
腫瘍細胞が分裂している様子(有糸分裂像)が多数観察される場合、増殖速度が非常に高いことを示します。そのため転移しやすい傾向があります。これを反映するマーカーとして、免疫組織化学的手法によるKi67タンパクの確認があります。
3. 壊死の存在(腫瘍性壊死)
腫瘍内部で壊死が見られる場合、悪性度が高いとされます。これは腫瘍が急速に増殖して中心部で血流が不足するために起こると考えられます。そのため、転移や再発のリスクが高いことを示唆します。
4. 腫瘍のサイズや位置
腫瘍の大きさや位置も転移・再発の予測因子となります。腫瘍の大きさが10cmを超える場合や、特に腫瘍が後腹膜に位置する場合には腫瘍の悪性度が高く、再発・転移のリスクも増大します。
平滑筋肉腫の治療
治療法は腫瘍の発生部位、大きさ、ステージ、患者の全身状態に応じて異なります。一般的な治療法は以下の通りです。
外科的切除
腫瘍の完全切除が可能であれば最も効果的な治療法です。子宮平滑筋肉腫の場合、子宮全摘術が行われることもあります。なお、腫瘍が大きな場合は完全な切除が困難となることがあり、それによって体の中に腫瘍が残ってしまうと、腫瘍の再発の原因になります。
放射線治療
手術が難しい場合や術後再発リスクを減らす目的で行われます。局所的な腫瘍制御に有効です。
化学療法
ドキソルビシンやイホスファミドといった薬剤が使用されます。転移性腫瘍や再発例で用いられることが多くなります。四肢発生の場合は比較的化学療法が効きやすいと言われています。
平滑筋肉腫になりやすい人・予防の方法
なりやすい人
原因がはっきりしていないため、リスクの高い人を明らかにする方法もはっきりしていませんが、子宮筋腫など平滑筋由来の良性腫瘍を持つ人、放射線治療の既往歴がある人、遺伝的要因(家族歴)のある人は平滑筋肉腫のリスクがその他の人よりも高い可能性があります。
予防方法
明らかな原因が不明であるため完全な予防策はありませんが、以下の点に注意することで早期発見・治療につながります。
定期検診
子宮や消化管の腫瘍の早期発見が可能です。また、体の表面からみて、しこりや腫瘤を認めた場合は、早期の病院受診をお勧めします。
危険因子の回避
化学物質や放射線への不要な暴露を避ける。
健康的な生活習慣
バランスの取れた食事と適度な運動により全身の健康状態を保つ。
関連する病気
- 子宮筋腫
- 遺伝性がん症候群(Li-Fraumeni症候群)
- 放射線照射後の肉腫




