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日本住血吸虫症
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

日本住血吸虫症の概要

日本住血吸虫症は、日本住血吸虫という寄生虫がミヤイリガイを中間宿主として人に感染することで発症します。淡水中の幼虫 (セルカリア) が皮膚を通じて体内に侵入し、門脈に寄生して成虫となります(参考文献 1) 。
初期症状としてはセルカリア皮膚炎と呼ばれる皮膚のかゆみや発疹に加えて、感染後1か月ほどで発熱、じんましん、下痢、咳といった症状が現れます (参考文献 1) 。進行すると肝機能低下や腹水、門脈圧亢進症、腸閉塞などの重篤な症状が出現します (参考文献 1, 2) 。
糞便検査や腸の粘膜生検で虫卵の存在を証明することで診断し、プラジカンテルという薬剤を軸に治療していきます (参考文献 1) 。
日本では日本住血吸虫症の撲滅が宣言されていますが、中国や東南アジアの一部地域では依然として感染リスクがあり、アフリカなどでは他の住血吸虫への感染リスクがあるため、これらの地域での淡水との接触を避けることが予防につながります。

日本住血吸虫症の原因

日本住血吸虫は「住血吸虫」と呼ばれる寄生虫の一種です。この寄生虫はヒトに感染すると静脈内に寄生するため、「血に住む虫」ということで住血吸虫と呼ばれています。

日本住血吸虫はミヤイリガイという巻貝を中間宿主として、人に感染します (参考文献 1) 。淡水中を泳いでいる日本住血吸虫の幼虫 (セルカリア) が人の皮膚を貫通して、人の血中に侵入することが主な感染経路として知られています (参考文献 1) 。
人に感染した日本住血吸虫の幼虫は、腸からの栄養を肝臓に送る門脈という重要な血管に住みつき、成虫になります (参考文献 1) 。

日本住血吸虫は腸の内側に産卵し、その卵が孵化することで増殖しますが、この卵が血流に乗って移動し、肝臓をはじめとした全身の臓器にダメージを与えます (参考文献 2) 。放置すれば病状の悪化により、患者は死に至ります

日本住血吸虫症の前兆や初期症状について

皮膚から侵入した後にセルカリア皮膚炎と呼ばれる痒みを伴う皮膚症状が現れる場合があります (参考文献 1) 。感染後1か月程度経過した後から発熱や蕁麻疹、下痢、咳を生じることがあります (参考文献 1) 。

このような初期症状の後、徐々に肝臓の機能が低下してきます。お腹に水が溜まる腹水や、卵が詰まることで門脈の圧力が上がる門脈圧亢進症が生じます (参考文献 1) 。その結果、臍周辺の静脈が浮き上がったり、食道の静脈が張れて食道静脈瘤や吐血といった症状が出てきます。

腸に産卵された卵により腹痛・下痢といった症状が出ますが、進行すると腸が詰まってしまう腸閉塞という状態になることがあります (参考文献 1) 。

日本住血吸虫症の検査・診断

診断には、糞便検査による寄生虫卵の検出が最も一般的です。糞便中の卵を顕微鏡で確認することで、感染を確定します (参考文献 1) 。腸の粘膜を生検して顕微鏡で虫卵の有無を確かめる場合もあります。

その他、現代であればCTエコーなどの画像検査で、門脈や肝臓の状況を視覚的にチェックすることも有用であると言えるでしょう。

日本住血吸虫症の治療

現代では住血吸虫全般の治療として、プラジカンテルという抗寄生虫薬が一般的に使用されます (参考文献 1) 。
肝臓をはじめとした臓器症状に対しては、各種対症療法を併用していきます。

日本住血吸虫症になりやすい人・予防の方法

日本住血吸虫は「日本」の名前が入っているので日本で感染しやすいと思われるかもしれませんが、実は日本では撲滅が宣言されています
以前は山梨県甲府盆地、広島県旧神辺町周辺、筑後川流域の3つの流行地域があり、甲府盆地では古くから地方病として恐れられていました。
先人たちが日本住血吸虫がヒトに感染するメカニズムを突き止め、中間宿主であるミヤイリガイを全国各地で駆逐した結果、日本住血吸虫症は日本において根絶されました。
したがって、日本住血吸虫に感染する可能性は、普段日本で生活している分には限りなく低いといってよいでしょう。

しかしながら、住血吸虫症全体でみたときには世界中で年間2億人の感染者2万人の死者がいるのではないかと言われています (参考文献 1, 2) 。
アフリカと中国や東南アジアの一部地域では住血吸虫感染のリスクがあることが知られています (参考文献 3) 。中国の揚子江流域やフィリピン、インドネシアのスラウェシ島では未だ日本住血吸虫が生息しているとされています (参考文献 1) 。
これらの地域の淡水近くでのアクティビティやボランティア活動をする人は、住血吸虫への感染リスクが比較的高いといえるでしょう。

塩素が加えられたプールの水は感染の恐れはありませんが、川や湖などの淡水に接触すると感染が成立するリスクがあります (参考文献 3) 。感染リスクのある国や地域を訪れる際には不用意に淡水に直接触れないように注意しましょう。

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