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慢性肉芽腫症
山本 佳奈

監修医師
山本 佳奈(ナビタスクリニック)

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滋賀医科大学医学部 卒業 / 南相馬市立総合病院や常磐病院(福島)を経て、ナビタスクリニック所属/ 専門は一般内科

慢性肉芽腫症の概要

慢性肉芽種症(まんせいにくげしゅしょう)は、生まれながらに免疫が低下する「先天性免疫異常症(原発性免疫不全症)」とよばれる疾患のひとつです。

この病気では、人体の免疫機能で重要な役割を果たしている白血球の一部が、正常な機能を失います。

発症すると、通常であればあまり感染症を起こさない細菌や真菌に対しても感染しやすくなります。また、感染症の治療に時間がかかり、重症化する恐れもあります。
体表や体内を問わず、全身のいたるところに「肉芽(にくげ)」と呼ばれる肉のこぶが発生しやすいことが、病名の由来となっています。患者の多くは炎症性腸疾患(慢性肉芽腫症腸炎)を発症することも知られています。

慢性肉芽腫症は、ほとんどの場合小児期までに診断されます。治療は難しいものの、適切な環境と薬剤で感染症を予防できれば、症状の影響を抑えて生活することもできます。近年では患者の約4割が成人期に達することができるとの報告もあります。

ただし重症例ではきわめて予後が悪いことも知られています。造血幹細胞移植などの移植術によってのみ根治の可能性があり、新しい治療法も研究されています。

慢性肉芽腫症は、先天性免疫異常症の中では最も多く報告されている病気ではあるものの、とてもまれな病気といえます。

出典:公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター 原発性免疫不全症候群(指定難病65)

慢性肉芽腫症

慢性肉芽腫症の原因

慢性肉芽腫症の原因は、遺伝子の変異であることが判明しています。患者は先天的な遺伝子異常により、白血球の働きが弱くなったり、失われたりします。この病気を引き起こす原因遺伝子についても、数種類が特定されています。

人の身体に侵入した細菌や真菌などの病原体を排除するためには、免疫機能を担う白血球が正常に機能する必要があります。しかし、慢性肉芽腫症を発症した場合、好中球、単球、マクロファージといった白血球の機能の一部が失われます。

白血球は、体内に侵入してきた病原菌を殺菌するため、酵素を使って活性酸素を生成しています。慢性肉芽腫症では、生まれつきの遺伝子異常によって、この活性酸素の生成が阻害されることがわかっています。

慢性肉芽腫症の前兆や初期症状について

慢性肉芽腫症は先天性疾患であるため、家族歴などにより遺伝子異常が判明しているケースを除くと、発症を前兆として知ることはできません。

感染症へのかかりやすさなどから、乳幼児期までに診断に至るケースが多いため、感染症への罹患が初期症状となるほか、肉芽腫や肉芽腫性腸炎が特徴的な症状として知られています。

感染症

慢性肉芽腫症では、小児(とくに乳児期)から繰り返し感染症にかかりやすく、治りにくいという特徴があります。
一般的な感染症にかかりやすくなるほか、通常、あまり感染症を引き起こさないとされている細菌や真菌に対しても感染しやすくなります。

具体的には、発熱や咳(肺炎)、リンパ節の腫れ、下痢のほか、皮膚の腫瘍、肛門周囲の腫瘍などの症状を繰り返しやすく、重症化もしやすくなります。なお、慢性肉芽腫症では細菌や真菌に感染しやすくはなるものの、ウイルスに対する免疫力は低下しないため、ウイルスによる感染症が治りづらくなることはありません。

肉芽腫

慢性肉芽腫症では、リンパ節や肝臓、肺、皮下、膵臓、網膜などの臓器を含む全身に「肉芽腫」といわれる、特徴的なこぶのようなものができやすくなります。

通常、肉芽組織とは病原体の周りに活性化した白血球が集まったときに形成されるものです。しかし白血球の機能が弱まるこの病気では、白血球が活性化しても病原体を排除できない状態が続き、過剰に肉芽組織が作られ続けた結果、肉芽腫となります。肉芽腫ができると抗生剤の効果が弱くなることや、周りの正常な組織が圧迫されて臓器が正常に機能しなくなることがあります。

肉芽腫性腸炎

慢性肉芽腫症の約半数は、炎症性の腸炎(肉芽腫性腸炎)を合併することが知られています。腹痛、下痢、血便、発熱などの症状が数週間続く場合は肉芽腫性腸炎を疑います。

慢性肉芽腫症の検査・診断

「繰り返し感染症にかかる」「リンパ節や肺、皮膚などへの肉芽腫の形成がみられる」などの臨床症状がある場合、慢性肉芽腫症を疑います。診断には、好中球が活性酸素を生成する能力を測定する血液検査が行われます。病原体の殺菌能が低下していることが検査で確認されれば、慢性肉芽腫症と診断されます。

また、確定診断のために遺伝子検査がおこなわれる場合もあります。遺伝子検査で慢性肉芽腫症の原因遺伝子に異常が認められた場合、慢性肉芽腫症の診断が確定します。

慢性肉芽腫症の治療

慢性肉芽腫症の治療には、大きく分けて「感染症を予防する治療」「感染症にかかった場合の治療」「慢性肉芽腫症を根治する治療」の3つがあります。

感染症を予防する治療

慢性肉芽腫症は細菌や真菌(カビ)による感染症にかかりやすくなるため、日常的に抗生剤や抗真菌薬などの予防薬を内服する必要があります。比較的症状が軽いケースでは、医師の指導のもと、感染症予防にじゅうぶん留意することで、普通の人とあまり変わらない生活を送ることもできます。

感染症にかかった場合の治療

感染症にかかった場合は、抗生剤や抗真菌剤の内服で治療します。抗生剤や抗真菌薬などを服用しても症状の悪化がみられる場合、入院して抗生剤や抗真菌薬の点滴治療を行い、症状が落ち着いたら予防薬を再開します。
また、肉芽腫に関係する症状が重い場合は、ステロイドなどで炎症を抑えて肉芽腫を小さくすることや、手術による切除を試みることがあります。

慢性肉芽腫症を根治する治療

慢性肉芽腫症を完全に治す治療には、骨髄移植(造血幹細胞移植)などが知られています。造血幹細胞移植とは、適合するドナーから慢性肉芽腫症の患者(レシピエント)に造血幹細胞を移植し、身体に定着させることで病気を治す治療法です。
白血球などの血液細胞は造血幹細胞から生み出されているため、造血幹細胞が定着すれば健康な白血球が増え、白血球の働きが回復することで免疫機能の改善が期待できます。

また、海外では遺伝子治療による新しい治療の試みもあります。遺伝子治療は、慢性肉芽腫症の原因遺伝子を正常な遺伝子で補ったり、遺伝子そのものを修復したりする治療です。この治療では、患者本人の造血幹細胞を取り出し、正常な遺伝子を組み入れて身体に戻すため、ドナーを必要としない点がメリットとされています。

慢性肉芽腫症になりやすい人・予防の方法

慢性肉芽腫症は遺伝性疾患の側面も持ちます。慢性肉芽腫症の家族歴がある場合は慢性肉芽腫症になるリスクが高いといえます。
慢性肉芽腫症の原因遺伝子にはすでに特定されているものが複数あるため、家族歴の有無に関わらず、遺伝子検査を活用すれば、潜在的なリスクの確認ができる場合はあります。

しかし、現在のところ慢性肉芽腫症の発症そのものを予防することは難しく、明確な予防方法は確立されていません。


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