

監修医師:
林 良典(医師)
レジオネラ症の概要
レジオネラ症は、Legionella pneumophila(レジオネラ・ニューモフィラ)という細菌によって引き起こされる感染症で、大きく二つの病態に分類されます。一つは急速に進行する肺炎である「レジオネラ肺炎」、もう一つは軽症のインフルエンザ様症状を呈する「ポンティアック熱」です。
この病名の由来は、1976年にアメリカのフィラデルフィアで開かれた退役軍人の大会(legionnaire)で発生した集団感染に遡り、新たに発見された感染症として「レジオネラ」と命名されました。
レジオネラ肺炎は、特に免疫機能が低下している高齢者や喫煙者、糖尿病や慢性呼吸器疾患を持つ人々において重症化しやすい特徴を持っています。感染後、数日以内に急速に悪化し、肺炎が進行して呼吸困難や胸痛、さらには多臓器不全に至るケースもあるため、迅速な診断と治療が必要です。一方、ポンティアック熱は、レジオネラ肺炎と異なり肺炎には至りませんが、発熱、倦怠感、筋肉痛などの症状が見られます。通常は自然に軽快し、数日以内に回復します。
日本国内でも毎年レジオネラ肺炎の発症例が報告されており、特に湿度と気温が上昇する夏から秋にかけて感染者が増える傾向がみられます。感染リスクが高いのは、公共施設や医療施設、温泉施設、冷却塔などであり、これらの施設ではレジオネラ菌の繁殖を防ぐための衛生管理が特に重要です。今回は、重症化のリスクが高いレジオネラ肺炎に焦点を当て、その原因や症状、診断・治療方法、さらに感染を予防するための対策について詳しく解説します。
レジオネラ症の原因
レジオネラ症は、Legionella pneumophila(レジオネラ・ニューモフィラ)という細菌が原因となる感染症です。この細菌は特に温水環境を好み、25℃〜45℃の温度帯で活発に増殖します。高湿度で温暖な環境に生息し、冷却塔、温泉、温水タンク、シャワーといった施設や設備に多く存在します。レジオネラ菌は単細胞の微生物であるアメーバに寄生し、アメーバの内部で増殖することにより、外部からは目視で確認できない形で繁殖します。
こうして増殖したレジオネラ菌は、エアロゾル(微細な水しぶき)として空気中に放出され、人間がそれを吸い込むことで感染が成立します。
感染リスクが高まるのは、冷却塔や空調システム、温水設備の管理が不十分な場合です。冷却塔などは高湿度と温水環境が整っており、レジオネラ菌が繁殖しやすいため、定期的な点検や消毒が欠かせません。もし消毒や清掃が適切に行われないと、菌が増殖してエアロゾルとして空気中に放出され、その空気を吸い込むことで周囲に感染が広がります。
なお、レジオネラ菌は健康な成人が感染しても必ずしも症状が出るわけではありませんが、特に注意が必要な人々もいます。
免疫力が低下している人々(高齢者、喫煙者、糖尿病、慢性呼吸器疾患、心疾患などの持病がある方)は感染後に症状が急速に進行しやすく、重篤化するリスクが高まります。<特に免疫抑制剤を服用している方や、慢性疾患により免疫が弱っている方は、感染予防が重要です。
レジオネラ症の前兆や初期症状
レジオネラ症の初期症状は、一般的な風邪やインフルエンザに似た症状が多く見られます。
はじめに発熱、頭痛、筋肉痛、倦怠感(体のだるさ)が現れ、発熱は急激に38℃以上に達することが多いです。その後、乾いた咳や呼吸困難が現れることが多く、場合によっては痰を伴います。痰は膿性であったり、オレンジ色を呈することがあります。オレンジ色の痰というのがこの疾患に特徴的です。
病状が進行すると、息切れや胸痛も伴うことがあります。特に、呼吸困難が悪化すると酸素が不足し、胸部に圧迫感や息苦しさを感じるようになります。このような症状が現れた場合、通常の風邪やインフルエンザとは異なり、急速に状態が悪化する可能性が高いため、早期の医療機関受診が必要です。特に、レジオネラ症が疑われる場合は、感染症内科や呼吸器内科などの専門的な診療科を受診することが推奨されます。
レジオネラ症の検査・診断
レジオネラ症の診断には複数の検査方法が用いられ、迅速かつ正確な診断が重視されます。最も一般的な方法は「尿中レジオネラ抗原検査」で、レジオネラ菌が産生する抗原を尿中で検出するものです。この検査は感度が高く、感染が疑われる段階で早期診断が可能なため、初期対応において有効とされています。
加えて、血液検査もレジオネラ症の診断に有用です。血液検査では、炎症反応として白血球数の増加やC反応性タンパク(CRP)の上昇が観察されます。また、レジオネラ感染に特徴的な所見として、肝機能の異常や低ナトリウム血症が見られる場合があり、これらのデータが診断の補助となります。
さらに、画像診断も病変の広がりを確認するために使用されます。胸部X線検査では、片側または両側の肺に浸潤影(炎症の広がり)が確認されることがあり、CTスキャンによって詳細な肺の状態や浸潤部位の広がりをより明確に把握できます。
また、確定診断のために喀痰培養や血液培養でレジオネラ菌を同定も行います。これらの検査には時間がかかるため、尿中抗原検査や血液検査の所見から疑い初期治療を開始していることがほとんどです。その後に、この結果を踏まえて最終的な診断を下します。
レジオネラ症の治療
レジオネラ症の治療は、細菌の増殖を抑制する抗生物質が中心となります。
レジオネラ菌は細胞内で増殖するため、細胞内浸透性の高い薬剤が効果的です。第一選択薬にはマクロライド系抗生物質(アジスロマイシンなど)やキノロン系抗生物質(レボフロキサシンなど)が使用され、菌の増殖を抑えるとともに、病状の悪化を防ぐために早期投与が行われます。
治療期間は通常1〜2週間程度で、症状の経過に合わせて抗生物質の投与方法や量を調整します。
特に急性期には点滴による投与が行われ、症状が安定してきた場合には経口薬へと切り替えることが一般的です。また、肺炎症状が重篤な場合には、酸素療法や人工呼吸器を用いたサポートも行われることがあります。
レジオネラ症になりやすい人・予防の方法
レジオネラ症になりやすい人は、免疫機能が低下している人々です。特に高齢者、喫煙者、または糖尿病や心疾患、肺疾患などの慢性疾患を持つ人は感染しやすく、症状が重篤化するリスクが高いとされています。また、免疫抑制薬を使用している患者さんや、がん治療を受けている患者さんも注意が必要です。
レジオネラ症の予防としては、レジオネラ菌が好む温水設備や冷却塔の適切な管理が最も重要です。特に公共施設や医療施設では、冷却塔の水の循環や温水タンクの定期的な消毒、シャワー設備の清掃が必要です。また、個人レベルでは、湿度の高い施設やエアロゾルを発生させる可能性のある施設での長時間の滞在を避けることも予防策として有効です。
このように、レジオネラ症の予防には、公共施設や医療施設における衛生管理の徹底が不可欠です。
関連する病気
- 肺炎
- 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
参考文献