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監修医師:
林 良典(医師)
目次 -INDEX-
トキソプラズマ症の概要
トキソプラズマ症は、トキソプラズマ(Toxoplasma gondii)という寄生虫による感染症です。この寄生虫は主にネコ科動物を終宿主(最終的に寄生する宿主)とし、ほかの動物や人間に感染することがあります。トキソプラズマは世界中に広く分布しており、特に発展途上国では感染率が高いとされています。猫の糞との接触、生の肉や加熱が不十分な肉の摂取、汚染された食べ物や水の摂取などによって感染を起こします。この寄生虫を保有していても多くの人では症状が現れないことが一般的ですが、妊娠中の女性や免疫力が低下している方にとっては重篤な健康問題を引き起こすことがあります。
トキソプラズマ症の原因
トキソプラズマ症の主な原因は、Toxoplasma gondiiという寄生虫です。この寄生虫が体内に入り込む経路にはいくつかのものがあり、以下が主な感染経路です。
猫の糞との接触
猫はトキソプラズマ寄生虫の最終宿主で、糞と一緒に卵(オーシスト)を排出します。猫の糞や、それが混ざった土に触れた後に手洗いを十分に行わないと感染する可能性があります。
加熱不十分な肉
豚、羊、牛などの動物の筋肉内に寄生虫が潜んでいることがあり、これらの肉を生または加熱が不十分な状態で摂取すると感染する恐れがあります。
汚染された食べ物や水
猫の糞で汚染された水で洗われた果物や野菜、または未処理の水を飲むことにより感染することがあります。
妊娠中の母子感染
妊婦が感染すると、胎盤を通じて胎児に感染が伝わることがあります。これを先天性トキソプラズマ症と呼びます。
臓器移植や輸血
稀ですが、感染した臓器や血液が移植されることで感染する場合があります。これらの原因を理解することは、感染を防ぐための予防策を講じるために役立ちます。
トキソプラズマ症の前兆と初期症状
Toxoplasma gondiiに感染しても多くの場合は無症状ですが、症状が出る場合には風邪のような軽い感染症と似た症状が見られることがあります。以下はトキソプラズマ症の一般的な症状です。これらの症状が現れた際はまずは一般内科や感染症科を受診しましょう。
風邪に似た症状
発熱、頭痛、筋肉痛、倦怠感が挙げられます。リンパ節の腫れもみられることがあります。
目の異常
目に感染が広がると、視界がぼやける、目が痛む、光に敏感になり眩しく感じる、といった症状が現れることがあります。これは眼トキソプラズマ症と呼ばれる状態です。
重篤な症状(低免疫状態の方において)
HIV/AIDSのように免疫力が低下している方は、意識障害、運動機能の低下、深刻な呼吸器症状など、より深刻な症状が現れる可能性があります。
先天性トキソプラズマ症
母親が妊娠中に感染すると、トキソプラズマ症の感染が胎児に伝染する可能性があります。感染は胎盤を介して胎児に広がります。ほとんどの場合、母親の感染は軽度なので、感染したこと自体に気づいていません。しかし、胎児の感染は死産や自然流産をはじめ、視力障害や脳性麻痺などの深刻な影響を起こします。
まず妊娠中にトキソプラズマ症に感染した胎児は、最大で半数ほどが早産になり、低出生体重で産まれてきます。目、脳神経系、皮膚、耳にも損傷を起こしている可能性があります。知的障害や脳性麻痺といった生涯にわたる障害の原因ともなります。出生時に多くの場合で感染を疑う兆候を認めますが、感染が軽度だった場合は出生から数年後まで症状が現れない場合もあります。
トキソプラズマ症の検査・診断
トキソプラズマ症の診断には、いくつかのステップが含まれます。
1. 病歴の確認
医師は、症状や猫との接触、生の肉の摂取など感染リスクのある状況について質問します。
2. 身体検査
リンパ節の腫れやその他の感染の兆候がないか、体の各所を調べます。
3. 血液検査
抗体の有無を調べるための血液検査が行われます。
通常はIgM抗体(最近の感染)とIgG抗体(過去の感染)の両方を測定します。
4. 画像診断
神経症状や目の問題がある場合、CTスキャンやMRIなどの画像検査を行い、
感染を疑う所見があるかどうか確認します。
5. 眼の検査
眼トキソプラズマ症が疑われる場合は、眼科医による目の検査が行われます。
早期診断はトキソプラズマ症の効果的な治療と管理にとって重要です。
トキソプラズマ症の治療
多くの健康な人は特別な治療を必要としませんが、免疫力が低下している方や重症の方には治療が必要です。
薬物療法
薬物治療としては、ピリメタミンにスルファジアジンとロイコボリンを加えた3つの薬剤を併用する方法がもっとも有効性が高く第一選択とされています。スルファジアジンは硫黄を含むため、サルファアレルギーが理由でピリメタミンが使えない場合は、代わりにクリンダマイシンを用います。このほか、ST合剤と呼ばれるトリメトプリム-スルファメトキサゾールが使われることもあります。
これらの薬は寄生虫体内の代謝経路を抑える作用がありますが、組織内で被嚢化(保護膜に覆われた状態)した寄生虫には効果がないため駆除できません。
妊婦への治療
妊娠中に診断された場合は、胎児への感染リスクを減らすため、妊娠週数に応じた治療法が選ばれます。ピリメタミンは先天異常を引き起こす可能性があるため、第1三半期(おおむね妊娠14週未満)では使用されません。トキソプラズマ症が母親から胎児に感染するのを予防するため、第1三半期でスピラマイシンが使用されることがあります。
新生児への治療
出生前に胎児の時点でトキソプラズマ感染が確認された児に対しては、出生から1年間ピリメタミン、スルファジアジン、ロイコボリンを投与します。
眼トキソプラズマ症
眼にトキソプラズマが感染した場合は、病変の急性度、炎症の程度、視力、病変の大きさ、場所、持続性など、さまざまな要素を考慮する必要があるため、全例で眼科専門医による評価や治療が必要です。眼トキソプラズマ症の管理は施設によっても異なりますが、通常は炎症を抑えるため抗寄生虫薬とコステロイドを投与します。
経過観察
回復状況を確認し、感染による長期的な影響を管理するためには定期的な診察が重要です。
トキソプラズマ症になりやすい人・予防の方法
トキソプラズマ症になりやすい人
トキソプラズマ症で重篤な合併症が生じやすいのは、以下のような方々です。
妊婦
妊娠中の感染は母子ともにリスクがあり、特に妊娠初期に感染すると重篤な合併症の可能性が高まります。
免疫力が低下している方
HIV/AIDSの方や化学療法を受けている方は重症化の高リスクです。
新生児
妊娠中に感染した母親から生まれた赤ちゃんは、早期のケアが必要です。
予防の方法
1. 妊娠中の猫との接触を控える
妊娠中はネコとの接触を可能な限り控えることが先天トキソプラズマ症の予防に重要です。
2. 衛生習慣を徹底する
猫のトイレや土に触れた後はしっかり手を洗いましょう。食事の準備前や食べる前にも必ず手洗いを行いましょう。ガーデニングや猫のトイレ掃除を行う際には手袋を使用しましょう。
3. 肉をよく加熱する
肉を安全な温度(中心温度は67℃以上)まで加熱し、加熱不足の肉の摂取を避けましょう。
4. 果物や野菜をよく洗う
果物や野菜は流水でしっかりと洗い、皮がある場合はむいてから食べるとより安全です。
5. 妊娠前に抗体検査を受ける
妊娠を希望する女性は、特にネコを飼っている場合、妊娠前もしくは確認直後に抗体検査を受けておきましょう。
関連する病気
- 先天性トキソプラズマ症
- 免疫不全患者におけるトキソプラズマ脳症