監修医師:
井林雄太(田川市立病院)
目次 -INDEX-
チャージ症候群の概要
チャージ症候群は、厚生労働省が難病に指定している先天性の多発奇形症候群で、主に特定の遺伝子の異常によって引き起こされます。最近はCHD7遺伝子疾患という呼び方が普及しつつありますが、体のさまざまな部分に特徴的な症状が現れる特徴から、主要な症状の頭文字を取ってチャージ(CHARGE)症候群と名前がつけられました。名前の由来となった具体的な症状は以下の通りです。
- C: コロボーマ(網膜の部分欠損)
- H: 先天性心疾患
- A: 後鼻孔閉鎖(鼻の後ろが閉じている状態)
- R: 成長障害・発達遅滞
- G: 外性器や尿路系の異常
- E: 耳の形態異常や聴力障害
この病気について日本で実施された調査によると、出生児20,000から30,000人に1人程度の発生頻度と推測されています。ここから逆算すると、日本では毎年30〜50名程度の新規患者が生まれていると推測されますが、診断を受けた患者数はずっと少ないため、多発先天異常として扱われたまま診断されていない方が多数いると考えられています。男女差はないとされています。
チャージ症候群の原因
チャージ症候群の大部分、およそ70%は、8番染色体上に位置するCHD7遺伝子の変異によって引き起こされます。この遺伝子は、細胞内でDNAと結合するタンパク質を作り出す役割を持っており、胎児の発生過程で必要な遺伝子発現を調節しています。CHD7遺伝子に異常が生じると、正常な発育が妨げられ、多様な奇形が生じることになります。
多くの場合、この遺伝子変異は突然変異で起こるので、チャージ症候群のお子さんに弟や妹が産まれたとしてもチャージ症候群であることは稀です。また、家族から受け継がれることは少ないですが、一部には常染色体優性遺伝形式で遺伝するケースもあります。また、CHD7遺伝子上に既知の変異が見つからないこともあり、その原因はほかの遺伝子異常や環境因子との関係が考えられています。
チャージ症候群の前兆や初期症状について
チャージ症候群にはさまざまな症状があり、その重症度や種類は個々によって異なります。以下に主な症状を詳しく説明します。
眼関連の症状
チャージ症候群では、眼に関する問題が約80〜90%の患者さんに見られます。特にコロボーマと呼ばれる網膜や脈絡膜、視神経乳頭などの組織欠損が一般的です。コロボーマは胎児期に眼が正常に形成されないことによって生じます。視力障害や視野欠損はコロボーマの大きさや位置によって異なり、軽度の障害からほぼ失明状態までさまざまです。
心臓関連の問題
先天性心疾患も多く見られます。約70%程度の患者さんには心臓に何らかの異常が認められます。これには心室中隔欠損や動脈管開存症などが含まれ、早期に評価し治療する必要があります。
後鼻腔閉鎖
膜や骨組織による後鼻孔閉鎖もしくは狭窄があります。口蓋裂の合併例も多く、その場合には後鼻孔閉鎖がありません。最近では、後鼻孔閉鎖よりも口唇口蓋裂の頻度の方が高く、診断上有用な所見と考えられているようです。
成長と発達
成長障害や発達遅滞はほぼ必発であり、生後すぐに顕著になります。一部では成長ホルモン分泌不全を伴うこともあります。これにより、身長や体重が正常範囲内で成長しない場合があります。
耳関連の問題
耳奇形や聴力障害も一般的です。耳介(耳たぶ)の形態異常や感音性難聴(音を聞く能力が低下する状態)が見られることがあります。このため、聴覚的な支援や補聴器などが必要になる場合があります。
その他の身体的特徴
外性器や尿路系にも異常が見られることがあります。例えば、停留精巣(精巣が陰嚢内に降りてこない状態)や尿道下裂(尿道が正常な位置からずれている状態)などです。また、顔面非対称や口唇口蓋裂なども合併することがあります。
気になる症状がある場合は、まずは小児科で相談することをおすすめします。
チャージ症候群の検査・診断
チャージ症候群を診断するためには、まず医師による詳細な問診と身体検査が行われます。特に家族歴や出生時の経過について確認されます。その後、以下のような検査が行われることがあります。
画像診断
心臓超音波検査(心エコー)やMRIなどで心臓や脳を評価します。
眼科検査
眼科医による視力検査や眼底検査を行い、コロボーマなど眼関連疾患を確認します。
遺伝子検査
CHD7遺伝子の変異を調べるために血液検査を行います。この検査によって確定診断が可能となります。
最終判断には、Blakeによる診断基準を用いるのが一般的です。特徴的な所見を大症状と小症状それぞれで集計し、規定の個数を超えた場合にチャージ症候群の診断を確定させます。ただし、基準を厳密に満たさない場合でも医師の判断で診断される可能性もあります。
大症状(4症状)
眼球コロボーマ・小眼球症、後鼻孔閉鎖・狭窄、耳奇形、中枢神経障害
小症状(7症状)
外陰部低形成、発達遅滞、心血管奇形、成長障害、口唇口蓋裂、気管食道瘻、特徴的な顔貌
早期診断は治療方針を決定する上で重要ですので、疑わしい兆候がある場合には速やかに専門医を受診することをお勧めします。
チャージ症候群の治療
チャージ症候群自体に特定の治療法はありませんが、多面的な医療管理が必要です。主な治療内容として以下があります。
心疾患への対応
先天性心疾患の場合には小児外科・心臓血管外科などで早期手術などで対応します。
成長管理
成長障害については栄養管理と成長ホルモン治療などを行うことがあります。
耳鼻科的対応
聴力障害には補聴器などを使用し、耳介形成手術なども考慮されます。
眼科的管理
視力訓練や必要に応じて手術を行います。また、定期的な眼科検査も重要です。
リハビリテーション
発達支援として理学療法や作業療法なども行われることがあります。
これらは患者さんごとに異なるため、多職種チームによる包括的なアプローチが求められます。
チャージ症候群になりやすい人・予防の方法
チャージ症候群は主に遺伝的要因によって引き起こされますが、大部分は突然変異による孤発例であるため、特定のリスクグループは明確ではありません。また、この病気自体は性差なく発生します。
予防の方法
チャージ症候群自体は先天的な疾患であるため完全な予防策はありません。しかし、一部には妊娠中の母親による健康管理や適切な医療ケアが重要です。具体的には以下の点に注意してください。
妊娠中の健康管理
妊婦さんはバランスの取れた食事を心掛けることとともに、適切なサプリメント(葉酸など)を摂取することで胎児への影響を軽減できます。
定期的な妊婦健診
妊娠中は定期的に医療機関で健診を受けることで早期発見につながります。
家族歴への理解
家族内で同様の疾患歴がある場合には専門医との相談を行いリスク評価を受けることも有効です。
関連する病気
- 心奇形(Congenital Heart Defects)
- 難聴(Hearing Loss)
- 眼の異常(Ocular Abnormalities)
- 成長障害(Growth Retardation)
- 呼吸器異常(Respiratory Abnormalities)
参考文献