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SAPHO症候群
副島 裕太郎

監修医師
副島 裕太郎(横浜市立大学医学部血液・免疫・感染症内科)

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2011年佐賀大学医学部医学科卒業。2021年横浜市立大学大学院医学研究科修了。リウマチ・膠原病および感染症の診療・研究に従事している。日本内科学会 総合内科専門医・認定内科医、日本リウマチ学会 リウマチ専門医・指導医・評議員、日本リウマチ財団 リウマチ登録医、日本アレルギー学会 アレルギー専門医、日本母性内科学会 母性内科診療プロバイダー、日本化学療法学会 抗菌化学療法認定医、日本温泉気候物理医学会 温泉療法医、博士(医学)。

SAPHO症候群の概要

SAPHO症候群は、関節皮膚炎症を起こす稀な病気です。

“SAPHO”という名称は、特徴的な5つの症状の頭文字からきています。

  • Synovitis(滑膜炎)
  • Acne(ざ瘡)
  • Pustulosis(膿疱症)
  • Hyperostosis(骨化過剰症)
  • Osteitis(骨炎)

おもに胸骨と鎖骨をつなぐ胸鎖関節に炎症が起こりやすく、痛みや腫れを引き起こします。皮膚症状としては、掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)やひどいニキビがよく見られます。多くの場合、30代から50代で発症し、女性に多い傾向があります。
SAPHO症候群はかつては様々な病気を含む包括的な概念でしたが、現在では「掌蹠膿疱症性骨関節炎」と呼ばれる、1981年に日本の園崎らによって提唱された病態が、日本のSAPHO症候群の大部分を占めていると考えられています。

SAPHO症候群の原因

SAPHO症候群の原因は完全には解明されていませんが、遺伝的要因感染免疫異常など、複数の要因が複雑に絡み合っていると考えられています。
遺伝的要因
HLA-A26、HLA-B27、HLA-B39、HLA-B61などの特定のHLA遺伝子との関連が報告されています。

感染
低病原性細菌の持続感染や、感染に対する免疫反応の異常が原因となる可能性が指摘されています。とくににきびの原因となるアクネ菌(Cutibacteriumacnes)が関節液や骨組織から検出されたという報告があり、原因菌として注目されています。

免疫異常
IL-17などの炎症性サイトカインが関与している可能性が示唆されています。

SAPHO症候群の前兆や初期症状について

SAPHO症候群の初期症状は多様で、非特異的な場合も多いです。

骨関節症状

胸鎖関節の痛み
最も一般的な症状で、左右どちらかいっぽうまたは両側に痛みが出ます。
肋骨の痛み
胸骨と肋骨の結合部(肋軟骨結合部)に炎症が起こり、胸の痛みを感じることがあります。
背骨の痛み
腰椎や仙腸関節に炎症が起こり、腰痛・背部痛を引き起こすことがあります。
手足の関節の痛み
手首、足首、指などの関節に炎症が起こり、痛みや腫れを生じることがあります。

皮膚症状

掌蹠膿疱症
手のひらや足の裏に無菌性の膿疱(小さな水ぶくれ)が繰り返しできます。かゆみを感じることもあります。
ひどいニキビ
顔、胸、背中などに赤く腫れたニキビがたくさんできます。

その他

  • 疲労感
  • 発熱
  • 体重減少

これらの症状はほかの病気でも見られるため、SAPHO症候群と自己判断することは危険です上記のような症状が出た場合は、早めに医療機関を受診することが大切です。
しかしSAPHO症候群の症状は多岐にわたるため、どの診療科を受診すればよいか迷うかもしれません。
初期症状が皮膚症状の場合、まずは皮膚科を受診しましょう。
初期症状が骨関節症状の場合、整形外科またはリウマチ科を受診しましょう。
多くの場合、複数の診療科での診察が必要となることがあります

SAPHO症候群の検査・診断

SAPHO症候群の診断は、問診、診察、画像検査、血液検査などをもとに総合的に判断されます。確定診断のための特異的な検査はありません。

問診

症状
胸や背中の痛みはないが、節々(関節)の痛みはないかなど
既往歴
これまでに掌蹠膿疱症といわれたことがないか、虫歯(掌蹠膿疱症との関連が指摘されています)はないかなど
家族歴

  • 生活歴
  • タバコは吸うか(掌蹠膿疱症になりやすくなる)

などを詳しく聞きます。

診察

皮膚の状態
関節の腫れや痛み、動きの制限はないかなどを確認します。

画像検査

単純X線検査
骨の異常(骨硬化、骨溶解、骨棘形成など)を調べます。
MRI検査
炎症の程度や範囲、骨髄浮腫などを評価するのに有用です。とくに単純X線検査では異常が見られない早期の段階で診断に役立ちます。
超音波検査
これも早期の骨破壊や炎症、腱付着部の炎症を見つけることができます。

骨シンチグラフィー
骨の代謝を調べる検査で、SAPHO症候群では特徴的な“bull’s head pattern”という所見が見られることがあります。

血液検査

炎症反応(CRP、赤血球沈降速度)などを測定します。ただし、SAPHO症候群に特異的な血液検査はありません。

その他

関節液検査や骨生検
関節や骨の炎症があるか、ほかの病気らしさがないかを調べます。
皮膚生検
皮膚を取って調べて、掌蹠膿疱症らしい所見があるか病理検査で調べます。

これらの検査結果と診断基準を照らし合わせて、SAPHO症候群かどうかを診断します。

SAPHO症候群の治療

SAPHO症候群の治療は、症状の改善身体機能の維持生活の質の向上を目標に行われます。

非薬物療法

禁煙
掌蹠膿疱症は喫煙と強い関連があるため、禁煙は重要です。禁煙によって皮膚症状が改善したという報告もあります。
食事療法
バランスの取れた食事を心がけ、栄養状態を改善することが大切です。
適度な運動
関節の可動域を維持し、筋力低下を防ぐために、無理のない範囲で運動を行いましょう。
休養
十分な睡眠をとり、疲労を溜めないようにしましょう。

薬物療法

非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
炎症を抑え、痛みを和らげるために使用します。

コルヒチン
好中球の遊走を抑制する効果があり、SAPHO症候群に有効であるとされています。
ビスホスホネート製剤
骨吸収を抑制する薬剤で、骨の痛みや炎症を抑える効果があります。
抗菌薬
アクネ菌が原因と考えられる場合に使用されます。マクロライド系、テトラサイクリン系などが用いられます。ただし、抗菌薬を中止すると症状が再発する可能性があるため、長期的な使用には注意が必要です。
シクロスポリン
免疫を抑える効果があり、皮膚症状や骨関節症状の改善に有効であるとされています。
サラゾスルファピリジン
抗炎症作用、免疫抑制作用があり、ほかの薬剤と組み合わせて使用されることがあります。
トトレキサート
免疫を抑える効果があり、関節炎に有効ですが、骨炎への効果は明確ではありません。
ホスホジエステラーゼ4阻害薬
骨関節症状だけでなく、MRIで確認できる骨髄浮腫の改善にも効果があると報告されています。
IL-23阻害薬
IL-23の働きを抑える薬剤で、掌蹠膿疱症やその関節炎に有効であることが示されています。
NF阻害薬
TNFの働きを抑える薬剤で、関節炎、骨炎、脊椎炎などに有効であるとされています。
IL-17阻害薬
IL-17の働きを抑える薬剤ですが、SAPHO症候群に対する有効性はまだ十分に確立されていません。
JAK阻害薬
免疫に関与するJAKの働きを抑える薬剤で、トファシチニブが難治性のSAPHO症候群に有効であると報告されています。

その他

顆粒球・単球吸着療法
血液中の顆粒球と単球を吸着除去する治療法で、難治性のSAPHO症候群に有効である可能性が示唆されています。とくに胸鎖関節炎に効果があるとされています。
薬物療法は、患者さんの状態や症状に合わせて、適切な薬剤を選択し、組み合わせて使用することがあります。

SAPHO症候群になりやすい人・予防の方法

SAPHO症候群は、原因が完全には解明されていないため、明確な予防法は確立されていません。

SAPHO症候群になりやすい人

  • 30代から50代の人
  • 女性
  • 特定のHLA遺伝子を持つ人
  • 喫煙者
  • 掌蹠膿疱症の患者さん
  • 重症のニキビがある人
  • SAPHO症候群の予防方法

    禁煙
    掌蹠膿疱症のリスクを下げ、SAPHO症候群の発症や悪化を予防するために重要です。
    口腔ケア
    口腔内の細菌感染がSAPHO症候群の誘因となる可能性があるため、歯磨きや歯科検診をきちんと行いましょう。
    バランスの取れた食事
    免疫力を高めるために、栄養バランスの取れた食事を心がけましょう。
    適度な運動
    ストレスを解消し、免疫力を維持するために、適度な運動を行いましょう。
    十分な休養
    疲労を溜めないように、十分な睡眠をとりましょう。

    定期的な健康診断
    早期発見、早期治療のために、定期的に健康診断を受けましょう。

SAPHO症候群は、早期発見・早期治療が重要です。気になる症状がある場合は、早めに医療機関を受診しましょう。


関連する病気

  • 乾癬(Psoriasis)
  • 関節炎(Arthritis)
  • 骨の膿瘍(Osteomyelitis)

参考文献

  • Kishimoto M, et al. SAPHO syndrome and pustulotic arthro-osteitis. Mod Rheumatol. 2022 Jul 1;32(4):665-674.

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