監修医師:
居倉 宏樹(医師)
は呼吸器内科、アレルギー、感染症、一般内科。日本呼吸器学会 呼吸器専門医、日本内科学会認定内科医、日本内科学会 総合内科専門医・指導医、肺がんCT検診認定医師。
目次 -INDEX-
マールブルグ病の概要
マークブルグ病(Marburg disease)は、マールブルグウイルスに感染して発症するウイルス性出血熱のひとつです。致死率がとても高く、日本では1類感染症に指定されている、極めて危険な伝染病です。ヒトを含む霊長類に感染し、ヒトーヒト感染を起こします。動物実験ではブタに感染し、感染を広げることが報告されています。マールブルグウイルスは、エボラウイルスと同じRNAウイルスのフィロウイルス科(Filoviridae)に分類されます。感染ルートや症状はエボラ出血熱に似ています。
罹患者の血液や精液などの体液、排泄物などの汚染物との接触により感染するため、特殊な施設で厳重な隔離と適切な処置が必要です。
1967年、旧西ドイツのマールブルグ市で初めての感染報告があったため、この名が付けられました。原因はウガンダから輸入した実験動物のアフリカミドリザルで、解剖した関係者や清掃員、感染者の治療を行った医療従事者とその家族など32名が発症、7名が死亡しました。
自然宿主のオオコウモリが生息する地域のアフリカ諸国(サハラ以南〜西アフリカ)で散発的に蔓延が見られます。2024年9月にルワンダ共和国にて感染報告があり、ルワンダ政府はアウトブレイク宣言を行いました。世界的に交通機関が発達した現在、マークブルグ病が遠い地域の疫病とはいえず、日本への上陸にも最大限注意を要する疾患です。
マールブルグ病の原因
ヒトーヒト感染では血液や精液などの体液、排泄物などの汚染物との接触により感染、発症します(接触感染)。感染動物、汚染された器具類、衣類、寝具などを介して感染することもあります。
一部にはエアロゾル感染があると疑われる事例もありますが、原則は接触感染と考えられます。
マールブルグ病から回復した男性の睾丸に、ウイルスが長期間潜伏して精液に混ざることがあります。そのため性交で感染するリスクがあります。精液にウイルスが含まれる期間は1年以上のケースもあり、定期的な精液検査が欠かせません。そのため感染歴のある男性は2回連続で陰性になるか、12ヶ月間は性交禁止です。(またはコンドームを正しく装着する)
コウモリ(エジプトルーセットオオコウモリ)が自然宿主と考えられ、コウモリが棲む洞窟や坑道などに人間が立ち入ることで感染し、ヒトーヒト感染で蔓延します。
マールブルグ病の前兆や初期症状について
マークブルグ病の潜伏期間は2-21日と幅があります。そして初期症状は風邪症状に似ており、そのため内科で発見される可能性もあります。治療は感染症の専門科を主体に行われます。
感染後2日~21日後に、高熱、激しい悪寒、全身倦怠感、関節痛などが起こります。引き続き咽頭痛の発症が突然現れ、激しい症状を起こします。
発症2〜7日目頃から、胸、背など躯幹優位の、掻痒を伴わない斑点状丘疹が出現します。
併せて水様下痢、歯茎、鼻、膣などからの出血、腹痛、嘔吐、消化器出血などを発症します。重度になると意識障害、呼吸不全、肝障害、多臓器不全、ショック症状に陥り、高い確率(株により異なり、24〜88%)で死亡します。
患者さんに発熱などの症状があり、マールブルグ病の患者さんと濃厚接触した、または蔓延地域へ入国した履歴があれば、マーブルブルグ病やエボラ出血熱などウイルス性出血熱を疑います。(レベル2VHF疑い例)
もしマールブルグ病を疑う患者さんを診たら、医師はただちに保健所に届け出なければなりません。(確定診断ができなくても、疑い例でも報告が必要です。詳細は厚生労働省 感染症法に基づく医師及び獣医師の届出についてをご参照下さい。)
マークブルグ病を含む1類感染症は危険性が極めて高く、患者さんだけでなく疑似症、無症状病原体保有者も隔離入院が必要です。同居人や濃厚接触者も併せて、一定期間入院し、治療と経過観察を行います。
治療設備が整っていない医療機関は、保健所に報告後、ただちに第一種感染症医療機関(全国56医療機関)に移送します。治療は早期から国立国際医療研究センター、国立感染症研究所などの専門家と相談しながら治療をする計画です。
マールブルグ病の検査・診断
症状だけで診断することは難しいため、各種検体を用いてPCR法によるウイルス遺伝子の検出やウイルスの分離による確定診断を行います。
血液検査ができるのは国内では1ヶ所のみ、国立感染症研究所だけです。PCR検査、ELISA(酵素免疫測定法)にてマールブルグウイルスを検出し、確定診断を行います。
国立感染症研究所へ検体(全血・血清、咽頭ぬぐい液、尿など)を送り、診断を依頼します。PCRの妨げになるため、ヘパリン処理は避けます。急性期の血液にはウイルスが多量に含まれているため、特に感染対策を重視すべきです。
確定診断はPCR法でのウイルス遺伝子の検出、ELISA法や免疫蛍光法による抗体の検出となりますが、ウイルス性出血熱特有の症状があれば強い疑いありと判断し、ただちに治療を開始します。
マールブルグ病疑いの除外診断
マールブルグ病の初期症状は、ほかの疾患と区別が付きにくいことがあります。
ほかのウイルス性出血熱、腸チフス、発しんチフス、マラリア、赤痢、デング熱、黄熱の鑑別も並行して、除外診断を行います。
マールブルグ病の治療
マールブルグ病の治療は対症療法のみで、2024年現在では正式認可されたワクチン、治療薬はありません。2024年9月に発生したルワンダでは10月にアメリカから提供されたワクチンの臨床試験が始まり、ワクチンの実用化に向けた開発は進んでいます。
早期から適切な対症療法を行うことで生存率を上げることができます。早期発見、早期治療が効果的なのは、マールブルグ病も同様です。
対症療法として、呼吸や循環をはじめとする集中治療管理、また輸液を適時行いショックや血中電解質のバランスを保ちます。また、凝固障害を認める場合には凝固因子の補充を行う場合があります。
高熱や全身の痛み、粘膜からの出血、下痢などで患者さんは大変な苦痛を受けます。鎮痛薬などで急性期を脱するまで疼痛管理を行います。
治療は国立感染症研究所と連携しながら行います。
マールブルグ病になりやすい人・予防の方法
感染蔓延国(特に洞窟や坑道、感染蔓延地域など、ウイルス感染リスクが高いエリア)に訪れた人、感染者や感染動物、汚染された衣類や寝具、器具などに触れた濃厚接触者は、感染リスクがあります。ご遺体に素手で触れるだけでも感染します。
マールブルグウイルスは完治後6週間経過していても性液から検出されたケースがあります。性交を含む濃厚接触者は、症状が出ると推測される一定期間は隔離して、経過観察する必要があります。
予防法は、可能な限り蔓延地域や感染者、ウイルスキャリアの動物に近づかないことです。
もし国内で発生した場合は、速やかな診断と、患者さん、濃厚接触者の隔離、体液や排泄物など感染源の適正な管理が求められます。
マールブルグウイルス感染者が国内で発見されたら、コロナショックを上回る公衆衛生の危機に迫られることが予想されます。その日が来ても慌てないように診療の手引きを定期的に確認し、シミュレーションを実施しましょう。防護服、N95マスク、手袋などの着用テストを定期的に行いましょう。
国の基本基準に基づき、各都道府県では「予防計画」を立てることが義務付けられています。平時から担当する都道府県の予防計画を確認し、防疫対策を取り組みましょう。
平時から各機関(診療所、医療機関、救急、老健施設、保健所など)と合同訓練を行うことで、的確な対応ができるよう備えましょう。
関連する病気
- エボラウイルス病
- ラッサ熱
- コンゴ出血熱
参考文献