監修医師:
高藤 円香(医師)
全身性強皮症の概要
全身性強皮症は皮膚や消化器、肺、腎臓などの内臓が線維化することで硬くなる膠原病(こうげんびょう)です。
国の指定難病に登録されており、令和元年度医療受給者証保持者数(患者数)は26,728人と報告されています。男性よりも女性に多くみられ、30~50歳代の中高年での発症が最も多いとされています。
混同しやすい疾患に限局性強皮症がありますが、全く異なる疾患なので注意してください。
(出典:難病情報センター「全身性強皮症」)
全身性強皮症は遺伝する病気ではなく、体内で原因不明の自己免疫反応が起こり、皮膚や内臓の線維化や血管障害を起こして発症することがわかっています。
全身性強皮症は、「限局皮膚硬化型」と「びまん皮膚硬化型」にわかれ、それぞれ症状の重症度が異なります。
限局皮膚硬化型は比較的軽症であることが特徴で、数十年ほどかけて皮膚症状が少しずつ進行します。
内臓の病変も重篤なケースはほとんどありません。
一方、びまん皮膚硬化型は発症後の数年間、皮膚の線維化が進行し、5〜6年でピークを迎えます。
発症してから数年以内に内臓病変を合併するケースが多いです。
内臓病変でよく見られるのは、逆流性食道炎や肺線維症、肺高血圧症、原発性胆汁性肝硬変、強皮症腎クリーゼなどです。
しかし、全身性強皮症の症状は個人差があり、発症から10年以上経ってから再発するケースもあります。
症状の進行を正確に予測するには、血液検査で抗核抗体の種類を調べる必要があります。
全身性強皮症では抗セントロメア抗体、抗トポイソメラーゼ I抗体、抗RNAポリメラーゼ抗体、抗U1RNP抗体のうちどれか1種類が陽性になりますが、それぞれ症状の特徴が異なります。
全身性強皮症の原因
全身性強皮症の原因ははっきりとわかっていません。
しかし、さまざまな研究ではリンパ球のB細胞が異常に活性化した結果、自己免疫反応を起こす自己抗体やインターロイキン6(線維化を起こす免疫システム)が産生されて、発症する可能性が考えられています。
全身性強皮症の前兆や初期症状について
全身性強皮症は初期症状としてレイノー現象が起こることが多いです。
レイノー現象が起こると、冷たい物を触ったときに指先が真っ白もしくは紫色になったり、朝起きたときに手指がこわばったりします。
全身性強皮症のなかにはレイノー現象だけが十年以上続くケースもあります。
皮膚の硬化による手指のむくみや腫れから症状が始まるケースもあります。
手指は徐々に硬くなっていき、手背や前腕、二の腕、胸、お腹へと広がっていきます。
逆流性食道炎により胸焼けが起こることもあります。
全身性強皮症の検査・診断
全身性強皮症の診断は、皮膚だけでなくさまざまな臓器の検査も必要になります。
全身性強皮症のタイプや内臓病変の有無、進行度などを確認して治療方針を考えていきます。
皮膚や血管の検査
皮膚の17箇所の部位をつまんで、硬さを4段階の指標で表し、0〜51のスコアで皮膚の硬さの程度を評価します。
視診で手足の指の潰瘍や、陥凹性瘢痕(かんおうせいはんこん)の有無も確かめます。
爪の毛細血管の状態を顕微鏡で調べ、2本以上の爪に内出血が起きている場合は、全身性強皮症の可能性が高いと診断されます。
血液検査
血液検査で炎症状態や各臓器に関する項目、抗核抗体について調べます。
抗核抗体の検査では1種類の抗核抗体の陽性が判明することで、確定診断につながります。
肺線維症の検査
肺線維症の検査では、聴診や胸部のX線検査、CT検査、呼吸機能検査、経皮的動脈血酸素飽和度、6分間歩行試験、肺生検などをおこないます。
胸のX線検査やCT検査で、特異的な病変が認められた場合が確定診断になります。
肺線維症は徐々に進行する可能性があるため、診断後も定期的に検査して状態を追う必要があります。
その他の臓器の検査
心臓に対する心電図や心エコー検査、消化管に対する内視鏡検査や食道内圧検査、腹部X線検査、腎臓に対する尿検査などをおこないます。
全身性強皮症の治療
全身性強皮症を完治できる治療法は開発されていません。
しかし、ある程度の効果が期待できる薬物療法として、ステロイド療法やシクロホスファミドパルス療法、プロトンポンプ阻害薬、プロスタサイクリン、ACE阻害剤、エンドセリン受容体拮抗剤などが挙げられています。
ステロイド療法
ステロイド療法は皮膚の硬化に対しておこなわれる治療で、1日20mg程度の量を投与します。
免疫力の低下や糖尿病などの副作用が起こる可能性がありますが、数週〜1ヶ月程度で症状の改善が期待できます。
シクロホスファミドパルス療法
シクロホスファミドは免疫抑制剤の一つで、皮膚の硬化や肺線維症に対して投与されます。
一定量以上を投与すると、がんを引き起こす可能性があるため、長期投与できないことが欠点です。
プロトンポンプ阻害薬
プロトンポンプ阻害薬は逆流性食道炎の第一選択薬で、胃から逆流した胃酸によって食道に炎症が起こるのを防ぎます。
プロスタサイクリン
プロスタサイクリンは血管病変に対する治療薬で、血行を良くしてレイノー現象や皮膚の潰瘍、手足の痺れなどを改善させます。
ACE阻害剤
ACE阻害剤は強皮症腎クリーゼが発症したときに投与して血圧を下げる薬です。
迅速に投与することで予後は改善しますが、透析療法に移行するケースも多くあります。
エンドセリン受容体拮抗剤
肺高血圧症にはボセンタンなどのエンドセリン受容体拮抗剤を投与します。
血管を収縮させるエンドセリンのはたらきを抑えて血液の流れを促し、血圧を低下させます。
全身性強皮症になりやすい人・予防の方法
全身性強皮症になりやすいのは中高年の女性で、男女比は1:9であることがわかっています。
(出典:公益社団法人 日本皮膚科学会 「皮膚科Q&A」)
全身性強皮症の予防法はありませんが、発症した場合は日常生活で対策を心がけながら、症状の悪化を防ぎましょう。
レイノー現象を和らげるために手足を保温したり、肺線維症や肺高血圧症の悪化を防ぐために心臓や肺に負担がかかる動作を避けたりしましょう。
逆流性食道炎が起こる場合は、できるだけ消化の良い食べ物を摂取するようにしてください。