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大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

リンパ管炎の概要

リンパ管炎(りんぱかんえん)とは、体の中を流れている「リンパ管」と呼ばれる細い管が細菌に感染して炎症を起こす病気です。リンパ管は、血管とは別に全身に張り巡らされている「リンパ系」と呼ばれる循環系の一部で、体の免疫機能に重要な役割を果たしています。リンパ液と呼ばれる透明な液体がリンパ管の中を流れ、老廃物や細菌などを運びながら、体の防御システムをサポートしています。

このリンパ管に何らかのきっかけで細菌が入り込むと、感染を起こして赤く腫れたり、痛んだりすることがあります。リンパ管炎はしばしば皮膚や皮下組織の感染(たとえば、蜂窩織炎〈ほうかしきえん〉)に続いて発症し、手や足などに見られることが多いです。場合によっては、皮膚の表面に赤い線のような筋が浮き出てくることがあり、この特徴的な症状から「赤い筋の出る病気」として知られることもあります。

早期に適切な治療を行えば完治することが多い一方で、放っておくと感染が体全体に広がって重症化するおそれもあるため、軽く見ずに早めに受診することが大切です。

リンパ管炎の原因

リンパ管炎の主な原因は、細菌感染です。特に多いのが「連鎖球菌(れんさきゅうきん)」や「黄色ブドウ球菌(おうしょくぶどうきゅうきん)」といった、日常的に皮膚に存在する常在菌です。これらの細菌が、皮膚のちょっとした傷や虫刺され、湿疹、やけど、手術後の傷などから体の中に入り込み、リンパ管を通って炎症を起こします。

たとえば、足に小さな傷ができてそこから細菌が侵入すると、ふくらはぎから太もも、さらには足の付け根のリンパ節に向かって、赤い筋のような腫れが現れてくることがあります。これは、感染がリンパの流れに沿って広がっていることを示しています。

また、糖尿病や慢性的なむくみ(リンパ浮腫)、免疫力が低下している人では、軽微な傷でも感染が拡大しやすく、リンパ管炎を繰り返すこともあります。まれに真菌(カビ)や寄生虫、クモやサソリの毒によるリンパ管炎もあります。

リンパ管炎の前兆や初期症状について

リンパ管炎の初期には、感染が起こった部位の近くに痛みや腫れ、赤み、熱感といった炎症の症状が現れます。これに加えて、皮膚の表面に赤く細長い筋のような線が浮かび上がってくることがあります。たとえば、手の指先にけがをした場合には、前腕から上腕、そして脇の下へ向かって赤い筋が伸びることがあります。これはリンパ管の炎症がその経路に沿って広がっているサインです。

同時に、全身のだるさ、寒気、発熱といった「風邪に似た」症状を感じることがあります。悪寒を伴う発熱は、体が感染と闘っている証拠ですが、リンパ管炎が全身に波及する前兆でもあります。

さらに進行すると、リンパ節が腫れて痛くなることがあり、いわゆる「リンパ節炎」を併発するケースもあります。脇の下や足の付け根、首など、リンパが集まっている部位にこりこりとした腫れや強い痛みが出る場合には、すぐに医療機関での評価が必要です。

リンパ管炎の検査・診断

リンパ管炎は、まず医師による問診と視診によってある程度診断がつく病気です。症状の出かた、経過、感染の入口となるような傷の有無、既往歴などを丁寧に確認した上で、赤く伸びる筋状の炎症があればリンパ管炎が強く疑われます。

血液検査では、炎症の程度を示す白血球数やCRPという値が上昇していることが多く、これにより感染の活動性がわかります。発熱を伴っている場合には、血液培養という検査を行って、血液の中に細菌が入り込んでいないか(菌血症)を調べることもあります。

また、リンパ節が腫れている場合には、超音波(エコー)検査を使って内部に膿がたまっていないかを確認します。まれに、蜂窩織炎など他の皮膚感染症や、深部静脈血栓症などと鑑別が必要になることもあるため、慎重な診察と検査が重要です。

リンパ管炎の治療

リンパ管炎の治療の基本は、原因となっている細菌を退治するための「抗菌薬(抗生物質)」の使用です。軽症であれば、飲み薬の抗菌薬で治療を開始します。通常は数日間の内服で改善していきますが、症状が進行していたり、免疫力が低下していたりする場合には、入院して点滴で抗菌薬を投与することもあります。

感染の入り口となる傷の処置も重要です。傷が化膿している場合には、膿をしっかりと出し、清潔に保つようにします。必要に応じて、ガーゼや抗菌軟膏で保護しながら治癒を促します。

発熱や痛みが強いときには、解熱鎮痛薬を使用して症状を緩和することもあります。また、水分をしっかりとること、安静を保つこと、患部を清潔に保つことが回復を早めるポイントです。

治療を開始しても症状が悪化する場合や、赤い筋が拡大しているようなときは、すぐに再診が必要です。適切な抗菌薬が効いていない場合や、膿がたまっている場合には、切開・排膿が必要になることもあります。

リンパ管炎になりやすい人・予防の方法

リンパ管炎は誰にでも起こりうる病気ですが、特に皮膚に傷ができやすい人、糖尿病などで免疫力が落ちている人、リンパ浮腫や静脈瘤を持っている人では、感染リスクが高くなります。こうした方々は、日常生活の中で皮膚のケアを丁寧に行うことが予防につながります。

まず第一に、皮膚の清潔を保つことが基本です。小さな傷や虫刺されを放置せず、すぐに水で洗って消毒し、感染が広がらないようにしましょう。手足が乾燥してひび割れることも感染のきっかけになるため、保湿剤を使って皮膚を保護することも大切です。

糖尿病の方は血糖管理をしっかりと行い、感染に強い体を保つことが重要です。定期的な受診と生活習慣の見直しを通じて、免疫力を高めていくことが再発予防にもつながります。

さらに、ペットや土いじりなどによって細菌が皮膚に付着することもあるため、手洗いや保護手袋の使用など、日常生活でのちょっとした心がけが、リンパ管炎を遠ざける第一歩となります。

まとめとして、リンパ管炎は、一見すると軽い皮膚の赤みや腫れから始まる病気ですが、放置すると全身に広がって重症化する可能性もある感染症です。赤い筋が皮膚に見えるとき、熱が出てきたとき、体がだるくなってきたときは、早めに医療機関を受診してください。そして日頃から、皮膚を清潔に保ち、体の変化に敏感になることが、リンパ管炎を防ぐための最も確実な方法です。

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