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日本紅斑熱
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

日本紅斑熱の概要

日本紅斑熱はマダニに咬まれることによって「日本紅斑熱リケッチア」という細菌が体内に入ることで感染する病気です (参考文献 1) 。
西日本での感染報告が多いですが、近年では感染報告のある地域が拡大傾向で、感染者数も増加の一途をたどっています (参考文献 2) 。
発熱・発疹・刺し口が症状のポイントとされていますが、刺し口は分からないことも多いです (参考文献 1) 。重症化して亡くなる方も比較的多い感染症で、2019年は報告があった症例のなかで 4.1% の患者さんが亡くなりました (参考文献 2) 。
疑った段階で抗菌薬治療をすることが重要なので、気になることがあればすぐに病院へ行ってください。
予防には、用もないのに森林に立ち入らないことはもちろんですが、止むをえず立ち入る場合やレジャーをする場合には、予防のために肌の露出が少ない服を着たり、ダニに効果のある虫よけ剤を使用する、用事が終わったら入浴してダニに刺された跡がないか確認することが有効です (参考文献 6) 。

日本紅斑熱の原因

日本紅斑熱は「日本紅斑熱リケッチア」とよばれる病原体へ感染することにより引き起こされる病気です (参考文献 1) 。リケッチアは細菌の中でもダニやノミなどに刺されることにより感染するという特徴を持ち、日本紅斑熱リケッチアも「マダニ類に刺される」ことが主要な感染経路となっています (参考文献 1) 。
主な流行地域は千葉より西の太平洋側とされており紀伊半島・中四国地域・九州で報告数が多いですが、近年では北関東や東北でも感染者が報告されるようになり、感染地域が拡大しています (参考文献 2) 。
報告数自体も増加傾向にあります。2006年までは数十人で推移していたものが増加していき2014年には200例を突破、その後も患者数は増加していき2022年には460人の患者が確認されています (参考文献 2, 3) 。

日本紅斑熱の前兆や初期症状について

2007年から2019年に届け出された日本紅斑熱患者でみられた症状は、発熱 99% 、発疹94% 、肝機能障害 73% 、刺し口 67% 、頭痛 30% 、播種性血管内凝固症候群 (DIC) 21% とされています (参考文献 2) 。2019年の死亡例は318症例中13症例 (4.1%) でした (参考文献 2) 。

感染後は2-8日程度の潜伏期間の後、発熱、発疹、倦怠感、頭痛、全身の痛みといった症状で発症します (参考文献 1) 。
3つの特徴的な症状として「発熱・発疹・刺し口」が知られていますが、刺し口は分かりにくい部位にあって気がつかない・1人だと気がつきにくいことが多いです (参考文献 1) 。

重症症例になってくると多臓器不全や DIC (※) によって死亡することもある病気です。登山やキャンプなどの自然の豊かな場所へ行った後の方、普段から自然との関わりが多い方で発疹を伴う発熱が出てきた場合には直ぐに近くの内科へ行ってください。その際には山へ行ったことなどを忘れずに担当の医師へ伝えてください。

※DIC: 播種性血管内凝固のこと。血管の中で無秩序に血の塊ができたり、血の塊を溶かすはたらきが亢進することで、重要臓器の虚血反応や出血などが同時多発的に起きうる重篤な状態になりうる。

日本紅斑熱の検査・診断

紅斑+熱の症状が出るリケッチア感染症には日本紅斑熱だけではなく、「ツツガムシ病」に代表されるような病気も含まれます。
症状や病歴のみでは日本紅斑熱とツツガムシ病と区別することが難しく、血液検査による抗体価推移の確認のほか、最近では抗菌薬投与前に刺し口の痂疲 (かさぶた) や発疹部の皮膚を採取して病原体の遺伝子検査をすることで区別しています (参考文献 4) 。

日本紅斑熱は感染症法に定義される4類感染症であり、全例で直ちに最寄りの保健所へ報告が必要になります。ご協力をお願いいたします。

日本紅斑熱の治療

日本紅斑熱はテトラサイクリンとよばれる抗菌薬を用いて治療します (参考文献 5) 。先ほど紹介したように、日本紅斑熱は重症化・死亡のリスクが高めの感染症です。検査結果を待っているうちに病態が進行して手遅れになることもあるので、検査結果の判明前に治療を抗菌薬治療を開始します (参考文献 5) 。

日本紅斑熱のなりやすい人・予防の方法

予防には感染経路である「マダニに咬まれること」を防ぐことが最も重要です。昔とは違って感染が確認された地域は拡大しているので、「私の住んでいる地域は大丈夫だろう」という考えは危ないです。

日本紅斑熱の感染報告は紀伊半島・中四国地域・九州が多いので、これらの地域の森林に立ち入る方や、これらの地域でレジャーをするような方は感染リスクが比較的高いといえるでしょう。

予防には必要もないのに森林に立ち入らないことが一番ですが、何らかの用事があって森林に行かなければならなかったり、農作業やキャンプをする際には、次のような対策をしましょう (参考文献 6) 。

  • 皮膚の露出の少ない服装をする
  • ダニ避け効果のある虫よけ剤を使う
  • 作業後は入浴して、全身を目で見て、ダニが付いていないか確認する

ダニを取り除く際に、ダニのお腹を掴んでしまうとダニが潰れて病原体が自分の体内に逆流してしまうので頭をピンセットで摘まみます。難しいと思うので病院で撮ってもらうのが無難でしょう。


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