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副島 裕太郎

監修医師
副島 裕太郎(横浜市立大学医学部血液・免疫・感染症内科)

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2011年佐賀大学医学部医学科卒業。2021年横浜市立大学大学院医学研究科修了。リウマチ・膠原病および感染症の診療・研究に従事している。日本内科学会 総合内科専門医・認定内科医、日本リウマチ学会 リウマチ専門医・指導医・評議員、日本リウマチ財団 リウマチ登録医、日本アレルギー学会 アレルギー専門医、日本母性内科学会 母性内科診療プロバイダー、日本化学療法学会 抗菌化学療法認定医、日本温泉気候物理医学会 温泉療法医、博士(医学)。

抗リン脂質抗体症候群の概要

抗リン脂質抗体症候群は、体内で「抗リン脂質抗体」という自己抗体が作られた結果、血液凝固系が過剰に活性化し、血栓ができやすくなる病気です。
動脈や静脈に血栓ができ、様々な臓器に障害を引き起こします。
血栓は血管の大きさに関わらず、体のどこにでもできる可能性があります。
主な症状としては、足のむくみや痛み(深部静脈血栓症)、息切れや胸の痛み(肺塞栓症)、手足のしびれや麻痺(脳梗塞)、激しい頭痛(脳静脈洞血栓症)、皮膚に網目状の模様が現れる(網状皮斑)などがあります。
大きく分けて原発性抗リン脂質抗体症候群(抗リン脂質抗体症候群以外の病気がない場合と続発性抗リン脂質抗体症候群(全身性エリテマトーデス(SLE)などの膠原病を合併する場合)の二つがあります。
治療は抗凝固薬や抗血小板薬です。

抗リン脂質抗体症候群の原因

抗リン脂質抗体症候群は、体内で「抗リン脂質抗体」という自己抗体が作られることが原因で起こります。
抗リン脂質抗体は、本来は細胞膜の構成成分であるリン脂質と結合するタンパク質に対して作られます。
その中でもβ2グリコプロテインIというタンパク質に対する抗体が重要であると考えられています。

抗リン脂質抗体が作られる詳しいメカニズムは完全には解明されていませんが、以下の要因が考えられています。
遺伝的要因
特定のHLA遺伝子との関連が報告されています。
環境要因
感染症、薬剤、悪性腫瘍などが抗リン脂質抗体の産生を誘発する可能性があります。

抗リン脂質抗体症候群の前兆や初期症状について

抗リン脂質抗体症候群は、無症状のこともあれば、重篤な症状が現れることもあります。
初期症状としては、以下のようなものがあります。

  • 足のむくみや痛み(深部静脈血栓症)
  • 息切れや胸の痛み(肺塞栓症)
  • 手足のしびれや麻痺(脳梗塞)
  • 激しい頭痛(脳静脈洞血栓症)
  • 皮膚に網目状の模様が現れる(網状皮斑)

そのほかに重要な症状として、妊娠合併症(習慣性流産、妊娠高血圧症候群、胎児発育不全など)があります。

抗リン脂質抗体症候群は、症状が多岐にわたるため、まずは症状に応じて以下の診療科を受診すると良いでしょう。

血栓症の症状がある場合
循環器内科、脳神経外科、呼吸器内科など
妊娠合併症を疑う場合
産婦人科

最終的に抗リン脂質抗体症候群の可能性が高い場合は、リウマチ膠原病内科を受診し、専門的な診療を受けることになります。

抗リン脂質抗体症候群の検査・診断

抗リン脂質抗体症候群の診断は、以下に基づいて行われます。

臨床症状

血栓症や妊娠合併症の既往があるか

抗リン脂質抗体の検査

  • ループスアンチコアグラント検査: 血液が固まりにくくなる現象(抗凝固作用)を調べる検査
  • 抗カルジオリピン抗体検査
  • 抗β2グリコプロテインI抗体検査

これらの検査で陽性反応が出た場合でも、12週間以上間隔をあけて再度検査を行い、抗体が持続的に存在するかどうかを確認する必要があります。

その他の検査

  • 血液検査:血小板数、凝固検査、各種自己抗体(ほかのリウマチ膠原病で陽性になる可能性のあるもの)など
  • 画像検査:超音波検査、MRI、血管造影検査などで血栓症がないかを調べます
  • 病理組織検査:血栓の有無を評価します

抗リン脂質抗体症候群の治療

抗リン脂質抗体症候群の治療は、血栓症や妊娠合併症などの症状を抑え、再発を予防することを目的としておこないます。

血栓症に対する治療

抗凝固薬

血液を固まりにくくする治療法です。急性期の血栓症に対しては、ヘパリンの注射を行います。 長期的な再発予防には、ワルファリンの内服を行います。妊娠中はワルファリンを使用することができないので、ワルファリンからヘパリンに切り替えて治療することがあります。

抗血小板薬

血小板が固まりにくくする薬剤です。抗リン脂質抗体症候群では低用量のアスピリンを使うことが多いです。

その他の治療法

重症例では、血漿交換療法(血液中の抗リン脂質抗体を除去する治療)や免疫グロブリン大量静注療法を行うこともあります。
また、抗リン脂質抗体症候群以外の膠原病を合併している場合、それに対する治療(ステロイドなど)を行うこともあります。

抗リン脂質抗体症候群になりやすい人・予防の方法

抗リン脂質抗体症候群は、20~40代の女性に多い病気ですが、男性や高齢者でも発症することがあります。
また以下のような人は、抗リン脂質抗体症候群になりやすいといわれています。

膠原病の患者さん
とくに全身性エリテマトーデスの患者さんでは、抗リン脂質抗体症候群を合併することが多くみられます。
家族歴
血のつながった家族に抗リン脂質抗体症候群患者さんがいる場合は、発症リスクが高くなります。
特定の薬剤を服用している人
一部の薬剤が、抗リン脂質抗体症候群の発症リスクを高める可能性があります。

APSは、その原因が完全には解明されていないため、確実な予防法はありません。
しかし以下のことに気をつけることで、発症リスクを下げたり、重症化を防いだりできる可能性があります。

生活習慣の改善
禁煙(喫煙は血栓症のリスクを高めるため)、食生活の改善(バランスの取れた食事を心がける)、適度な運動(血流を改善し、血栓症の予防に役立つ)、体重管理(肥満は、血栓症や動脈硬化のリスクを高めるため)
基礎疾患の治療
糖尿病や高血圧症などの基礎疾患がある場合は、適切に治療することが大切です。
ピルの使用について
血栓症のリスクを高める可能性があるため、医師と相談する必要があります。

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