監修医師：
副島 裕太郎（横浜市立大学医学部血液・免疫・感染症内科）
家族性地中海熱の概要
家族性地中海熱は、MEFV遺伝子の異常（変異）によって起こる遺伝性疾患です。
自然免疫に異常が起こって発症する、自己炎症性疾患という病気のひとつです。
発熱、おなかの痛みや下痢、胸の痛み、皮膚の症状、関節痛など、炎症によって起こる発作を繰り返すのが特徴です。
発作は多くの場合半日から3日間で治り、約1ヶ月で繰り返すのが特徴です。
子どものころから症状があることは多いですが、成人になってから病気が見つかることも最近では多くなっています。
コルヒチンという薬が第一選択で、これが効果不十分な場合や副作用で十分な量を飲めない場合には、IL-1阻害薬という薬剤を使用することもあります。
家族性地中海熱の原因
家族性地中海熱はMEFV遺伝子の異常（変異）によって、自然免疫に異常が起こって発症する自己炎症性疾患のひとつです。
自然免疫とは、病原体（細菌やウイルスなど）が身体に入ってきたときにすぐに起こってこれらを攻撃する免疫反応で、これに続いて獲得免疫（ウイルスを攻撃する抗体を作る能力）を活性化することが主な機能であると考えられてきました。
しかし病原体を作る物質（PAMPs）や攻撃されて壊れたときに出る物質（DAMPs）に反応して、「インフラマソーム」というタンパク質を作って、炎症をどんどん起こしていくことも自然免疫のはたらきであることがわかってきました。
この炎症が病的であるのが「自己炎症性疾患」です。
いわゆる「膠原病」が獲得免疫の異常による自己抗体産生を機序とする「自己免疫疾患」であることと対比されることが多いです。
MEFV遺伝子は「パイリン」というインフラマソームに関係したタンパク質を作る遺伝子で、MEFV遺伝子に変異が起こることでパイリンの機能に異常が起こり、全身に炎症を起こします。
家族性地中海熱の前兆や初期症状について
自己炎症性疾患は、「熱が出たり下がったりすることを反復的に繰り返す」という症状が出ること（周期性発熱）が特徴です。
自己炎症性疾患のなかでも、病気によって熱が出る期間や熱が出る間隔に違いがあります。
家族性地中海熱の場合は、「半日から3日ほど続く発熱を、ほぼ1ヶ月周期で繰り返す」のがよくある熱の出かたです。
厳密に1ヶ月ごとに出ない方もいらっしゃいますし、そのときの体調やストレスなどにも関係して症状が出てくることも多いです。
また、ほかに下記の代表的な症状が、熱とともに出現し、同様に3日程度でよくなるということを繰り返します。
- 腹痛、下痢（漿膜炎）
- 胸の痛み（胸膜炎、心膜炎）
- 関節の腫れや痛み（関節炎）、持続する筋肉痛
- 皮膚の症状（運動によって誘発される丹毒様皮疹）
- その他：頭痛（無菌性髄膜炎）、陰嚢の腫れ
上記のような症状から、以下のような人は、家族性地中海熱を疑って詳しく検査する必要があります。
- 「おなかの風邪になりやすい」
- 「虫垂炎（盲腸の炎症）を繰り返す」
- 「胸膜炎・漿膜炎を繰り返す」
どの診療科を受診すればよいか迷う場合は、まず内科を受診して、症状を詳しく説明しましょう。
必要があれば、専門医を紹介してもらえます。
子どもであれば小児科、大人であればリウマチ膠原病内科が専門医として診療することが多い病気です。
家族性地中海熱の検査・診断
家族性地中海熱の診断は、上で説明した症状に基づいて行います。
病気を診断・分類するためのいくつかの基準があり、日本であれば厚生労働省の研究班が出している診断基準を利用することが多いです。
多くの患者さんでは子どもの頃から症状はありますが、大人になってから家族性地中海熱ではないかと疑われることも多いです。
また大人になってからはじめて症状が出てくる患者さんもいます。
血液などからMEFV遺伝子の変異がないかを調べる検査も行います。
MEFV遺伝子変異は遺伝子のexon10という部分の変異であれば、典型的な症状パターンとなることが多いのですが、exon10 以外の部分にある変異では、発作が典型的な症状パターンにならないことも多いです。
またMEFV 遺伝子変異が見つからないのに家族性地中海熱の症状を起こす人もいて、「MEFV遺伝子変異がある= 家族性地中海熱である」というわけではありません。
あくまでも 家族性地中海熱は臨床症状から診断する病気で、遺伝子変異は参考所見にとどまります。
また、あとで説明する「コルヒチン」という治療薬がよく効くかどうかも、この病気らしさを判断するポイントになります。
家族性地中海熱以外にも周期性発熱を起こす自己炎症性疾患はあるため、それらの病気らしさがないことも診断に重要になってきます。
周期性発熱・アフタ性口内炎・咽頭炎・リンパ節炎（PFAPA）症候群、クリオピリン関連周期性熱症候群（CAPS）、TNF受容体関連周期性熱症候群（TRAPS）といった病気が、ほかの自己炎症性疾患としては代表的です。
家族性地中海熱の治療
家族性地中海熱治療の第一選択は「コルヒチン」という薬です。
コルヒチンは自然免疫による炎症反応を抑える薬で、家族性地中海熱の発作の頻度と重症度を軽減します。
また、日本ではそこまで多くないですが、「アミロイドーシス」という、炎症が続くことで起きてくる、いろいろな臓器に症状が出る病気にもなりにくくなるといわれています。
しかしこのコルヒチンという薬は、下痢や腹痛といった症状で十分な量が飲めないことも多く、整腸剤やお腹に効く漢方薬（半夏瀉心湯や大建中湯など）などをいっしょに使ってみて飲めるかどうか試すこともあります。
コルヒチンで効果不十分な場合や副作用で十分な量を飲めない場合には、IL-1阻害薬という（日本で保険適用があるのはカナキヌマブ）薬剤を使用することもあります。
しかしこのカナキヌマブは大変高額な薬剤になるので、投与する必要があるような患者さんでは、特定疾患の申請をおこなって医療費の助成制度を利用することが必要になります。
症状が強いときだけ、短期的にステロイドを飲むこともあります。
家族性地中海熱になりやすい人・予防の方法
家族性地中海熱は遺伝性疾患であるため、血の繋がった家族に家族性地中海熱の人がいるとこの病気を発症する可能性は高くなります。
とくに地中海沿岸地域にルーツを持つ人はMEFV遺伝子の変異が多いため、注意が必要です。
家族性地中海熱の発症を予防する方法は知られていません。
しかし病気の症状が悪くなるのに身体的・精神的なストレスなどが発作に関係している可能性はあり、可能なかぎりこれらを避ける生活を送ることができるのがベターです。
また女性では月経周期と関連して発作が出るひともいます。
そのようなひとには低用量ピル（エストロゲン・プロゲステロン配合錠）の内服が有効であったという報告もあります。
