監修医師:
居倉 宏樹(医師)
は呼吸器内科、アレルギー、感染症、一般内科。日本呼吸器学会 呼吸器専門医、日本内科学会認定内科医、日本内科学会 総合内科専門医・指導医、肺がんCT検診認定医師。
オウム病の概要
オウム病は、オウム病クラミジア(Chlamydia psittaci;以下C.psittaci)を病原体とする人獣共通感染症です。
オウム病は、オウムに限らず、インコ、ハトなど、さまざまな鳥類から感染する可能性があります。
世界中で発生している病気であり、日本国内でも年間数件の感染報告がある病気です。
初期症状としては、高熱や頭痛、全身倦怠感、咳などの風邪によく似た症状がみられます。
重症化した場合には肺炎や髄膜炎などを併発することもあります。
オウム病に感染しても多くの場合は、風邪のような軽い症状ですみますが、高齢者などでは重症化しやすい傾向にあります。
鳥類と接触して約1~2週間後の発熱や、咳などの呼吸器系の症状がみられる場合には、速やかに医療機関を受診するようにしましょう。
オウム病の原因
オウム病は、鳥類の糞などに含まれるC.psittaciを吸い込むことにより、感染する病気です。
感染源となる鳥類は多岐にわたり、オウム・インコ類が60%を占めます。
また、ドバトの保菌率も20%程度と高く、感染源のひとつとなっています。
オウム病の原因菌
オウム病の原因菌であるC.psittaciは、DNAとRNAを有するグラム陰性桿菌に分類される細菌であり、特殊な性質を持つ偏性細胞内寄生性微生物です。
この菌は人工培地では増殖できず、宿主細胞内で特異な形態変化をしながら増殖します。
C.psittaciは、感染性を持つ基本小体と増殖型の網様体、そしてその中間体という複雑な形態をとりながら増殖します。
感染から約48時間後には、もともと感染した細胞が破壊され、新たな感染性を持つクラミジア粒子が外部に放出されます。
そして、基本小体は他の細胞に感染し、増殖を繰り返します。
人への感染経路
オウム病の原因となるC.psittaciは、鳥の糞や羽毛、呼吸器分泌物などを介して空気中に放出されます。
人間への感染経路としては、主に以下の2つが挙げられます。
感染した鳥類の糞や羽毛に含まれるオウム病クラミジアを吸入する
感染した鳥類との直接的に接触する(口移しでエサを与えたり噛まれたりするなど)
オウム病は、鳥類を飼育してなくても、ペットショップに入店しただけで感染する可能性があります。
また、野生のハトもオウム病クラミジアを保菌している可能性があるので、ハトやその糞には直接触らないように注意してください。
オウム病の前兆や初期症状について
オウム病の病状としては、大きく分けて2つパターンがあります。
インフルエンザや風邪のような症状が現れる
肺炎症状が顕著ではなく、敗血症のような症状が現れる
オウム病の潜伏期間は、通常1週間~2週間程度であり、潜伏期間の後、突然の発熱で発症します。
初期症状は一般的な風邪に似ているため、見逃されやすい傾向にあります。
オウム病の初期症状
オウム病の主な初期症状としては、以下のようなものがあります。
- 高熱(38℃以上)
- 悪寒
- 全身倦怠感
- 食欲不振
- 頭痛
- 筋肉痛
- 関節痛
- 乾いた咳
上気道炎や気管支炎程度の軽傷で済む場合から、症状が進むと肺炎を発症することがあります。
肺炎の画像所見としては様々です。
オウム病としての特有所見はないものの、マイコプラズマ肺炎のような非定型肺炎に類似する可能性も指摘されております。
オウム病の重症例
重症例では血痰やチアノーゼが見られることもあります。
また、初期治療が不適切な場合、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)や重症肺炎、髄膜炎、多臓器障害、ショック症状などが現れることもあり、致死的な経過をたどることもあります。
オウム病が疑われる際の受診科
上記のような初期症状が現れ、発症前に鳥類との接触歴がある場合には、内科や呼吸器内科を受診することが推奨されます。
症状が重い場合や合併症が疑われる場合は、感染症専門医の診察を受けることが望ましいでしょう。
オウム病の検査・診断
オウム病の診断は、鳥類との接触歴や各種検査結果を総合的に評価して行われます。
臨床の現場では、血清診断がほとんどとなりますが、結果が出るまでに時間がかかります。
このため、問診の結果、鳥類との接触歴が明らかである場合には、オウム病を疑って治療を開始します。
問診
鳥類との接触歴は診断において重要な情報となるため、問診の際に必ず医師に伝えてください。
症状が現れる前に、鳥類を触った、鳥類に口移しでエサを与えた、ペットショップに行ったなどの場合には、医師に伝えるようにしましょう。
特に飼育していた鳥が死んでいる場合には、オウム病の可能性が高くなりますので、そのようなことがあった場合にも問診の際に医師に伝えましょう。
病原診断
オウム病の病原診断は、患者さんの気道からのC.psittaciの検出、血清特異抗体の測定によって行われます。
C.psittaciは、患者さんの咽頭拭い液、喀痰などの咽頭材料から分離、PCRで検出可能です。
しかし、分離は細胞培養が必要であり、実験室内での感染のリスクもあるため、特定の施設でのみ行われます。
臨床における診断
臨床の現場におけるオウム病の診断は、主に血清診断が行われます。
血清診断は、種の特定ができる micro‐IF 法などが用いられます。
ペア血清で 4 倍以上の上昇があるときには、オウム病であると診断されます。
オウム病の治療
オウム病は、軽症の場合と中等症以上の場合で治療方法が異なります。
軽症(風邪のような症状のみ)の場合の主な治療方法は、抗生物質を投与することです。
一方で、中等症以上の場合には入院治療が必要です。
軽症の場合の治療方法
軽症の場合には、以下の抗菌薬が使用されます。
- テトラサイクリン系(第一選択薬)
- マクロライド系
- ニューキノロン 系
一方で、ペニシリン系薬、セフェム系薬などのβ‐ ラクタム薬や、アミノ配糖体は、治療薬として無効です。
中等症以上の場合の治療方法
中等症以上の場合、入院のうえでミノサイクリン(100mg)を1日2回点滴静注を行うことが推奨されています。
抗生物質の投与期間は約2週間ほどとなりますが、全身症状の改善が良好な場合には、内服に切り替えることもあります。
小児や妊婦においては、テトラサイクリン系薬が歯や骨へ沈着する可能性があり、ニューキノロン系薬も使用が難しいためため、ニューマクロライド薬の内服や、エリスロマイシンの点滴静注などが推奨されています。
抗生物質による上記治療のほか、全身の症状に合わせて補助療法を行うことがあります。
例えば、肺炎が両方の肺に広がっており、低酸素血症がみられる場合には、呼吸管理や酸素投与などの治療を行います。
また、ステロイドを使用することや、播種性血管内凝固症候群(DIC) への対応が必要になることもあります。
オウム病になりやすい人・予防の方法
オウム病は、鳥類との接触により感染する病気ですので、その予防のためには、鳥類を飼育している人がオウム病に関する知識を持つことが重要です。
オウム病になりやすい人
オウム病は、鳥類との接触回数が多い人や、鳥類と過度な接触をした人は感染しやすくなります。
具体的には、以下のような方々は感染のリスクが高くなります。
- ペットとして鳥類を飼育している人
- ペットショップの従業員
- 動物園の従業員
オウム病の予防方法
オウム病の予防のためには、以下のような対策が効果的とされています。
- 鳥類との過度な接触を避ける
- 鳥類を飼うときはケージ内をこまめに清掃する
- 鳥類の世話をした後や鳥類との接触の後には、手洗い、うがいをする
- 飼育している鳥類の健康管理に注意する
- 公共の場所(公園など)での野鳥との接触に注意する
オウム病は適切に対処すれば治癒可能な疾患ですが、重症化のリスクもあるため、予防と早期発見・早期治療が重要です。
鳥類との接触後に発熱や呼吸器症状が現れた場合は、速やかに医療機関を受診するようにしましょう。
参考文献