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井林雄太

監修医師
井林雄太(田川市立病院)

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大分大学医学部卒業後、救急含む総合病院を中心に初期研修を終了。内分泌代謝/糖尿病の臨床に加え栄養学/アンチエイジング学が専門。大手医学出版社の医師向け専門書執筆の傍ら、医師ライターとして多数の記事作成・監修を行っている。ホルモンや血糖関連だけでなく予防医学の一環として、ワクチンの最新情報、東洋医学(漢方)、健康食品、美容領域に関しても企業と連携し情報発信を行い、正しい医療知識の普及・啓蒙に努めている。診療科目は総合内科、内分泌代謝内科、糖尿病内科、皮膚科、耳鼻咽喉科、精神科、整形外科、形成外科。日本内科学会認定医、日本内分泌学会専門医、日本糖尿病学会専門医。

多臓器不全の概要

多臓器不全とは心臓や腎臓、肺、肝臓、脳など生きて行くために重要な臓器の内、2つ以上の臓器がうまく働かなくなる状態を指します。
複数の臓器に障害が起こることで、生命の維持に関わる大変危険な状態です。
多臓器不全の死亡率はとても高いとされています。
特に、65歳以上の高齢者、糖尿病や重い肝臓の病気をもつ患者さん、がんの患者さんなどは死亡率が高くなることが分かっています。
また、集中治療室(以下ICU)で治療を受ける患者さんでは、多臓器不全の頻度が大変高いとされています。
各臓器の障害が重度であればあるほど、また障害のある臓器が多いほど生命の危険が強くなります。

多臓器不全の原因

多臓器不全を起こす原因には、主に次のようなものがあります。

  • 重症感染症
  • 重症外傷
  • 広範囲の熱傷
  • 大きな手術
  • 大量出血
  • ショック
  • 重症膵炎
  • 播種性血管内凝固症候群(以下DIC)
  • 心不全
  • 低血圧
  • 低酸素血症
  • がん

上記の中でも頻度として最も多いのが、重症感染症です。
ICUにおける多臓器不全の中でも重症感染症による敗血症が最も多いとされています。
また、上記の原因が起こった後、二つの発生機序により多臓器不全を発症することが分かっています。具体的には次の通りです。

一次性多臓器不全

一次性多臓器不全は臓器自体の外傷や大量出血、ショック、心不全、低血圧などで血液の循環が悪くなることで起こります。
各臓器に必要な酸素や栄養が充分に運ばれず、各臓器が低酸素状態に陥ることで臓器の機能が障害され多臓器不全となります。

二次性多臓器不全

二次性多臓器不全は感染症や外傷などによるさまざまな炎症が原因で起こります。
炎症により、身体の防衛反応として働くサイトカインやホルモンなどの化学物質が過剰に生産されます。
サイトカインやホルモンが過剰に放出されることで、血管の内側を覆う細胞が障害され全身が炎症状態となり、各臓器が障害され多臓器不全となりうるのです。

多臓器不全の前兆や初期症状について

多臓器不全の症状は原因となっている臓器によって異なります。
また、複数の臓器に障害が起こるので、障害されている臓器に応じて症状もさまざまです。
主な臓器が障害された場合の症状については、以下の通りです。

肺の障害では呼吸がうまくできなくなり、息苦しさや呼吸不全が生じやすくなります。
呼吸不全とは、肺が身体の中に酸素を取り入れ二酸化炭素を出すという呼吸の働きが、不十分な状態を指します。
また、血液中の酸素が減少する低酸素血症の状態になり、人工呼吸器の管理が必要になるケースも少なくありません。

腎臓

腎臓は老廃物や余分な塩分、水分を尿として体の外へ排泄する働きがあります。
腎臓に障害が起こると、尿がでなくなったり全身がむくんだりする可能性が高いです。
最近では多臓器不全として急性腎不全を発症するケースが増えています。
特にICUで発症する急性腎不全は単一の臓器障害として発症する頻度は低く、多臓器不全の患者さんに認められることが少なくありません。

肝臓

肝臓の機能が低下し肝不全になると、皮膚や白目が黄色くなったり(黄疸)腹部が腫れたり(腹水)といった症状がみられます。
またほとんどの患者さんで、疲労や筋力低下、吐き気、食欲不振といった症状が出現する可能性が高いです。
ほかにも、出血しやすくなったり、止血が困難になったりすることがあります。
この場合、血圧低下や出血性ショックに至るケースも少なくありません。

心臓

心臓の症状としては脈が乱れる不整脈や、低血圧全身のむくみ息切れなどがみられます。
また、心臓が1分間に送り出す血液の量である心拍出量の低下も症状としてみられるでしょう。
これらの症状が起こる心臓の機能が低下した状態を心不全と呼びます。

臓器連関

多臓器不全は1つの臓器不全の症状がほかの臓器障害を増幅させる可能性があることが分かっています。
例えば、心臓の機能が低下している患者さんは、腎不全を合併しやすいとされています。
このように、各臓器が互いに相互作用を及ぼして病態を形成することを多臓器連関といいます。

上記のような症状が起こった場合、早期に治療を開始することが大変重要です。
多臓器不全の診療科は集中治療科や内科が中心となります。

多臓器不全の検査・診断

多臓器不全は複数の臓器に障害が起こっている可能性が高いため、検査も詳しくみていく必要があります。
検査や診断については以下の通りです。

多臓器不全の検査

多臓器不全の検査は、身体の各臓器の機能について詳しく調べます。
具体的には画像検査血液検査尿検査などの検査が中心です。
画像検査は胸部レントゲンやCTスキャン、心不全であれば心エコー検査を実施し、病気の有無や重症度を把握します。
また、血液検査では血液の成分や細胞数の増減を確認し、臓器の異常を発見します。
尿検査では尿中の蛋白などを調べることにより、病気の有無やその兆候を知ることができます。

多臓器不全の診断

多臓器不全の診断は基本的には2つ以上の重要な臓器がうまく働かない状態になっていれば、各臓器の障害の程度を総合的に評価して診断します。
具体的には肺、腎臓、心臓、肝臓、脳などの中枢神経、血液凝固(出血したときに血を固める傷口をふさぐ現象)などの数値を確認し、基準の数値と比較します。

多臓器不全の治療

多臓器不全は致死率が高いため、症状が見られた際は早急に治療を開始することが重要です。
各臓器の治療法については以下の通りです。

  • 循環不全:循環作動薬や補助循環装置
  • 呼吸不全:人工呼吸器の管理、高頻度振動換気法、PCPS
  • 腎不全:血液浄化法
  • 肝臓:血漿交換
  • DIC:凝固療法、補充療法

具体的に説明すると、心不全などの循環不全に対しては補助循環装置と呼ばれる心臓と肺の働きをサポートする装置を使用します。
また、腎不全に対しては血液を綺麗にする透析などの血液浄化法を行います。
上記は各臓器障害の症状に対する対症療法です。つまり、原因の根本的な治療ではなく、起こっている症状を和らげる治療にすぎません。
合わせて原因となっている病気の治療を早急に実施することが重要です。

多臓器不全になりやすい人・予防の方法

多臓器不全は基礎疾患や重症度、機能障害を起こしている臓器の数によって死亡率は異なりますが、それでも死亡率は高くとても重篤な病気です。
1つの臓器の治療が可能でも、ほかの臓器の治療が困難になることも少なくありません。
多臓器不全にならないためにも、多臓器不全になりやすい人や予防法について詳しくみていきましょう。

多臓器不全になりやすい人

多臓器不全は年齢に関係なく発症する可能性があります。
中でも、各臓器を長年使用している高齢者は多臓器不全になりやすいことが推測されるでしょう。
高齢者がなりやすいもので、多臓器不全への進展に影響を与える可能性がある要因には以下のものがあります。

  • 骨粗鬆症
  • 心機能障害
  • MRSA感染症
  • 消化性潰瘍
  • 嚥下障害および義歯の長期使用

また、外傷や熱傷、感染症の重症化が原因となり多臓器不全を引き起こす子どもの事例も少なくありません。

多臓器不全の予防方法

多臓器不全は原因となる病気や怪我を防ぐことが重要です。
外傷や火傷などを注意することは、結果的に多臓器不全の予防に繋がります。
また、多臓器不全は複数の臓器に障害が起こる病気です。
心不全や腎不全などの各臓器障害の原因となる高血圧や肥満、高血糖などを改善することは、多臓器不全の予防となるでしょう。
例えば、食生活では塩分を控え、野菜を積極的に取ることを意識します。
また、軽いジョギングやウォーキングなどの適度な運動習慣も予防につながるでしょう。
生活習慣の見直しを取り入れ健康管理に努め、病気の発症を予防しましょう。

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