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副島 裕太郎

監修医師
副島 裕太郎(横浜市立大学医学部血液・免疫・感染症内科)

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2011年佐賀大学医学部医学科卒業。2021年横浜市立大学大学院医学研究科修了。リウマチ・膠原病および感染症の診療・研究に従事している。日本内科学会 総合内科専門医・認定内科医、日本リウマチ学会 リウマチ専門医・指導医・評議員、日本リウマチ財団 リウマチ登録医、日本アレルギー学会 アレルギー専門医、日本母性内科学会 母性内科診療プロバイダー、日本化学療法学会 抗菌化学療法認定医、日本温泉気候物理医学会 温泉療法医、博士(医学)。

ツツガムシ病の概要

ツツガムシ病とは、名前の通りツツガムシに刺されることで起こる病気です。
ヒトが刺された際、ツツガムシが保有する細菌に感染することで、倦怠感や発熱、食欲不振、発疹などの症状が現れます。
江戸時代の頃は現在の新潟県、秋田県、山形県の河川の流域で夏季に発生し、多数の死者を出す風土病として知られていました。
その後、戦後になり新型ツツガムシ病の発生が確認され、現在は北海道を除く全国で見られる感染症です。
ツツガムシの種類には複数あり、主に北日本に生息するアカツツガムシ、全国に広く分布するフトゲツツガムシ、東北南部から九州にかけて生息しているタテツツガムシがよく知られています。
世界ではアジア地域を中心に分布しており、世界全体では年間100万人が感染している可能性があります。
日本国内においては毎年400〜500例の感染報告があり、ツツガムシが活動する時期である5月・6月・11月・12月に発生がピークとなります。
ツツガムシ病に感染した際の治療には、抗菌薬が用いられます。
適切な治療を受けられれば3日程度で軽快しますが、放置した場合の致死率は3%〜60%と生命に関わることがあり、注意が必要です。
ツツガムシ病は感染症法上、4類感染症に分類されており、診察した医師は感染者の全数を保健所に報告する義務があります。

ツツガムシ病の原因

ツツガムシ病の原因は、オリエンティア・ツツガムシ(Orientia Tsutsugamushi)と呼ばれる菌です。
この菌が人体に侵入し、通常5日〜14日の潜伏期間を経た後、発熱、頭痛、関節痛、発疹などの症状をもって発症します。
オリエンティア・ツツガムシには複数の型があり、標準3血清型とされるKato、 Karp、Gilliamの各型と、Kawasaki(Irie)、Kuroki(Hirano)、Shimokoshi型の計6種類の血清型が主に知られています。
アカツツガムシは Kato型を媒介し、フトゲツツガムシはKarp型とGilliam型、タテツツガムシはKawasaki型とKuroki型を媒介するとされています。
このほかでは2012年に山形県でヒゲツツガムシがShimokoshi型を保有することが報告されました。
また、沖縄県のつつが虫病はデリーツツガムシが媒介し、デリーツツガムシが保有するオリエンティア・ツツガムシは九州以北の型と異なり、台湾やタイに分布する型に近い種であることが確認されています。
菌を媒介するこれらのツツガムシはダニの一種で、幼虫の時期に野ネズミなどの哺乳動物に吸着し、その体液を吸う習性があります。
この幼虫のうち、病原体を持つ個体にヒトが吸着されると、体液を吸われる際に病原体である菌がヒトの体内に侵入します。
ツツガムシ全てが病原体を持っているわけではなく、0.1~3%が有毒のツツガムシです。
親から病原体を受け継いだツツガムシの幼虫が、ネズミなどではなくヒトに吸着してしまった場合にのみ感染することになります。
また、ヒトからヒトへの感染も起きません。

ツツガムシ病の前兆や初期症状について

ツツガムシに感染した場合、5日〜14日、多くの場合でおおむね1週間程度の潜伏期間があります。
代表的な症状に発熱、吸着された際にできる刺し口、皮膚の発疹があり、これらは患者さんの約9割に見られることから、主要三兆候と呼ばれます。
刺し口は10mm程度の大きさで、黒いかさぶたとその周辺に赤みを伴う特徴があります。
ツツガムシの幼虫は脇の下や股間といった、ヒトの身体のなかでも柔らかく発見されにくい部位を狙うことが多いため、ツツガムシ病が疑われる場合は全身をくまなく確認する必要があります。
潜伏期間を過ぎ、発熱や頭痛、全身の倦怠感、筋肉痛などの症状が現れた後、胴体部分に発疹が出て、やがて手足へ広がっていきます。
刺された箇所や全身のリンパ節が腫れることもあり、肝臓や脾臓の腫れを招く場合もあります。
重症化すると意識障害や多臓器不全、全身の血管に小さな血栓ができる播種性血管内凝固を起こすこともあり、治療を怠ると死に至る場合があります。
ツツガムシ病を疑う場合、まずは内科、または皮膚科を受診してください。

ツツガムシ病の検査・診断

原因のわからない発熱や発疹があり、ツツガムシの幼虫が活動する5月~6月あるいは11月~12月に河川敷、草むら、山に入った、または農作業への従事など、自然の中で過ごした場合はツツガムシ病が疑われます。
上記の時期はあくまで目安で、発生時期はその年の気候により変動することと、また海外で感染することもありますので、ツツガムシの生息域の近くで活動する人間は年間を通して警戒する必要があります。
診断の際は前述の主要三兆候を確認し、血液や血清、組織から抗体や病原体およびその遺伝子を検出し、確定します。

ツツガムシ病とよく似た病気について

ツツガムシ病と区別するため、症状が非常によく似ている「日本紅斑熱」という病気についても紹介しておきます。
日本紅斑熱は、日本紅斑熱リケッチアという病原体によってもたらされる病気で、この病原体を持つマダニに刺されることで感染します。
発生時期はマダニの活動が活発になる3月〜10月で、特に夏から秋にかけて多く見られます。
現れる症状としては頭痛や発熱、倦怠感があり、ツツガムシ病と同様、主要三兆候が見られます。
全体としてツツガムシ病と類似しており、臨床的に見分けることが難しい場合もありますが、違いとしては、

  • 潜伏期間が2日~8日とやや短い
  • 発疹が体幹部に見られるツツガムシ病と比べ、四肢の末端に表れやすい
  • ツツガムシ病に比べ、播種性血管内凝固の発症率が高いなど重症化しやすい

などの点が挙げられます。
野外でダニ類のいる場所に立ち入る場合は、併せて注意しておきましょう。

ツツガムシ病の治療

ツツガムシ病の治療には早い段階で適切な抗菌薬を用いることが重要です。
第一選択薬はテトラサイクリン系です。
適切な治療が行われた場合は3日程度で回復に向かいますが、重症化して意識障害などを起こした際は全身の管理が必要となり、専門の機関へ搬送される場合もあります。

ツツガムシ病になりやすい人・予防の方法

ツツガムシ病になりやすい人の特徴を挙げるならば、感染リスクの高い場所に立ち入る機会の多い人は、ツツガムシと接触する可能性が高まります。
実際に患者さんの多くは農作業や山登りをしていた中高年の方です。
また、キャンプやアウトドアスポーツを行う際にも注意が必要です。
ツツガムシ病を起こす病原体に対して、現状では有効なワクチンが存在しません。
これはツツガムシ病に複数の型があり、全ての病原体に有効なワクチンの開発が困難なためです。
そのため、予防法としてはダニの吸着を防ぐことしかありません。
ツツガムシの幼虫が身体に取り付いてもすぐに噛むわけではなく、衣服の上を移動して吸着しやすい部位への移動を試みます。
さらに、吸着してから病原体が人体の中へ侵入するまでに、少なくとも6時間以上の時間を要します。
これらの特徴から有効な予防法としては、

  • 河川敷や田畑、山の中に入る際は長袖・長ズボンを着用し、可能な限り肌の露出を避ける
  • 感染源のいるエリアへ立ち入った後は、帰宅後すみやかに入浴し、念入りに体を洗い流す
  • 家族への感染を防ぐため、感染源のいるエリアへ立ち入った際に着用していた衣服はすみやかに洗濯する
  • 虫除け剤(DEETを含む虫除けスプレーなど)を適宜使用する

など、感染源であるツツガムシの幼虫の侵入を許さない態勢を整えることが大切です。

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