監修医師:
白井 沙良子(医師)
ポリオの概要
ポリオは「ポリオウイルス」によって引き起こされる感染症です。多くは小児に発症するため「小児麻痺(脊髄性小児麻痺)」とも呼ばれていますが、成人にも発症することがあります。
ポリオウイルスは口から侵入して腸のなかで増殖します。感染しても多くは無症状で経過しますが、ウイルスが脊髄に侵入して手足の麻痺や呼吸困難などを起こすことがあります。感染後は数週間に渡りウイルスが便のなかに排泄されるため、便が感染源となってウイルスが広がります。
感染しても無症状感染が90〜95%を占め、その他約5%が「不全型」、1〜2%が「非麻痺型」、0.1%〜2%が「麻痺型」にわけられます。
発症後麻痺などの症状が永続的に残る恐れがあるため、完治させるための治療法が確立されていません。呼吸麻痺から死に至るケースもあるため、発症を予防するためにワクチンを接種することが推奨されています。
万が一ポリオを発症し、麻痺を認める場合には、残された運動機能を最大限活用するためのリハビリテーションなどが行われます。
ポリオは、「感染症法」で2類感染症に分類され、診断した医師による届出が義務付けられています。また、「学校保健安全法」では第1種に分類され、完治するまでは学校や園などへの出席を停止する必要があります。
1950年台までは世界各国で流行していましたが、ワクチン接種が励行されたことで感染者数は激減しました。日本を含む西太平洋地域では、2000年にポリオ根絶宣言が出されています。
(出典:厚生労働省検疫所FORTH 「疾患別解説 急性灰白髄炎(ポリオ)」)
ポリオの原因
ポリオの原因は「エンテロウイルス属」という種類に分類されるポリオウイルスです。ポリオウイルスは口から体内に侵入して喉の奥(咽頭)や腸管で増殖し、血流を介して全身に広がります。全身に広がったポリオウイルスはリンパ節から脊髄神経などに移行し、脳細胞や運動神経を障害します。
ポリオウイルスに感染しても、多くは無症状で経過します。しかし、感染した人の便からは数週間に渡ってウイルスが排出され続けるため、衛生環境が整備されていない地域では、トイレの使用などによって感染する可能性があります。
ポリオの前兆や初期症状について
ポリオウイルスに感染しても多くの場合無症状で経過しますが、中には頭痛や発熱、喉の痛み、吐き気、嘔吐などの全身症状を認めることがあります。
またポリオ患者の約1〜2%に該当する非麻痺型では、頭痛や発熱、喉の痛み、吐き気、嘔吐などの症状が現れたのち、「髄膜炎」を発症するケースがあります。
一方、全体の0.1%〜2%に該当する麻痺型では、ポリオとしてよく知られている麻痺症状が現れます。麻痺型では、手足に力が入らない「弛緩性麻痺」を認めます。一般的に筋肉痛や筋肉のけいれんなどの症状がみられるものの、中には前兆なく弛緩性麻痺を呈するケースもあります。また、弛緩性麻痺に加えや発語や呼吸、飲み込み(嚥下)が障害される「球麻痺」を合併するケースこともあります。
麻痺は自然に回復することが多いものの、発症から1年を経過しても麻痺や筋力の低下が持続する場合には、永続的に障害が残る可能性があります。
(出典:国立感染症研究所NIID 「ポリオ(急性灰白髄炎・小児麻痺)とは」)
ポリオの検査・診断
ポリオが疑われる場合には、ウイルス検査や血液検査が行われます。
ポリオの初期症状は他のウイルス性疾患と類似していることがあるため、特に麻痺が現れるまでの段階では診断が難しいことがあります。麻痺を認める場合は、ポリオを含むさまざまな疾患の可能性を考慮して検査を行います。
ポリオウイルスの感染を確認するためには、便や咽頭からの分泌物を採取して培養し、ウイルスを分離する検査が行われます。ポリオウイルスは感染後、数週間にわたり便のなかに排出され続けるため、糞便検査はポリオの診断で特に有効であるといわれています。
血液検査を行い、ポリオウイルスに対する抗体の有無やその量を測定することも診断の助けになります。血液検査により、既に感染したかどうかや、ワクチン接種によって免疫が形成されているかを確認することができます。
この他、脊髄液を採取してウイルスの存在や炎症反応などを調べることもあります。
ポリオの治療
ポリオの発症を認める場合は、症状に対する対症療法が中心に行われます。
現段階で、ポリオを完治させるための薬や治療法は開発されていません。麻痺などの症状を認める場合は、残された機能を最大限に活かすためのリハビリテーションなどが行われます。
球麻痺を呈し、自力で痰を排出できなかったり呼吸が困難になる場合は、気管切開や補助呼吸療法などが行われます。
ポリオになりやすい人・予防の方法
ワクチンを接種していない小児や、免疫力の低下している成人はポリオを発症するリスクがあるといえます。
国内ではポリオウイルスの流行はないものの、海外諸国では依然ポリオウイルスが流行している地域があります。特に発展途上国や紛争地域ではワクチンの普及や接種率が低く、衛生環境も整備されていないことから、免疫機能の獲得が未熟な小児は感染の確率が高まります。成人も感染する可能性があり、免疫抑制療法を受けている場合やHIV感染症などに罹患している場合は特に感染のリスクが高いため、ポリオウイルスの流行している地域へ渡航するときは十分な注意が必要です。
ポリオの発症予防には、ワクチン接種が最も有効です。ポリオワクチンには、経口ポリオワクチン(OPV)と不活化ポリオワクチン(IPV)の2種類があります。国内の予防接種では、経口ワクチンが用いられていましたが、平成24年から不活化ポリオワクチンを注射で投与する方法(四種混合ワクチン、五種混合ワクチン)が用いられています。
ワクチン接種を済ませていても、ポリオウイルスが流行している地域へ渡航する場合には、ワクチンの追加接種を受けることが推奨されています。特に0歳台の乳幼児や1975〜1977年代生まれの人はポリオウイルスの抗体量が低いといわれているため注意しましょう。
関連する病気
- 急性灰白髄炎
- 小児麻痺
- 脊髄性小児麻痺
- HIV感染症
- 髄膜炎
- ポリオ後症候群
参考文献