

監修医師:
五藤 良将(医師)
目次 -INDEX-
デング熱の概要
デング熱は、デングウイルスによって引き起こされる蚊媒介性の感染症です。主に熱帯・亜熱帯地域で流行しています。しかし近年では温暖化の影響により、これまで発生のなかった地域でも報告されています。
感染すると、無症状から重症までさまざまです。典型的な症状としては突然の高熱、頭痛、筋肉痛、関節痛などが現れます。多くの場合は1週間程度で自然に回復します。しかし一部の患者では重症化し、デング出血熱に進展することがあるので注意が必要です。
世界保健機関(WHO)の報告によると、2024年4月30日現在、2024年に760万件以上のデング熱症例が報告されています。そのうち、重症例は16,000件以上、死亡例は3,000件以上です。2024年には、デング熱の発生は90か国で確認されていますが、すべての症例が報告されているわけではありません。
熱帯や亜熱帯の全域が主なデング熱の流行地域です。ほかにも東南アジア、南アジア、中南米で多くの報告があります。アフリカやオーストラリア、南太平洋の地域でも発生があり、海外渡航をする際には注意が必要です。
多くの場合は、海外渡航者による輸入感染です。しかし近年では海外渡航歴がない場合の感染例も見られます。国内では、2014年に約70年ぶりに162例、2019年に4例の国内感染例が確認されています。
デング熱の原因
デング熱の直接的な原因は、デングウイルス(Dengue virus: DENV)の感染です。このウイルスはフラビウイルス科に属する小型のRNAウイルスで、4つの血清型(DENV-1、DENV-2、DENV-3、DENV-4)が存在します。
デング熱の主な感染経路は、蚊による媒介です。デング熱に感染した蚊に刺されることで感染します。主な媒介蚊はネッタイシマカで、日本には常在していません。しかし日本のほとんどの地域(本州以南)で見られるヒトスジシマカも媒介蚊の一種です。
ヒトスジシマカは、日中の屋外での活動性が高く、活動範囲は約50〜100メートル程度となります。活動時期は、5月中旬から10月下旬頃なので、アウトドアや野外活動を行う場合は刺されないように注意が必要です。
感染確率は低いですが、母親が妊娠中に感染することによって起こる母子感染や、輸血・臓器提供などによる感染例も記録されています。
デング熱の前兆や初期症状について
デング熱の症状は感染後2〜14日(通常3〜7日)の潜伏期間を経て現れます。症状の程度は個人差が大きく、無症状から重症まで幅広いことが特徴的です。
発熱期(2〜7日間)における症状
- 突然の高熱(38-40℃)
- 激しい頭痛
- 目の奥の痛み
- 筋肉痛・関節痛
- 吐き気・嘔吐
- リンパの腫れ
- 発疹
これらの症状のうち、2つ以上が見られる場合はデング熱を疑います。
重症型デング熱における症状
重症化したデング熱は、デング出血熱と呼ばれます。発症から3〜7日ほど経っても症状が回復しない場合は、重篤な状態と考えられます。その後24〜48時間の間に、急激な症状悪化が見られる可能性があり、合併症や死亡のリスクを減らすために、以下の症状に注意しましょう。
- 激しい腹痛
- 持続的な嘔吐
- 頻呼吸
- 歯肉や鼻からの出血
- 倦怠感
- 不安・興奮状態
- 肝肥大
- 嘔吐物や便に血が混じる
以上の症状が続く場合は、致命的な合併症である血漿漏出、体液貯留、呼吸促迫、重度の出血、臓器不全などが起こっていると考えられます。重篤な状態になった場合、回復期も含め厳重な経過観察が必要です。
デング熱の診断は、血液検査でのみでしか判断できません。デング熱の初期症状が出た場合、まずは内科へ受診しましょう。症状が軽度の場合でも、デング熱が疑われる際は速やかに医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが重要です。特に、海外渡航歴がある場合や、国内でデング熱の流行が報告されている地域に滞在歴がある場合は、その旨を医療機関に伝えましょう。
また帰国時に症状があり、デング熱を疑う場合、検疫所で検査の必要があると判断される場合があります。その際は、検疫所で検査を受けることが可能です。
デング熱の検査・診断
デング熱の診断は、臨床症状、渡航歴、血液検査結果などを総合的に評価して行われます。確定診断には特異的な検査が必要です。
問診と身体診察
- 渡航歴:デング熱流行地域への渡航歴を確認します。
- 症状の経過:発熱の開始時期や随伴症状を詳細に聴取します。
- 身体診察:発疹、リンパの腫れなどの有無を確認します。
血液検査
熱帯・亜熱帯地域への海外渡航歴がある発熱患者で、白血球や血小板の減少が見られる患者においては、デング熱が疑われるため血液検査を行います。
デング熱を診断する方法は主に以下の3つです。
- PCR法によるデングウイルスの検出
- 非構造蛋白(NS1)抗原の検出
- IgM抗体の検出(ペア血清による抗体陽転または優位な上昇)
PCR法は、地方衛生研究所や国立感染症研究所での行政検査として行われます。NS1抗原やIgM抗体は、ELISA法やイムノクロマト法によって測定可能です。
他の感染症の除外診断
チクングニア熱やジカウイルス感染症は、臨床症状や白血球減少などの血液検査所見がデング熱と似ているため、鑑別が難しい傾向です。検査をする場合は、これら3つの疾患をまとめて行うことがあります。
デング熱の治療
デング熱に対する特異的な治療法はなく、対症療法がメインです。医師の診断を受けたあとは、自宅にて安静にし、しっかりと水分補給を行います。状況や症状に応じて、入院治療や緊急入院、救急搬送もあります。
発熱や頭痛、筋肉痛などへの対症療法として、解熱剤や鎮痛剤を使用します。基本的にはアセトアミノフェン(パラセタモール)が最も適しています。
デング熱は、出血の危険性がある疾患なので、抗凝固作用をもつイブプロフェンやアスピリンなどのNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)は避けます。抗生物質はデング熱には効果がないため、予防的な投与は通常不要です。また脱水予防のために点滴補液療法が行われることもあります。
デング熱になりやすい人・予防の方法
デング熱になりやすい人
- 流行地域への渡航者や滞在者、流行地域に居住している人
デング熱流行地域を訪れる旅行者や出張者、居住者は、感染リスクが高くなります。 - 屋外活動が多い人
蚊に刺される機会が増えるため、感染リスクが上昇します。 - 免疫機能が低下している人
慢性疾患がある、乳幼児や高齢者など免疫機能が低下している場合は、リスクが高まります。 - 既往感染者
デングウイルスに罹患歴のある人は異なる血清型に感染した場合、重症化のリスクが高くなります。
デング熱の予防方法
現在、デング熱に対するワクチン使用は一般的ではありません。よって日々の予防が重要です。以下の予防法を意識しましょう。
蚊から刺されないようにする
- 蚊帳の使用
- 網戸、蚊取り線香の使用
- 長袖・長ズボンの着用
- 虫除け剤の適切な使用
蚊の繁殖を避ける
- 屋内外の水たまりを除去する
- 家庭用の貯水槽は蓋をし清掃と水の入れ替えを行う
- 貯水容器の適切な殺虫処置
- デング熱入院感や殺虫剤処理ネットの使用
媒介蚊やウイルスの調査監視(サーベイランス)
- 蚊とウイルスの積極的な監視
- 各地点における蚊の収集、スクリーニングによりウイルスの流行を予測する
流行地域に対する注意
- 渡航地域の流行状況を確認する
- 虫除けや蚊の忌避剤などを用意する
- 蚊に刺されないような服装を準備する
コミュニティとの連携
- デング熱を含めた蚊が媒介する疾病のリスクについて啓発する
- 厚生労働省などが発行している啓発ツールなどを使い周知させる
さらに重症化を予防するためには、早期発見・早期受診が大切です。発熱や筋肉痛などの症状が現れた場合は、速やかに医療機関を受診しましょう。
関連する病気
- ジカ熱
- 黄熱
- チクングニア熱
- 麻疹
- 風疹
- 腸チフス
- 肝機能障害
- 自己免疫性血小板減少症
参考文献




