

監修医師:
植田 郁実(医師)
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千葉大学医学部卒業。市立豊中病院/大阪大学医学部附属病院で初期研修、淀川キリスト教病院で後期研修。現在は大阪大学医学部附属病院勤務。日本小児科学会専門医。
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チック症の概要
チック(Tic)は、単一筋または複数の筋群に起こる短時間の、素早い、反復する、無目的にみえる常同的な運動と定義されています。 チック症は主に幼児期、特に4〜11歳の間に発症するとされています。 チック症は通常、運動性チックと音声チックに分けられ、さらに持続期間によって、一過性チック症(1年以内に消失)と慢性チック症(1年以上持続)に分類されます。さらに、チックの症候学的分類により単純性チックと複雑性チックに分けられます。 一つのスペクトラムとも考えられています。病因については顕性遺伝を示唆する家族発症が少なくないことが知られていますが、その責任遺伝子は解明されていません。 多くの場合、チック症は成長とともに自然に軽快しますが、運動性チックと音声チックの両方が一年以上続くトゥレット症もあります。チック症の原因
チック症の主な原因については、現在も完全には解明されていません。しかし、顕性遺伝を示唆する家族歴が多いことが知られています。また、黒質線条体ドパミン神経異常と考えられ、非運動系皮質―線条体―視床―皮質ループの異常や脱抑制であると示唆されています。 二次性チック症はさまざまな神経疾患に出現することが報告されています。 例えばSydenhan舞踏病やウイルス性脳炎を含む感染症、中毒性代謝性(一酸化炭素中毒や低血糖症)、高血圧や基底核のラクナ梗塞などです。 環境要因も一因です。長期休暇明け、行事、不安、緊張、興奮、感染症、睡眠不足、疲労は増悪因子となります。 また、神経発達の過程における一時的な現象として捉える見方もあり、多くの場合、年齢とともに症状が自然に軽減します。これらの要因が複雑に絡み合って、チック症の発症や持続に影響を与えていると考えられています。チック症の患者数
チック症は幅広く、軽症なものまで含めると子どもの5〜10人に1人に見られる、比較的ありふれた症状です。多くの場合、特に診断や治療を受けることなく自然に軽快することが多いようです。チック症の前兆や初期症状について
初期のチック症は、典型的には顔から上半身にかけて単純な動き(例えば、目の瞬き、口をゆがめる、頭のピクピクなど)および/または短時間で意味のない音(例えば鼻をすする、のどを鳴らすなど)がみられます。 また、チック症の前に前駆的衝動(Urge)が見られ、これはムズムズする、かゆみ、圧迫感、不快感として表現されることもあれば、より一般的な「身体のどこかがおかしい」という感覚として表現されることもあります。つまり、「チックをしたくなる」ことを前駆的衝動といい重症度と関連します。 チックが抑制されるとこの衝動が増大することが多く、患者さんは「嫌な感じを取り除く」、「体のエネルギーを出す」ためにチックを行い、チック症状が出現した直後に一時的にすっきりした感覚、「するとすっきりする」と訴えてチックを繰り返します。チック症の病院探し
小児科や神経内科(脳神経内科)の診療科がある病院やクリニックを受診して頂きます。チック症の経過
チック症は主に4〜11歳に発症することが多く、12歳頃を境に減っていきます。 症状が1年以内に消失するものを一過性チック症、運動性か音声チックのいずれかが1年以上続くものを慢性チック症、両者が1年以上続くものをトゥレット症と言います。 名前の由来は最初にチックを記載したフランス人医師トゥレット『Georges Gilles de la Tourette(1857―1904)』によります。 チック症は成長とともに自然に軽快(中学生までのうちに症状が消失)することが多いとされています。成人になるまでに約50%の方は自然治癒していきます。 一部のケースでは大人になっても症状が持続したり、再発したりすることがあります。チック症の検査・診断
問診では症状の経過や家族歴などを詳細に聞き取ります。 実際のチック症状(チックの種類、頻度、複雑さ、持続期間など)を観察し評価します。米国精神医学会(APA)の精神疾患の診断・統計マニュアル、改訂第5版(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition :DSM-5)のText Revision(DSM-5-TR)に基づいて診断が行われますが、ほかの神経学的疾患や精神疾患との鑑別も行います。 必要に応じて、脳波検査と睡眠ポリグラフや脳MRIなどの画像検査、表面筋電図、Gating SEPを行い、器質的な神経学的異常がないかを確認します。 併存症として注意欠如多動症(Attention deficit hyperactivity disorder :ADHD)や強迫症、不安症などの有無を調べるため、心理検査を行うこともあります。 診断が難しい場合は、症状の経過を見るために一定期間の観察が必要な場合もあります。鑑別診断
てんかん発作(チックと類似した不随意運動を引き起こす可能性があるため、脳波検査などで鑑別が必要)や強迫症(強迫行為がチックと似た動作を引き起こすことがある)、ADHD(併存や鑑別が必要)、常同行動(自閉スペクトラム症に見られる反復的な動きとの区別が必要)、薬剤性の不随意運動(抗精神病薬などによる遅発性ジスキネジアとの鑑別)、ハンチントン病やウィルソン病などのほかの神経学的疾患との鑑別を行います。チック症の治療
チック症に対する治療法はまだ確立されていませんが、主に薬物療法と行動療法、難治例には外科治療があります。 一般小児科外来では、単純性の運動・音声チックが多いようですが、本人も気にならず生活に支障がなければ経過観察となります。しかし、運動・音声とも激しい場合、または複雑チックがある、注意欠如多動症、強迫症、不安症、睡眠覚醒障害などの合併症がある場合は、適切で積極的な介入が必要と考えられています。 治療者は薬物治療を行う前に、保護者に症状や治療、見通しについての十分な説明を行い、彼らの不安を取り除くことが大切です。 1)薬物療法 通常はドパミンD2受容体阻害剤(ハロペリドール、ピモジド)が使用されますが、小児期に使用するには、ドパミンは発達過程において上位脳、特に前頭葉の発達に重要であるため慎重をきします。10歳代半ば以後になってもチック症が残っている時は内服治療を考慮します。ピモジドはドパミン受容体を特異的に遮断するとされ、ハロペリドールに比べ副作用が少なく、効果は同等です。また、クロニジンが有効とする報告もあります。 2) 行動療法 チックが出現しそうになったとき、チックと競合する運動、あるいはチックと同じ運動をゆっくり行うhabit reversal trainingがあります。症状への気づき(awarenesss)、競合反応訓練(competing response training)、周囲の支援(social support)の三段階からなります。 3)外科治療 薬物療法など行ったにもかかわらず、重度の症状が大人になっても継続される難治性トゥレット症の場合、最終的な選択肢として脳深部刺激療法(Deep Brain Stimulation :DBS)が検討されます。チック症になりやすい人・予防の方法
チック症は主に幼児期から発症することが多く、男子に多い傾向があり、症状は成長につれて消失するか、軽快します。 また遺伝的要因が関与していると考えられており、家族歴のある人はチック症になりやすい傾向があります。チック症状は環境や状態による変化があり、不安、緊張、興奮、疲労などのストレスがチックの誘発や増悪に関係することがわかっています。 逆に、心身ともに落ち着いている状態のときは改善する傾向にあります。ADHD、強迫症、自閉スペクトラム症などの神経発達症を併発している人はチック症になりやすい傾向にあります。 予防策としては、リラクゼーション法の習得、睡眠の確保、趣味の活用など、ストレス対策を行うことが有効です。さらに、家族や学校・職場の理解と協力を得ることで、本人のストレスを和らげることができ、本人の社会生活への適応が容易になります。これらの予防策を組み合わせることで、チック症の発症や増悪を抑える一助になり得ます。参考文献
- チック障害との関連による OCD の検討
- あきらめないチック・トゥレット治療
- 伊藤規絵著:ねころんで読める歩行障害 メディカ出版,大阪,2023
- 吃音、チック症、読み書き障害、不器用 の特性に気づく「チェックリスト」 活用マニュアル
- DSM5 病名・用語翻訳ガイドライン(初版)




