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鳥インフルエンザ
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

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防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

鳥インフルエンザの概要

鳥インフルエンザは、鳥類に感染するインフルエンザウイルスが人に感染することによって引き起こされる感染症(人獣共通感染症)です。鳥インフルエンザウイルスは主にA型インフルエンザウイルスに分類され、H5N1やH7N9などのサブタイプが知られています。これらのウイルスが人間に感染すると、重篤な症状を引き起こすことがあります。家禽(鶏、アヒル、七面鳥など)に感染して深刻な被害をもたらすことがあり、養鶏業にも大きな影響を及ぼします。以下、主に人間に感染した場合を中心に記載します。
なお、鳥インフルエンザウイルスは、鳥の体内で遺伝子改変が起こることがあります。それがヒトへ感染することにより、新型インフルエンザの大流行(パンデミック)が発生する可能性があることから、WHOがもっとも警戒しているウイルスです。高病原性鳥インフルエンザウイルス(HPAI)は、遺伝子変異によりヒト-ヒト感染性を獲得した場合、世界的なパンデミックの引き金となる恐れがあり、WHOも警戒を呼びかけています。そのため鳥インフルエンザが発生した場合、ウイルスの拡散を防ぐため、感染した鳥はなるべく早く処分され、埋却か焼却を行うことが家畜伝染病予防法(家伝法)で定められています。

鳥インフルエンザの原因

鳥インフルエンザの原因は、インフルエンザウイルスA型の感染です。このウイルスは鳥類の呼吸器や消化器に感染し、さまざまな症状を引き起こします。以下に、鳥インフルエンザの主要な原因について詳述します。

  • ウイルスの種類
    鳥インフルエンザウイルスはA型インフルエンザウイルスに属し、多くのサブタイプがあります。低病原性、高病原性に分けられ、特にH5N1、H7N9、H5N8などが高病原性として知られています。これらのウイルスは、高い致死率を持っています。
  • 感染経路
    ウイルスは飛沫感染や接触感染をするとされており、主に唾液、鼻水などの分泌物、糞便、臓器、死骸を通じて拡散されます。また羽や粉末状になった糞などを大量に吸い込んだりして濃厚に接触すると、まれに人に感染します。感染した鳥との直接接触や、ウイルスが付着した餌、水、道具、環境などを介しても感染が拡大します。野生の渡り鳥がウイルスを運び、地理的に広範囲にわたって感染を拡大させることもあります。
  • 環境要因
    高密度で飼育される家禽は、いったん感染してしまうと感染がいっきに拡大するリスクの高い状態です。また、衛生管理が不十分な場合、ウイルスが容易に拡散することもあります。湿度や温度などの環境要因もウイルスの生存や伝播に影響を与えることがあります。

なお、鳥インフルエンザウイルスは、鳥の体内で遺伝子改変が起こることがあります。それがヒトへ感染することにより、新型インフルエンザの大流行(パンデミック)が発生する可能性があることから、WHOがもっとも警戒しているウイルスです。高病原性鳥インフルエンザウイルス(HPAI)は、遺伝子変異によりヒト-ヒト感染性を獲得した場合、世界的なパンデミックの引き金となる恐れがあり、WHOも警戒を呼びかけています。そのため鳥インフルエンザが発生した場合、ウイルスの拡散を防ぐため、感染した鳥はなるべく早く処分され、埋却か焼却を行うことが家畜伝染病予防法(家伝法)で定められています。

鳥インフルエンザの前兆や初期症状について

鳥インフルエンザの初期症状や前兆には以下のようなものがあり、人間が鳥インフルエンザウイルスに感染した場合でも、インフルエンザに類似した症状が現れます。

  • 初期症状
    高熱(38℃以上)、咳・喉の痛み、筋肉痛、関節痛、全身の倦怠感などがあります。
  • 進行した場合の症状
    呼吸困難・息切れ、胸痛、肺炎の進行による胸部の異常音がみられます。重症化すると急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を引き起こし、生命の危険を伴います。

鳥インフルエンザの前兆や初期症状が見られた場合に受診すべき診療科は、感染症科、感染症内科です。ただし感染症科でも、鳥インフルエンザの診療経験のある医師は少ないです。海外の流行地域から帰ってきたなどの経歴や、病状から鳥インフルエンザが疑われた時点で、大学病院などで入院治療を受けることになるでしょう。

鳥インフルエンザの検査・診断

鳥インフルエンザの診断には以下のような検査が行われます。

  • 分子生物学的検査
    PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法により、鳥インフルエンザウイルスの遺伝子を検出します。鼻咽頭スワブや喉スワブ、鳥の場合は糞便や気管スワブなどのサンプルを採取し、ウイルスRNAを増幅して検出します。この方法は迅速かつ正確であり、特に発症初期に有効です。
  • ウイルス分離
    患者さんや感染した鳥から採取した検体(喉や鼻のスワブ、糞便など)を培養し、ウイルスを分離します。これにより、ウイルスの種類やサブタイプを特定することができます。ウイルス分離は時間がかかるため、迅速な診断が必要な場合にはほかの検査と併用します。
  • 血清学的検査
    血液検査で抗体の有無を調べます。感染後に体内で生成された抗体を検出すると、過去の感染歴を確認することができます。急性期と回復期の血清を比較することで、抗体価の上昇を確認し、感染の有無を確定します。
  • 画像診断
    胸部X線やCT検査を用いて肺炎やほかの呼吸器疾患の有無を確認します。これにより、病状の進行度を評価します。特に重症化した場合、肺炎を確認するための重要な手段となります。

鳥インフルエンザの治療

鳥インフルエンザの治療は、感染した人間と鳥類に対して異なります。人間に対する治療を以下に述べます。

  • 抗ウイルス薬
    オセルタミビル(タミフル)やザナミビル(リレンザ)などの抗ウイルス薬が使用されます。これらの薬剤は、ウイルスの増殖を抑制し、症状の軽減や病状の進行を防ぐ効果があります。早期の投与が効果的であり、発症後48時間以内に開始することが推奨されます。
  • 支持療法
    症状に応じて、解熱剤や鎮痛剤、酸素療法などが行われます。重症の場合、集中治療室での管理が必要となることがあります。例えば、呼吸困難が見られる場合には人工呼吸器の使用が検討されます。

鳥インフルエンザに感染した鳥は、通常、殺処分されます。これはウイルスの拡散を防ぐための措置です。

鳥インフルエンザになりやすい人・予防の方法

鳥インフルエンザになりやすい人としては、以下の条件を持つ人が挙げられます。

  • 家禽業従事者
    鳥インフルエンザウイルスに直接接触する機会が多いため、感染リスクが高まります。特に、感染が確認された地域や施設で働く場合は注意が必要です。
  • 野鳥観察者
    渡り鳥などの野生鳥類と接触する機会が多い人も、感染リスクが高くなります。
  • 感染地域への旅行者
    鳥インフルエンザが流行している地域に旅行する人は、感染のリスクが高まります。例えば、アジアでは中国(特に広東省や江蘇省など)、ベトナム、インドネシア、韓国、中東ではエジプト、ヨーロッパではドイツ、オランダ、フランス、アフリカではナイジェリア、北アメリカではアメリカ、南アメリカではチリに認められ、特に家禽農場が密集している地域や大規模な家禽農場が存在する地域での発生が目立ちます。渡り鳥によるウイルスの持ち込みが原因とされており、冬季に渡り鳥が飛来する時期に発生が増加する傾向があります。

予防の方法

  • 衛生管理
    家禽の飼育環境を清潔に保ち、定期的な消毒を行うことが重要です。また、野生鳥類との接触を避けるために、飼育場の囲いを強化することが推奨されます。ウイルスの監視と管理が重要視されています。
  • 防護具の使用
    家禽業従事者は、マスク、手袋、防護衣などの個人防護具を使用し、感染リスクを低減することが重要です。
  • 感染防止策の徹底
    鳥インフルエンザが発生した地域では、消毒や移動制限が実施され、感染の拡大を防ぎます。また、感染が確認された場合には迅速な報告と対応が求められます。感染地域の家禽が予防的に殺処分されることもあります。
  • 旅行時の注意
    鳥インフルエンザが流行している地域に旅行する際は、生きた家禽や市場での接触を避けることが推奨されます。また、手洗いや消毒を徹底し、感染予防に努めることが重要です。
  • 健康管理
    発熱や呼吸器症状が現れた場合、速やかに医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが重要です。また、定期的な健康チェックを行い、早期に異常を発見することが大切です。
  • ワクチン
    鳥インフルエンザに対する特定のワクチンはまだ広く利用されていませんが、研究が進められており、将来的には予防接種が可能になることが期待されています。現在開発中のワクチンは、特定のサブタイプに対する防御を目指しており、臨床試験が行われています。2023年現在、米国NIHや製薬企業によりmRNA技術を用いたH5N1ワクチンの臨床試験が進行しており、将来的なパンデミック対応に備えたストックパイルが議論されています。

関連する病気

  • 高病原性鳥インフルエンザ
  • 急性呼吸窮迫症候群
  • 細菌性肺炎
  • 脳炎
  • 脳症
  • 多臓器不全
  • 重症急性呼吸器症候群

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