

監修医師:
山本 佳奈(ナビタスクリニック)
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滋賀医科大学医学部 卒業 / 南相馬市立総合病院や常磐病院(福島)を経て、ナビタスクリニック所属/ 専門は一般内科
目次 -INDEX-
アデノウイルス感染症の概要
アデノウイルスは、ヒトに広範な症状を引き起こすウイルスのひとつです。このウイルスはAからGの7つの種に分類されており、現在100を超える型が存在します。 アデノウイルスに感染すると、風邪のような症状、結膜炎、胃腸炎などを引き起こします。 このウイルスは、主に飛沫感染や接触感染を通じて広がり、環境中でも長時間生存することができるため、特に集団生活をしている人々は注意が必要です。学校や保育園、介護施設などでは集団感染が発生しやすく、手洗いや消毒、マスクの着用、適切な換気など、予防策の徹底が求められます。アデノウイルス感染症の原因
アデノウイルスは、アデノウイルス科マストアデノウイルス属に属するヒトアデノウイルス(human adenovirus: Ad)で、エンベロープを持たない2本鎖DNAウイルスです。このウイルスは物理化学的に大変安定しています。 アデノウイルス感染症の感染経路は、主に接触感染と飛沫感染です。感染者の咳やくしゃみから飛散する飛沫を吸い込んだり、感染者が触れた物体や表面に触れた手で目や口、鼻を触ったりすると感染が広がります。 日本では、咽頭結膜熱や感染性胃腸炎、流行性角結膜炎が毎週報告されています。これらの疾患は夏にピークを迎える傾向にありますが、近年では冬にもピークを迎えることがあり、年間を通じて報告が見られます。 このウイルスは、急性上気道炎や肺炎といった呼吸器感染症、流行性角結膜炎といった眼感染症、感染性胃腸炎などの消化器感染症を引き起こすことが代表的です。さらに、出血性膀胱炎などの泌尿器感染症や、稀に脳炎や肝炎を引き起こす場合もあります。 小児を中心に流行が見られ、健常児では無治療でも自然軽快する例もありますが、免疫不全患者さんでは致命的な経過をたどるケースがあり、注意が必要です。 アデノウイルスの種や型によって、関連する疾患は異なります。具体的に、以下のような違いがあります。| 種 | 疾患 | 型 |
|---|---|---|
| A | 感染性胃腸炎 | 12・31 |
| B1 | 急性呼吸器感染症 結膜炎 尿道炎 | 3・7 |
| B2 | 出血性膀胱炎 (尿道炎) | 11・34・35 |
| C | 急性呼吸器感染症 結膜炎 (尿道炎) | 1・2・5・6 |
| D | 流行性角結膜炎 尿道炎 | 8・19・64・37・53・54 ・56・85 |
| E | 急性呼吸器感染症 結膜炎 (尿道炎) | 4 |
| F | 感染性胃腸炎 | 40・41 |
| G | 感染性胃腸炎 | 52 |
アデノウイルス感染症の前兆や初期症状について
アデノウイルス感染症の初期には、以下のような症状が見られます。呼吸器感染症
呼吸器感染症では、感染初期にのどの腫れや痛みなどが見られます。重症化すると気管支炎や肺炎に進展するケースも全くないとは言えません。特に乳幼児が感染しやすく、髄膜炎や脳炎、心筋炎などの重篤な併発症を引き起こすこともあります。発熱が長引いたり、咳や呼吸障害が続く場合、症状が深刻になることがあるため、迅速な対応が求められます。このような症状が現れた場合は、早めに耳鼻咽喉科や内科を受診することが重要です。咽頭結膜熱(プール熱)
咽頭結膜熱、通称プール熱は、37〜39℃の発熱が数日続き、のどの腫れや痛み、結膜炎を伴う場合があります。両目または片目が真っ赤に充血し、目やにが出ることが特徴的な症状です。 咽頭結膜熱は、かつて、夏にプール利用時の接触やタオルの貸し借りなどで流行したため「プール熱」と呼ばれるようになりました。学校保健安全法上の学校感染症のひとつであり、主要症状がなくなった後も2日間の登校禁止となります。このような症状が見られた場合は、小児科や内科を受診しましょう。流行性角結膜炎(はやり目)
流行性角結膜炎は、はやり目とも呼ばれます。咽頭結膜熱のように高熱やのどの痛みは強くないものの、目が充血し、目やにが出ます。結膜炎が治った後に、目の表面に小さな傷ができることが多く、特に幼児では目の内側に白い膜ができることがあります。 流行性角結膜炎も学校保健安全法上の学校感染症のひとつで、伝染の恐れがなくなるまで登校禁止となります。症状が出た場合は、眼科を受診し、判断を仰ぎましょう。胃腸炎
胃腸炎では嘔吐や下痢が主な症状で、ひどい場合には高熱を伴うこともあります。症状が見られた場合は、小児科や内科を受診してください。出血性膀胱炎
膀胱に感染すると、排尿時の痛みや真っ赤な血尿が見られる例があります。こうした症状は2〜3日で軽快し、尿検査での潜血も10日程度で改善するのが一般的です。症状が現れた場合は、泌尿器科を受診しましょう。アデノウイルス感染症の検査・診断
アデノウイルス感染症が疑われる場合の検査・診断の手順は、以下の通りです。- 問診
- 診察
- 検体採取
- 検査実施
- 結果の確認
- 抗原定性検査
- PCR検査
- 迅速診断キット
抗原定性検査
アデノウイルスの特異的な抗原を検出する方法です。検体を採取する場所は、症状に応じて、喉の奥、眼の結膜、便などがあります。結果が出るまでの時間は約5分から10分と迅速で、クリニックや病院で広く利用されています。PCR検査
ウイルスの遺伝子を検出する方法で、高い精度で診断が可能です。喉や鼻の分泌物を採取し、アデノウイルスのDNAを増幅して検出します。ウイルスの種類を判別する際に用いられます。迅速診断キット
喉や鼻の分泌物を用いて短時間で結果が得られる検査です。即時性が求められる場合に適しています。検査結果を基に、医師が診断を行い、適切な治療方針が決定されます。アデノウイルス感染症の治療
現在のところ、国内においてアデノウイルス感染症に対する特異的な抗ウイルス薬はありません。そのため、治療は主に、以下のような対症療法が中心となります。安静と休養
体力を消耗しないよう、十分な休息を取ることが大切です。水分補給
高熱が続くと脱水症状になるリスクが高まります。口から十分に水分を取れない場合は、医療機関で点滴を行います。解熱剤や鎮痛剤
発熱や痛みを和らげるために、医師の指示に基づき解熱剤や鎮痛剤を使用します。目のケア
結膜炎の症状がある場合は、目の洗浄や点眼薬を使用して症状を和らげます。そのほかの対策
症状に応じて適切な治療を行います。例えば、咳や喉の痛みに対する処置、下痢や嘔吐に対する対策などです。 臓器移植後の免疫不全状態では、アデノウイルスが致死的な感染症を引き起こすリスクがあります。このような患者さんには厳重な感染予防と、感染が確認された場合には迅速な医療対応が重要です。アデノウイルス感染症の概要になりやすい人・予防の方法
アデノウイルス感染症は、接触感染および飛沫感染によって広がります。そのため、特に免疫力が低い人や集団生活をしている人が感染しやすいと言えるでしょう。なりやすい人
アデノウイルス感染症になりやすい人は、主に以下の通りです。- 小児
- 高齢者
- 免疫不全患者さんなど
予防の方法
アデノウイルス感染症を予防する方法は、主に以下のようなものが挙げられます。- 手指衛生の徹底
- 次亜塩素酸ナトリウムを含む消毒剤
- 眼科での早期発見と対策
- 教育機関での衛生管理の徹底
参考文献




