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エムポックス
中路 幸之助

監修医師
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)

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1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。

エムポックスの概要

エムポックス(以前はサル痘)は天然痘に似たウイルス感染症で、日本国内では感染症法上の4類感染症に指定されています。

主な症状は発熱・悪寒・頭痛・筋肉痛・リンパ節の腫れ・発疹で、多くの場合2〜4週間で自然回復します。致死率は1〜10%程度でほとんどは軽症で済み、ヒトからヒトへの二次感染率も数%程度です。2023年5月にWHOの勧告に基づいて感染症法上の名称が変更され、サル痘から現在のエムポックスという名称に変わりました。

ヒトのエムポックスは、1970年のザイール(現在のコンゴ民主共和国)で初めて確認されました。それ以降、中央・西アフリカ地域では主に熱帯雨林でたびたび流行しています。自然界では主にアフリカに生息するげっ歯類が宿主と考えられていますが、正確には特定されていません。

また、アフリカ大陸以外ではエムポックスウイルスを保有する動物は確認されていません。2022年に世界的な流行が起こるまでは西アフリカを中心とした一部の地域のみの感染症でした。しかし、2003年にアメリカで71名のエムポックス感染者が発生したという例外的な事例があります。これは、ガーナから輸入された愛玩用げっ歯類がエムポックスウイルスに感染していて、それが北米に住むプレーリードッグに感染したことが原因とされています。ところが、2022年5月以降に世界的な流行が始まりました。ヨーロッパやアメリカ地域を中心に流行国への渡航歴のない感染者が多く報告されるようになったのです。

2023年7月には112の国と地域で88,000人以上の感染が確認され、日本でも2022年7月に1例目の患者さんが確認されています。

エムポックスの原因

エムポックスは、病原体であるポックスウイルス科オルソポックスウイルス属のサル痘ウイルス(俗称としてエムポックスウイルスと書かれることがある)に感染することで発症する病気です。

2022年の流行以前は感染者の多くは動物からの感染でしたが、2022年以降はヒトからヒトへの感染も多く報告されています。

動物からの感染経路

アフリカに生息するリスなどのげっ歯類をはじめ、サルやウサギなどウイルスを保有する動物に咬まれたり、感染動物の血液・体液・皮膚病変と接触したりすることで感染します。

ヒトからヒトへの感染経路

感染したヒトの血液・体液・皮膚病変との接触感染したヒトが使用した寝具などとの接触によって感染します。また、患者さんとの対面によって長時間飛沫にさらされた場合も感染する場合があり、国外では男性間で性交渉を行う人の感染例が多く報告されています。

2系統のウイルス型

エムポックスのウイルスは、大まかにはコンゴ盆地型と西アフリカ型の2系統に分けられます。前者の感染例の致死率は10%程度、後者は1%程度と報告されています。またコンゴ盆地型は強毒型、西アフリカ型は弱毒型などともいわれます。2003年にアメリカで71名の感染者が発生した流行は、弱毒性の西アフリカ型であったため死亡者は出ていません。

エムポックスの前兆や初期症状について

エムポックスは潜伏期間が通常7〜14日、最大で5〜21日とされ、潜伏期間の後に発熱・悪寒・頭痛・筋肉痛・リンパ節の腫れなどの症状が1〜5日程度続きます。

リンパ節の腫れが特に見られるのは、顎下・頸部・鼠径部です。

その後発疹が現れます。初期の発疹は平坦ですが、だんだんと水ぶくれのようになります。初期では発疹を伴う水痘や麻疹などのほかの病気と区別がつきにくいことがありますが、リンパ節の腫れが伴うことが多いのがエムポックスの特徴です。

発疹が現れる箇所は、顔から始まって体幹部へと広がるのが典型的な症状です。また発疹は皮膚だけでなく口腔や陰部、結膜や角膜に現れることもあります。

2022年以降の欧米を中心とした流行では、それ以前の報告とは異なり発熱やリンパ節の腫れなどの前兆が見られない場合があります。

また、病変が会陰部・肛門周辺・口腔などの局所に集中して全身性の発疹が見られない場合があることも、それ以前の流行とは異なる点です。

ほかに、ヒトからヒトへの感染の場合は接触した部位に発疹が出現しているという報告もあります。

エムポックスは多くの場合は軽症で、2〜4週間で自然に治りますが、子どもが感染した場合や患者さんの健康状態・合併症などによっては皮膚の二次感染・気管支肺炎・敗血症・脳炎・角膜炎などの合併症を起こし重症化することもあります。

エムポックスの前兆や初期症状が見られる場合は、まずは最寄りの保健所に相談しその指示に従ってください。

医療機関を受診する際には、マスクを着用して咳エチケットに留意し、感染経路となりやすい発疹部位をガーゼで覆うなど感染を広げないための対策も必ず行ってください。

エムポックスの検査・診断

問診によって前述したようなエムポックスが疑われるような症状があった場合、診断を確定させるためにはPCR検査などが行われます。PCR検査には、水ぶくれのようになった発疹の内容液や蓋または組織が用いられます。

検査では、血液中の抗原・抗体を調べる血清診断でエムポックスと確定させることはできません。ウイルス種を判別するには、遺伝子診断が行われます。

そのため、強毒性のコンゴ盆地型と弱毒性の西アフリカ型のどちらのウイルスに感染しているかということもわかるのです。

エムポックスの治療

日本では2024年7月時点でエムポックスに対して利用可能な薬事承認された治療薬はまだありません。そのため、治療としては対症療法が行われています。

ヨーロッパやアメリカでは治療薬としてテコビリマットが使用許可されていますが、科学的には効果がほぼないことがわかっています。日本ではテコビリマットをヒトでの臨床試験のデータなしで承認しています。

エムポックスになりやすい人・予防の方法

エムポックスの症例が多い人・注意が必要な人と、予防の方法については以下のとおりです。

エムポックスになりやすい人

日本では2022年7月25日に国内1例目の患者が報告され、2023年以降も患者の発生があり、2024年8月23日時点で248例の症例が確認されています。2022年5月以降は、流行国への海外渡航とは関連のない患者さんが多くを占めるようになりました。エムポックスは誰でも感染するリスクのある病気で、子どもや女性にも感染例がありますが、2022年5月以降の世界的な流行で報告されている症例の多くは成人男性です。特に男性間で性交渉を行う人(MSM)に発症例が多いことが、各国で報告されています。

感染対策

発熱や発疹などのエムポックスが疑われる症状が出ている場合は、マスクを着用しこまめに手を洗いアルコール消毒を行いましょう。2022年以降の流行に関する海外のデータでは性交渉が主な感染経路とされているため、不特定多数との性交渉や原因不明の発疹がある場合の性交渉は避けてください。患者さんのいる家庭では、患者さんが使用した寝具や衣類などは直接触れないようにします。洗濯する際には手袋などを着用し、密閉できる袋に入れて洗いましょう。作業終了後は必ず手を洗ってください。また、エムポックスは水ぶくれのような発疹のかさぶたがはがれ落ちてなくなるまで感染力があるとされているため、患者さんが元気になっても接触には注意が必要です。

ワクチンによる予防

天然痘のワクチンである痘そうワクチン(世界には主に3種類があり、うち1つは国産)がエムポックスにも有効で、約85%の発症予防効果があるという推測もあります。さらに、エムポックスウイルス曝露後4日以内の痘そうワクチンの接種でエムポックスの感染予防効果、曝露後4〜14日の接種で重症化予防効果があるという報告もあります。ただし日本では1976年以降、痘そうワクチンの接種は一般には行われていません。市販されていない状況です。また、2022年の流行では4〜18%で過去に天然痘ワクチンを接種した人の感染症が確認され、国内でも1975年度生まれ以前の定期接種世代の感染者が確認されています。そのため、流行地では前述した感染対策を徹底し、感染者やできれば動物との接触も避けた方が賢明でしょう。

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