

監修医師:
村上 知彦(薬院ひ尿器科医院)
目次 -INDEX-
クラミジアの概要
ヒトに病気を引き起こすクラミジア属細菌は3種類あります。クラミジア・トラコマチス、肺炎クラミジア、オウム病クラミジアです。
クラミジア・トラコマチスは、主に性行為によって病原体が粘膜に感染することで発症します。若年の男女によくみられる性感染症です。潜伏期間は1〜3週です。
肺炎クラミジアは飛沫感染で急性呼吸器感染症を発症します。潜伏期間は3〜4週です。
オウム病クラミジアは、ほとんどの場合、病鳥の排泄物からの病原菌吸入により感染することで発症します。潜伏期間は1〜2週です。
クラミジアの原因
クラミジアは、感染する部位によって感染経路が異なります。疾患別・感染経路別の原因は以下のとおりです。
クラミジア・トラコマチス
クラミジア・トラコマチスの主な感染原因はキス・性行為など粘膜の接触感染です。一度の性行為での感染率は30〜50%と、感染する確率が高いです。粘膜を介して感染するので、喉・直腸・結膜も感染経路になります。尿や分泌物が粘膜に触れることでも感染します。
肺炎クラミジア
肺炎クラミジアは、感染した人の咳やくしゃみによって感染する飛沫感染です。病院外で発生する肺炎のほとんどは、肺炎クラミジアによるものである可能性が高いです。
オウム病クラミジア
オウム病クラミジアは、感染した鳥の排泄物から出る粒子を吸い込むことで感染する飛沫感染です。まれな肺炎であるオウム病を引き起こします。オウム・オカメインコ・アヒル・ハトなどの鳥類にみられます。人獣共通感染症です。
クラミジアの前兆や初期症状について
クラミジアの原因が異なるように、症状も感染部位によって異なります。
また、どのような症状が出るかや性別などによって受診する診療科も変わりますので、下記の項目を参考にしてください。
クラミジア・トラコマチス(女性)
無症状のことがほとんどです。症状があっても、おりものが少し増える・生理痛のような痛み・不正性器出血などです。ごくまれに黄色い濃いおりものが出ることもあります。クラミジアをそのまま放置し進行すると、卵管炎・腹膜炎・不妊症を起こすことがあります。症状に心当たりのある方は、婦人科で受診しましょう。妊婦の方が罹患すると、流産や早産のリスクになります。心配な方は主治医に相談してください。また、症状がないために罹患していることを知らず、数年に渡り放置してしまっている方も少なくありません。妊娠希望の方は、事前に検査をしておくことをおすすめします。
クラミジア・トラコマチス(男性)
尿道がむずかゆい、排尿時に軽い痛みがある程度など症状は軽いです。尿道から膿が出ることもあります。治療せず放置しておくと、精巣上体炎・男性不妊症を引き起こすことがあります。精巣上体炎の症状は、陰嚢の腫れや痛み、38°C以上の高熱などです。症状に心当たりのある方は、泌尿器科で受診してください。
クラミジア・トラコマチス(新生児)
母親が感染していると、出産時に膣の粘膜を介して新生児に感染し、結膜炎や肺炎を発症させてしまうことがあります。結膜炎は生後5〜12日目に、目やにや結膜充血などの症状が出ます。肺炎の場合の症状は、1〜2ヶ月の潜伏期間を経て、呼吸回数が増える・ゼーゼーもしくはヒューヒューなど呼吸時に音がする・痰や喀血を伴う咳が出るなどです。低出生体重児は重症化することがあるので、注意が必要です。お子さんの状態に少しでも違和感を感じたら、小児科で受診しましょう。
クラミジア・トラコマチス(その他)
オーラルセックスでは咽頭に感染することもあります。ほとんどが無症状ですが、喉の腫れや違和感、痰の絡みなどを自覚することもあります。この場合、男女ともに耳鼻咽喉科で受診しましょう。感染者の体液が目に入ることで、クラミジア性結膜炎を発症することもあります。目やにが増える・かゆみがある場合には眼科で受診してください。
肺炎クラミジア
咳が出始める前に、声のかすれや喉の痛みを自覚することがほとんどです。その理由は、喉などの上気道に感染したクラミジア・トラコマチスが、下降して肺に至ることがほとんどだからです。そのため咳が出始めると、徐々に増悪していく傾向にあります。同時に38度程度の発熱が見られることもあります。全身の状態が悪化していくので、倦怠感が現れる方がほとんどです。近年では、血管などに慢性感染を起こす可能性が明らかになってきています。それにより、動脈硬化性疾患に関わる可能性が指摘されています。ただの風邪かもと思わず、呼吸器内科で受診しましょう。
オウム病クラミジア
38度以上の急激な発熱・重度の頭痛・咳の症状が出ます。軽症の気道感染から、肺炎や髄膜炎にまで至ることもあります。症状が気になる方は呼吸器内科で受診しましょう。そのときに、鳥類との接触があったかを伝えることも大切です。
クラミジアの検査・診断
感染部位によっての検査項目を、下記にまとめました。
ご自身の症状にあわせて、どのような検査をし診断されるのか確認してください。
クラミジア・トラコマチス
クラミジア・トラコマチスでは綿棒で膣からサンプルを採取するか、尿をサンプルとして用いて、核酸増幅検査が行われます。核酸増幅検査は、各微生物に固有の遺伝物質であるDNAかRNAを探します。この細菌のDNAかRNAの量を増やす処理を行って菌を特定し、クラミジア・トラコマチスの診断をつけます。
クラミジア肺炎
血液検査・胸部X線検査・胸部CT検査・喀痰を採取し核酸増幅検査も行われます。それらの結果をもとにクラミジア肺炎と診断します。その他、呼吸数や酸素飽和度などの全身状態の観察が行われ、医師により重症と判断された場合には入院治療が行われます。
オウム病クラミジア
血液検査・胸部X線検査・胸部CT検査・喀痰検査が行われます。血液からは抗体が上昇しているかを調べ、喀痰検査ではオウム病クラミジアの菌体や遺伝子を証明します。その結果により、オウム病クラミジアの診断がなされます。
クラミジアの治療
クラミジアの治療は、基本的に抗菌薬の投与が行われます。ですが、感染部位によって投薬期間が異なったり、効果的な抗菌薬の種類が異なったりします。
医師の処方のもと治療が行われます。各治療法については下記を参考にしてください。
クラミジア・トラコマチス
マクロライド系・ニューキノロン系・テトラサイクリン系の抗生物質の内服治療が行われます。内服治療は7日程度が一般的ですが、症状が広範囲に及ぶ場合には、点滴治療が行われることもあります。治療後3週間以上あけて再検査を行い、クラミジアが治っているかの判定が必要です。クラミジアに罹患しているか、治癒しているかの検査は、パートナーも一緒に行うことが大切です。ご自身もパートナーもクラミジアが治っているとわかるまで、性行為を控えてください。自然治癒することのない病気ですので、きちんと医療機関で受診し、適切な検査と治療を受けるようにしましょう。
クラミジア肺炎
新生児の場合はマクロライド系抗生物質を使用し、エリスロマイシンの点滴注射が行われます。成人の場合、テトラサイクリン系抗生物質やニューマクロライド系を使用することがほとんどです。10〜14日間と長めの投薬期間が望ましいとされています。医師の治療方針に従いましょう。中等度以上の肺炎にいたってしまった場合は、点滴治療を行うこともあります。呼吸状態に異常が認められる場合には、入院治療が必要になることもあります。
オウム病クラミジア
ミノサイクリンやクラリスロマイシンなどの内服治療を行います。除菌を考慮し約2週間内服を継続することが推奨されています。医師の治療指示に従い、正しく治療しましょう。症状が重く中等症以上の場合、ミノサイクリンの点滴静脈注射の入院治療が行われます。
クラミジアになりやすい人・予防の方法
これまで述べましたように、感染経路が異なれば予防方法も異なります。
なりやすい人の特徴も併せてご紹介しますので、ご自身にあてはまることはないか、確認してみてください。
クラミジア・トラコマチス
性器クラミジア感染症の予防接種はありません。感染して一度治っても、免疫を取得しないので再度感染します。予防としてできることは、性行為や性的類似行為を含む性的接触時には、コンドームを必ず使用することです。感染しても無症状であることがほとんどなので、不特定の相手との性接触や複数の性的パートナーがいる場合には感染しやすいといえます。定期的に検査をして感染の有無を確認しましょう。
クラミジア肺炎
学校や介護施設などの閉鎖的環境で生活する人が特にかかりやすいとされています。手洗いとうがいをする・咳エチケットを守る・人ごみを避ける・室内の換気を定期的にするなどが大切です。その他、免疫力が低下していたり持病があったりする方は感染しやすくなるため、注意しましょう。
オウム病クラミジア
オウムなどを飼育している方は、オウム病になりやすいです。鳥に触れたらすぐに手を洗う・掃除をこまめに行う・素手で糞にふれないようにしましょう。鳥が弱ったときや排菌が疑われる場合には、獣医師の判断でテトラサイクリン系の餌を与えることもあります。そうでなくても、鳥との過度な濃厚接触を避け清潔を心がけるのがよいでしょう。
関連する病気
- 不妊症
- 異所性妊娠
- 骨盤内炎症性疾患
参考文献




