監修医師:
大坂 貴史(医師)
生活習慣病の概要
生活習慣病とは、日常の不健康な生活習慣が積み重なることが発症や悪化の要因となる疾患の総称です。
代表的な生活習慣病には、高血圧症、糖尿病、脂質異常症(高脂血症)、肥満、メタボリックシンドローム、心臓病、脳卒中などがあります。これらの疾患は、動脈硬化を引き起こし、心筋梗塞や脳梗塞など命に関わる重大な病気のリスクを高めます。
生活習慣病は、過去には「成人病」とも呼ばれていましたが、近年では食生活や運動習慣、ストレス管理などの要因が大きく影響しており、子どもや若い世代にも発症することがあるため、「生活習慣病」という呼び名に変更されました。
生活習慣病は、特定の生活習慣を見直すことで予防や改善ができる可能性があります。生活習慣病は、初期段階では自覚症状がほとんどなく、進行してから初めて気付くケースが多いため、早期発見と予防が重要です。健康的な食事、適度な運動、禁煙、適正体重の維持、ストレス管理といった健康的な生活習慣が、生活習慣病の予防に大きく寄与します。
生活習慣病の原因
生活習慣病の主な原因は、不健康な生活習慣です。
これらの習慣が長期間続くことで、体内でさまざまな異常が蓄積され、最終的に生活習慣病を引き起こします。
以下に、生活習慣病の代表的な原因を説明します。
- 不健康な食生活:
食生活の乱れは、生活習慣病の主要な原因です。
高エネルギーで栄養バランスの悪い食事、特に脂肪分や糖分、塩分の多い食事は、肥満、高血圧症、糖尿病、脂質異常症などを引き起こすリスクを高めます。例えば、外食やファーストフード、スナック菓子、清涼飲料水などの過剰摂取は、エネルギーオーバーを招き、肥満の原因となります。また、野菜や果物などのビタミンやミネラル、食物繊維が不足することで、高血圧症や糖尿病の悪化の原因の一つとなります。 - 運動不足:
現代の社会では、デスクワークやインターネットの利用が増え、体を動かす機会が減少しています。
運動不足は、肥満やメタボリックシンドロームを引き起こすだけでなく、筋力低下や血流の悪化、代謝の低下を招き、生活習慣病の進行を早めます。余暇の運動は、体重のコントロールや血圧、血糖値の管理に役立つため、運動不足が続くと生活習慣病のリスクが高まります。 - 喫煙:
喫煙は、動脈硬化を促進し、心臓病や脳卒中の大きな原因となります。タバコに含まれるニコチンやタールなどの有害物質が、血管の収縮による血流量の低下、酸素や栄養の供給低下を招くため、喫煙者は心筋梗塞や狭心症のリスクが高くなります。また、喫煙は肺がんや呼吸器系の疾患の原因にもなります。 - 飲酒:
過度な飲酒も生活習慣病の原因です。
アルコールの摂取が多いと、肝臓に負担がかかり、脂肪肝や肝硬変、さらには肝がんのリスクが高まります。また、飲酒は肥満や高血圧症、糖尿病のリスクを高めることもあります。適度な飲酒は問題ありませんが、長期間にわたる過剰な飲酒は生活習慣病を悪化させる要因となります。 - ストレス:
長期間のストレスは、自律神経やホルモンバランスに悪影響を及ぼし、生活習慣病を引き起こすリスクを高めます。また、心理的ストレスが原因で暴飲暴食や喫煙、過度の飲酒に走ることも、健康への悪影響の一因となります。 - 睡眠不足:
睡眠不足は、体のホルモンバランスを乱し、生活習慣病のリスクを高める要因です。睡眠が不足すると、血糖値や血圧が高まりやすくなり、肥満や糖尿病のリスクが増加します。また、睡眠不足が続くことで、免疫機能が低下し、体がストレスに対する抵抗力を失うため、病気にかかりやすくなります。
生活習慣病の前兆や初期症状について
生活習慣病は、初期段階ではほとんど自覚症状がないため、気付かないまま進行してしまうことが多いです。しかし、進行するにつれて体にさまざまな兆候が現れることがあります。
以下に、生活習慣病の主な前兆や初期症状を説明します。
高血圧症の症状
高血圧症は、初期段階では自覚症状がほとんどありませんが、かなり進行すると以下のような症状が現れることがあります。
- 頭痛(特に後頭部の痛み)
- めまい
- 耳鳴り
- 動悸や息切れ
高血圧症が放置されると、動脈硬化が進行し、心筋梗塞や脳卒中のリスクが高まります。
糖尿病の症状
糖尿病も初期段階では自覚症状がほとんどありませんが、かなり進行すると以下のような症状が現れます。
- のどが異常に渇く
- 多尿(頻繁に尿が出る)
- 体重減少
- 疲れやすい
糖尿病は、血糖値が長期間高い状態が続くことで、さまざまな合併症を引き起こすため、早期の発見が重要です。
脂質異常症の症状
脂質異常症は、血中の脂質(コレステロールや中性脂肪)が異常に増加した状態です。これも自覚症状がないため、検査で発見されることが多いです。
脂質異常症が悪化すると、心筋梗塞や脳卒中を引き起こすリスクが高まります。
肥満の症状
肥満は、体重増加や体脂肪の蓄積によって引き起こされます。肥満が進行すると、次のような症状が現れます。
- 息切れや動悸
- 膝や腰の痛み
- 疲れやすくなる
肥満は、高血圧症や糖尿病、脂質異常症と密接に関係しており、放置するとメタボリックシンドロームに進行するリスクが高くなります。
生活習慣病の検査・診断
生活習慣病の診断には、主に血液検査や身体検査が用いられます。
これらの検査によって、血糖値や血圧、コレステロール値などが確認され、生活習慣病の早期発見が可能です。
血液検査
血液検査では、血糖値、HbA1c(過去1〜2か月の血糖コントロール状態を反映する値)、コレステロール値、中性脂肪、肝機能、腎機能などを調べます。これにより、糖尿病や脂質異常症、肝臓や腎臓の異常を発見することができます。
血圧測定
高血圧症の診断には、定期的な血圧測定が必要です。診察時の血圧測定だけでなく、家庭での血圧測定が重要です。高血圧症が確認された場合、さらに詳しい検査が行われることがあります。
身体測定
肥満やメタボリックシンドロームの診断には、BMI(体格指数)やウエスト周囲径の測定が行われます。特に、内臓脂肪型肥満(お腹周りに脂肪が多いタイプ)は、生活習慣病のリスクが高いため、ウエスト周囲径の測定が重要です。
尿検査
糖尿病の合併症や腎機能の状態を評価するために、尿検査が行われます。尿中の蛋白や糖の有無を確認し、腎臓の機能を評価します。
生活習慣病の治療
生活習慣病の治療は、主に生活習慣の改善と薬物療法が中心となります。病気の進行度や合併症の有無に応じて、個別に治療計画が立てられます。
生活習慣の改善
- 食事療法:
適切なエネルギー量と栄養バランスの取れた食事を心がけ、エネルギーや脂肪、糖分、塩分の摂取を調整します。野菜や果物、魚を中心とした食生活が推奨されます。糖尿病の方の場合は、血糖値の上昇を抑えるために、食物線維の摂取や食事のタイミングなども重要です。 - 運動療法:
適度な運動は、生活習慣病の予防や改善に効果的です。有酸素運動(ウォーキング、ジョギング、サイクリングなど)や筋力トレーニングを取り入れることで、体重の管理や血糖値、血圧のコントロールができます。 - 禁煙:
喫煙は、生活習慣病の進行を早める要因の一つです。禁煙は、心筋梗塞や脳卒中の予防に直結し、健康状態の改善に大きく寄与します。禁煙外来やサポートプログラムを活用して、計画的に禁煙を進めることが推奨されます。 - 節酒:
アルコールの摂取量を適度に抑えることも重要です。過度な飲酒は、生活習慣病を悪化させるリスクがあるため、適度な飲酒量を守ることが大切です。
薬物療法
- 降圧薬:
高血圧症があり血圧が一定以上か生活習慣の変化でも改善しない場合には、降圧薬が処方されます。主な薬剤には、ACE阻害薬、ARB、カルシウム拮抗薬、利尿薬などがあり、患者の状態に応じて選択されます。 - 血糖降下薬:
糖尿病の治療には、血糖値をコントロールするための薬物が使用されます。注射薬にはインスリン、GLP-1受容体作動薬があり、経口血糖降下薬には様々な種類があり、患者の状態により選択されます。 - 脂質異常症治療薬:
コレステロールや中性脂肪の値が高い場合、スタチン系薬剤やフィブラート系薬剤が処方されることがあります。これにより、動脈硬化の進行を抑制します。
生活習慣病になりやすい人・予防の方法
生活習慣病になりやすい人
生活習慣病は、以下のようなリスク要因を持つ人に発症しやすいです。
- 肥満の人:
特に内臓脂肪型肥満の人は、生活習慣病のリスクが高まります。 - 喫煙者:
長期間の喫煙習慣がある人は、動脈硬化や心臓病のリスクが増加します。 - 高血圧症や糖尿病の家族歴がある人:
遺伝的な要因も生活習慣病のリスクを高めることがあります。 - 運動不足の人:
デスクワークが多い人や運動習慣がない人は、生活習慣病になりやすいです。
予防の方法
生活習慣病の予防には、健康的な生活習慣を維持することが最も効果的です。
- 健康的な食生活:
適切なエネルギー量とバランスの取れた食事を心がけ、野菜や果物を多く摂取することで、生活習慣病のリスクを軽減できます。また、塩分や脂肪分を控えることが重要です。 - 定期的な運動:
週に150分以上の有酸素運動を行うことで、体重の管理や血圧のコントロールが可能です。また、筋力トレーニングを取り入れることで、代謝を上げることができます。座位時間を減らす事も重要です。 - 禁煙・節酒:
喫煙や過度な飲酒を控えることは、生活習慣病の予防に不可欠です。禁煙外来やサポートプログラムを利用して、健康的な習慣を取り戻すことが大切です。 - 定期的な健康診断:
生活習慣病は早期発見が鍵です。定期的に健康診断を受け、血糖値や血圧、コレステロール値を確認することで、リスクを早めに把握し、予防策を講じることができます。