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脚気
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

脚気の概要

脚気 (かっけ) はビタミンB1 (チアミン) が不足することによって起こる病気です (参考文献 1) 。
脚気の症状は主に神経系の障害による症状と、心臓が十分に機能を果たせなくなることによる症状の2つがあります (参考文献 1)。脚気とは異なる概念ではありますが、同じビタミンB1が欠乏して起こる病態としてウェルニッケ・コルサコフ症候群というものもあります (参考文献 1)。
脚気やウェルニッケ・コルサコフ症候群はビタミンB1が欠乏することによっておこるので、これらの予防や治療には食生活の見直しが重要です。

脚気の原因

脚気はビタミンB1 (チアミン) が欠乏することによって起こる病気です。身体の中で適切なビタミンB1の濃度を維持するためには継続的にチアミンを摂取する必要があるとされています (参考文献 1) 。ビタミンB1は身体の中でエネルギーを作る際に重要な役割をになっているほか、神経における信号伝達にも関連があることが知られています (参考文献 1) 。

ビタミンB1が欠乏する原因として、まずは栄養バランスの悪い食生活が挙げられますが、アルコールの摂取量が多くビタミンB1の需給バランスが崩れていること、胃を切るような減量手術の既往や、妊娠中でビタミンB1の需要が増えたり悪阻 (つわり) で十分な栄養摂取をできないことも欠乏症の原因になります (参考文献 2)。

乳児も脚気になることがあります。母親のビタミンB1摂取量が十分でないと、ビタミンB1が十分に含まれない母乳を飲むことになってしまい、結果的に乳児でもビタミンB1が足りなくなってしまうのではといわれています (参考文献 1) 。

脚気の前兆や初期症状について

共通する初期症状としては吐き気やイライラ、短期の記憶能力が低下するといったものがあります (参考文献 2)。他の症状は病気のタイプによって分かれるので、乳児の脚気、成人の脚気に分けて説明します

乳児脚気

乳児脚気の症状は多様で、甲高い鳴き声や、声を出さずに泣く、無意味な行動、意識変容、チアノーゼ、呼吸困難、嘔吐、興奮状態、心肥大、頻脈、肺高血圧などがあるとされています (参考文献 1)。
色々ありますが、ご自宅で気づける症状としては「赤ちゃんがいつもと違う、おかしい」というものになるかと思います。

成人の脚気

成人の脚気の症状は乾性脚気と湿性脚気とに分かれます (参考文献 1)。
乾性脚気は主に四肢末端の感覚障害 (しびれ) や運動障害 (動かしにくさ) を特徴とする末梢神経障害 、湿性脚気では乾性脚気の症状に加えて心不全や浮腫、頻脈などの心臓に関連する症状があります (参考文献 1)。

ウェルニッケ・コルサコフ症候群の症状

脚気とは違いますが、ビタミンB1欠乏状態はウェルニッケ・コルサコフ症候群の原因にもなります。
眼球運動障害、ふらつきなどに代表されるような運動失調、意識障害の3つの症状が最初に出てきます (参考文献 1)。また、ウェルニッケ・コルサコフ症候群はビタミンB1欠乏状態を治療した後にも症状が残ることがあります (参考文献 2)。

このような症状がある方は、まずは最寄りの内科へ行きましょう。

脚気の検査・診断

普段の食生活や病歴を聴取した後、身体診察では腱反射などをみたり、浮腫などの心不全症状を確認していきます (参考文献 2)。

血液検査ではビタミンB1や、ビタミンB1の代謝にかかわる様々な因子の濃度を測定します (参考文献 2)。

脚気の治療

ビタミンB1が足りないことによって起こる病気なので、ビタミンB1を補充することによって治療します (参考文献 2)。点滴や経口での摂取に加えて、筋肉に注射することもあります。

もちろん、食生活に代表されるようなビタミンB1欠乏にいたった根本の原因を解決しなければなりません (参考文献 2)。
食事内容の見直しや、アルコール摂取量を減らすといったようなことが一番の治療になります。1人で取り組むことが難しいことが予想されますので、様々な医療スタッフと協力して進めていきます (参考文献 2)。

脚気になりやすい人・予防の方法

脚気は日本で大流行した過去があるため、その歴史から紹介します (参考文献 3)。

日本における脚気流行の歴史

江戸時代、それまで玄米中心に食べてきた庶民の間にも白米が普及したころから「足元がおぼつかなくなる」といって体調を崩すひとが増え始め、「江戸わずらい」とよばれるようになりました。現在ではこの江戸わずらいは、玄米から白米に主食が変化したことによるビタミンB1不足だと考えられています。
また、明治以降、軍隊に入った人たちは「白米が沢山食べられる!」と魅力に感じていた人も少なくなかったようですが、白米に著しく偏った食生活によって軍隊内で脚気が流行するといった歴史もあります。いわゆる「海軍カレー」に代表されるような洋食を食事に導入することによって、白米だけではなく多くの食材や副食を摂取するようになり、軍隊内での脚気撲滅の一助になったともされています。
ビタミンB1が発見されて、この欠乏が脚気の原因になることが解明されるのは、しばらく後のことになります。

脚気になりやすい人・予防の方法

これらの歴史からも想像に難くないように、脚気になりやすいのは栄養バランスの悪い食生活の人、予防において重要なのはバランスのとれた食事です。ビタミンB1の多く含まれる豚肉、玄米、枝豆、豆腐 (参考文献 4) を意識的に摂取することが予防につながるといえるでしょう。

現代では白米中心で食事バランスの悪い人に加えてアルコール摂取量が多い人がリスクが高いと言われています (参考文献 2)。
インスタント食品中心など、栄養バランスの悪い人だとビタミンB1が欠乏しやすいということはイメージしやすいと思いますが、アルコールの多量摂取もビタミンB1欠乏につながります (参考文献 2)。
その他にも妊娠中の方や減量手術、利尿剤を長期間利用している人はハイリスクなので (参考文献 2) 、ビタミンB1の多く含まれた食材の入った食事をするようにしましょう!


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