

監修医師:
眞鍋 憲正(医師)
目次 -INDEX-
ターナー症候群の概要
ターナー症候群は、女性の性染色体に異常が生じることに起因する先天性疾患です。ターナー症候群は、低身長や性腺機能不全、特徴的な身体的特徴を主症状とし、高い流産率も報告されています。
発症メカニズムは、X染色体の全体あるいは一部の欠失により、正常な発育に必要な遺伝子の機能不全が生じることに由来すると考えられております。
女性のみに発症し、1,000〜2,500人に1人の割合で見られます。症状には個人差が大きいものの、低身長、性腺発育不全による無月経、翼状頸、外反肘などの特徴的な身体所見を呈します。また、妊娠が成立した場合でも流産リスクが高いため、慎重な妊娠管理が必要とされています。
ターナー症候群の原因
健常女性は2本のX染色体を有しますが、ターナー症候群では、そのうち1本の全体または一部が欠失しています。この欠失により、正常な発育に必要な遺伝子の機能が障害されます。主に、X染色体短腕上の成長決定遺伝子SHOXや、Y染色体短腕上のリンパ管形成遺伝子の発現量の減少が、低身長や浮腫などの症状に関与すると考えられています。
また、減数分裂時の相同染色体の対合不全の程度や、染色体不均衡による非特異的な発達障害も、表現型の多様性に影響を与えていると推測されます。ターナー症候群の発症は、複合的な要因によって引き起こされるのです。
ターナー症候群の前兆や初期症状について
ターナー症候群の前兆や初期症状は主に低身長、腺異形成、奇形徴候、知的面が存在します。ターナー症候群は、主に小児科や内分泌内科で診療が行われます。
低身長
ターナー症候群の患者さんは、出生時から身長が平均よりも小さい傾向があります。
差は年齢とともに顕著になり、3歳頃から同年代の女児と比べて身長の伸びが緩やかになります。思春期に入っても、健常女性に見られる急激な身長の伸びは期待できず、無治療の場合、最終的な身長は138cm前後にとどまります。
低身長は、X染色体短腕上の成長決定遺伝子SHOXの欠失や、Y染色体長腕近位部の成長決定遺伝子GCYの欠失、さらには染色体不均衡による影響が主な原因と考えられています。早期発見と適切な治療介入が重要であり、思春期前の成長ホルモン療法の開始が、最終身長の改善に大きく寄与すると期待されています。
腺異形成
ターナー症候群の患者さんの多くは、思春期に二次性徴の発現が見られないか、不完全であることが特徴です。健常女性では、10歳前後から卵巣から分泌される女性ホルモンの作用により、乳房の発育や初経を迎えますが、ターナー症候群では卵母細胞の早期死滅による卵胞形成不全のため、この過程が障害されます。
卵母細胞が思春期前に消失してしまう場合は原発性無月経、思春期以降から40歳までの間に消失する場合は続発性無月経を呈します。
性腺異形成の程度は、減数分裂時の相同染色体対合不全の程度と相関していると考えられています。稀ではありますが、妊娠、出産に至った患者さんの報告もあり、個人差が大きいのもターナー症候群の特徴といえるでしょう。
奇形徴候
ターナー症候群の患者さんには、特徴的な身体的徴候が見られることがあります。骨格系では、外反肘や第4中手骨短縮などが挙げられ、X染色体短腕上の成長決定遺伝子SHOXのヘテロ欠失に起因すると考えられています。
軟部組織では、翼状頚やリンパ浮腫などが特徴的で、内臓奇形としては大動脈縮窄や馬蹄腎などが報告されています。軟部組織徴候と内臓奇形は、リンパ管の低形成によってもたらされた一連の奇形シークエンスであると推測されています。
知的面
ターナー症候群の患者さんの多くは、知的に正常な範囲にあり、真面目な性格の方が多いとされています。しかし、算数(特に図形)や体育などの特定の分野に苦手意識を持つことがあります。
一方で、稀ではありますが、明らかな知的障害を呈する場合もあり、これはXISTが欠失した環状X染色体による活性型ダイソミーが主な原因と考えられています。また、認知能力の低下や自己免疫関連疾患の発症率の増加なども報告されています。
ターナー症候群の検査・診断
ターナー症候群が疑われる場合、確定診断のために血液細胞の染色体検査が行われます。検査では、20個以上の細胞を分析し、X染色体の全体または一部の欠失を確認します。また、正常な細胞と異常な染色体を持つ細胞が混在するモザイク状態の評価も重要です。
診断が確定した後は、低身長、心疾患、腎奇形、性腺機能低下症などの症状についても詳細な評価が必要です。低身長の評価には成長ホルモン分泌刺激試験、心疾患や腎奇形の評価には超音波検査、性腺機能低下症の評価には女性ホルモン(性腺刺激ホルモン)の検査などが行われます。検査結果を総合的に判断し、個々の患者さんにおすすめできる治療方針を決定していきます。
ターナー症候群の治療
ターナー症候群の根本的な治療法は確立されていませんが、各症状に対する対症療法が行われます。
低身長に対しては、診断後早期から成長ホルモン治療を開始し、最終的な身長の改善を目指します。二次性徴の欠如に対しては、10〜14歳頃からエストロゲン製剤の投与を開始し、段階的に増量していきます。思春期年齢以降は、エストロゲンとプロゲステロンの2種類のホルモン療法により、規則的な月経周期を誘導します。
Y染色体成分を有する患者さんでは、性腺腫瘍のリスクが高いため、思春期前の性腺摘出が推奨されます。そのほか、自己免疫疾患や知能障害などの合併症に対しても、適切な治療やサポートを行うことが重要で長期的な管理と経過観察が必要とされます。
ターナー症候群のなりやすい人・予防の方法
ターナー症候群は、受精の際に生じる染色体異常が原因であり、特定の方がなりやすいということはありません。また、流産胎児の染色体分析では、ターナー症候群の染色体異常が高頻度で認められるため、発生そのものを予防することは現状では困難です。
しかし、ターナー症候群に伴う低身長や二次性徴の欠落などの症状に対しては、適切な治療介入により不利益を抑えることが可能とされています。
女子の標準的な成長や思春期発来時期に関する知識を持ち、早期診断と治療開始が重要です。思春期の身長スパートが始まる9〜10歳頃までに135cmに達していれば、標準的な成人身長の獲得が期待できます。このような観点から、
適切な時期に治療を開始することが大切です。