

監修医師:
五藤 良将(医師)
プロフィールをもっと見る
防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。
目次 -INDEX-
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の概要
2019年12月、中国の武漢市で原因不明の肺炎が発表されました。中国政府は武漢市を封鎖したものの、瞬く間に世界中に伝播しました。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)はスペイン風邪以来、ほぼ100年ぶりのパンデミックで多くの死傷者を出しています。 高熱、咳、激しい咽頭痛、関節痛、肺炎など、症状は多岐にわたります。しかし中には症状が現れない不顕性感染者もいて、症状がなくてもウイルスを媒介することがあります。 わが国は市民の感染対策が他国に比べ熱心であること、効果が高いm-RNAワクチンの接種が進んだことで入院、死者は減りましたが、2025年現在も感染拡大を続けています。回復後に強い倦怠感などで働けない罹患後症状(いわゆる「コロナ後遺症」)も社会問題になっています。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因
新型コロナウイルス(以下SARS-CoV-2)に感染すると発症します。SARS-CoV-2は、感染者の鼻や口から放出される感染性ウイルスを含む粒子に、感受性者が曝露されることで感染します。 唾液などの飛沫感染、接触感染、微細な粒子の吸い込み(エアロゾル感染)が主な感染経路です。エアロゾル感染
感染者の咳、くしゃみで拡散する飛沫に、SARS-CoV-2が乗って空中に漂います。これを吸い込むことで感染が広がります。特に合唱、ライブハウスなど声を出す場所では感染リスクが上がります。換気をして飛沫の量を減らす、密閉空間では参加者ができる限りマスクをすることでリスクを減らせます。飛沫感染
感染者が会話する、咳、くしゃみの飛沫が目、鼻、口など粘膜に付着すると感染します。会話をすると飛沫は1〜2メートルほど飛散するため、2メートルほど距離を保つ(ソーシャルディスタンス)ことで感染リスクを下げることができます。発声する人がマスクを付け、飛沫を飛ばさないことも効果的です。接触感染
感染者の咳、くしゃみの飛沫が付着した物質が手に付き、目や鼻を触ることでも感染します。SARS-CoV-2はプラスチック面などツルツルした物質に付着すると約72時間感染力を維持します。段ボールのようなザラザラした物質でも24時間ほど感染力を持ちます。鼻は無意識に触りやすいので、ウイルス汚染された手で鼻の粘膜を触らぬよう、マスクを付けるのが効果的です。 外から帰ったらすぐに手洗いをしましょう。石けんで丁寧に手を洗い、流水で30秒以上洗い流すことでウイルスを洗い流せます。手が洗えない環境では70°以上のアルコールで手指消毒することも効果的です。アルコールはたっぷり吹き付け、手指に馴染ませましょう。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の前兆や初期症状について
COVID-19の初期症状は高熱、激しい咽頭痛、咳、関節痛、下痢、味覚臭覚障害などがあります。症状は感染した株により若干異なり、鼻水がよく出る症状が見られることもあります。 前兆の症状は風邪と見分けるのが困難です。しかし風邪症状に合わせて味覚臭覚障害が現れるのはCOVID-19特有の症状と見做して良いでしょう。抗原検査、PCR検査で確定させることが適正な診断、治療につながります。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後症状(いわゆる「コロナ後遺症」)について
初期のCOVID-19は重い肺炎を起こす、致死率がとても高い感染症でした。現在はワクチン接種が進み、治療薬が出たことで死亡率は大幅に低下しましたが、回復後に強い倦怠感やブレインフォグなど、日常生活に著しい影響を与える罹患後症状(いわゆる「コロナ後遺症」)が問題視されています。 罹患後症状は急性期から回復後に起こる身体の不調です。急性期に軽症、または無症状でも罹患後症状が出ることがあり、発症率は10〜20%と言われています。 代表的な症状に強い疲労感や倦怠感、関節痛、筋肉痛、咳、喀痰、息切れ、胸痛、脱毛、記憶障害、集中力低下、頭痛、抑うつ、嗅覚障害、味覚障害、動悸、下痢、腹痛、睡眠障害、筋力低下などがあります。罹患後の症状は数百種類あると言われ、精子数の減少など、検査しなければ分からない症状もあります。 罹患後症状というカテゴリーですが、罹患してから持続する症状も含まれます。いったん回復したと思ったら再び現れる症状もあり、罹患後症状の治療は長い時間要することがあります。 新型コロナウイルス感染症の前兆や初期症状が見られた場合に受診すべき診療科は内科、感染症科です。新型コロナウイルス感染症は感染症であり、内科や感染症科で診断と治療が行われています。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の検査・診断
COVID-19の検査・診断は核酸検出検査(PCR)、または抗原検査で行います。 感染法上は5類になり、全員に行う義務はありませんが、COVID-19が疑われる重症化リスクの高い患者さんには積極的に行い適切な治療につなげることが大事です。リスクが低い人であっても検査・診断は罹患後の症状の証明になります。患者さんには罹患後症状のリスクを伝え、検査・診断の要望があれば行いましょう。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後症状(いわゆる「コロナ後遺症」)の検査・診断
WHOにおける罹患後症状の定義は 「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に罹患した人にみられ、少なくとも2ヶ月以上持続し、また、ほかの疾患による症状として説明がつかないもの。通常はCOVID-19の発症から3ヶ月経った時点にもみられる」 と定義されています。 罹患後症状の分かりやすい診断法は現時点ではありませんが、除外診断することで隠れた原因を排除します。強い倦怠感には甲状腺機能低下症などの症状が隠れていることがあります。 安易に精神的な原因にするなど、病状を軽く見るような対応は厳に慎むべきです。医師に心無い対応をされて医療難民になる患者さんは後を絶ちません。明確な診断法がない中での診断は難しいため、罹患後症状の可能性がある患者さんは罹患後症状を研究する医療機関へ紹介することも必要です。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療
重症化リスクが低い人は、経過観察で自然に軽快するのを観察します。重症化リスクが高い人には積極的な薬物治療を行います。発症初期は抗ウイルス薬でウイルス増殖を抑え、重症化したときは免疫抑制剤、抗凝固剤を使用します。 エンシトレルビルは、リスクが低い方でも初期治療に用いる唯一の薬剤です。グローバル第3相臨床試験の結果、COVID-19症状の改善が若干早くなりますが、罹患後症状を抑える働きは観察されていません。 重症化リスクが高い方は発症初期にレムデシビル、モルヌピラビル、ニルマトレルビル/リトナビルを投与します。 中等症Ⅱまで悪化した場合は、免疫抑制剤を投与します。デキサメタゾンなどステロイド剤、パリシチニブ、トシリズマブを使用し、サイトカインストームを防ぎます。血栓を防ぐため、抗凝固剤のヘパリンを併用します。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後症状(いわゆる「コロナ後遺症」)の治療
現時点で根治できる方法はなく、すべて対症療法になります。たとえば臭覚障害がある患者さんにはステロイド点鼻薬を処方します。時間経過で罹患後症状は改善することがありますが、長期間改善しないこともあります。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)になりやすい人・予防の方法
SARS-CoV-2は人類社会に根付き、どこにでも潜んでいます。感染対策を怠る人は年齢、性別問わず、COVID-19に感染するリスクが上がります。65歳以上の高齢者、基礎疾患がある方、妊婦さんは重症化リスクがあり、特に注意が必要です。 予防は個人で出来るもの、社会全体が取り組むものがあります。感染症である以上、公衆衛生も重要です。 人混みでは不織布マスクの着用、換気の徹底、定期的に石けんを使った手洗い(難しい場合は70°以上のアルコールで手指消毒)、三密(密集・密接・密閉)をできるだけ避けることで、感染リスクを下げることができます。これを多くの人が実践すると、より予防効果が上がります。定期的なワクチン接種で重症化を防ぐこともできます。 SARS-CoV-2は発症前からウイルスを放出し、感染を広げる習性があります。一見健康に見える人が、実は感染者で周囲にウイルス感染を広げていた、というケースもあります。マスク着用は、発症前のウイルス拡散を手軽に防ぐことができます。そのため、その場にいる人の多くが着用しないと大きな予防効果は得られません。 SARS-CoV-2の習性、罹患後症状の周知と啓発、適正な感染リスクの低減対策を行いながら、社会活動を維持することが求められます。参考文献




