

監修医師:
吉川 博昭(医師)
目次 -INDEX-
慢性疲労症候群の概要
慢性疲労症候群(chronic fatigue syndrome: CFS)は筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)ともいわれ、原因不明の慢性的な疲労が6ヶ月以上続く疾患です。衰弱するほどの強い疲労、動いた後の消耗、痛み、認知機能障害、睡眠障害、免疫関連症状、自律神経系の症状などさまざまな症状を引き起こします。
現在のところ、確定診断が可能な検査上の異常は明らかになっていません。したがって、臨床症状による診断が主な診断法となります。
また、似た症状を引き起こす、治療可能な疾患を鑑別する必要があります。鑑別疾患は、悪性腫瘍、自己免疫疾患、急性・慢性細菌感染症、HIV感染症、慢性炎症性疾患、神経筋疾患、内分泌疾患、呼吸器疾患、循環器疾患、消化器疾患などです。
慢性疲労症候群の原因
CFSの原因について数々の研究がありますが、決定的なものはなく、明らかになっていません。
例として、CFSの患者さんでは、脳内の免疫機能をつかさどるミクログリア細胞が異常をおこし、 神経炎症をおこしていることを示す研究があります。ほかに、免疫系の異常、内分泌系の異常が病因にかかわるとする研究もあります。
これらの原因が複雑に関係しあってCFSの病態を引き起こしているのかもしれません。
慢性疲労症候群の前兆や初期症状について
CFSの患者さんの中には、喉の痛みや発熱、強い筋肉痛、脱力感、関節痛などインフルエンザのような症状から発症する方がいます。感染症が発症に関与していることが疑われ、病因ウイルスとしてEpstein-Barr(EB)ウイルス、エンテロウイルス感染症などがあげられます。
また、ウイルス感染症だけでなくクラミジア、マイコプラズマ、カンジダなどの感染症を契機に発症する症例があり、「感染後CFS」とよばれます。
しかし多くの場合は突然の倦怠感や疲労、微熱などで発症します。症状は時間帯や日ごとに大幅に変動する可能性があります。よくなったり悪くなったりを繰り返すのも特徴の一つです。
慢性疲労症候群の前兆や初期症状が見られた場合に受診すべき診療科は、内科です。慢性疲労症候群は慢性的な疲労を引き起こす疾患であり、内科で診断と治療が行われています。
慢性疲労症候群の検査・診断
慢性疲労症候群の診断基準
日本でのCFSの診断は、おもに厚生省CFS診断基準が用いられます。検査は、鑑別すべきほかの疾患を除外するために行われます。
前提Ⅰ.
- 6ヶ月以上持続ないし再発を繰り返す疲労を認める
- 病歴、身体所見、臨床検査を精確に行い、慢性疲労をきたす疾患・病態を除外する か、経過観察する。また併存疾患を認める
ア)CFSを除外すべき主な器質的疾患・病態は後述のとおり
イ)A.下記の患者さんに対しては、当該病態が改善され、慢性疲労との因果関係が明確になるまで、 CFSの診断を保留にして経過を十分観察する
(1) 治療薬長期服用者(抗アレルギー薬、降圧薬、睡眠薬など)
(2) 肥満(BMI>40)
B.下記の疾患については併存疾患として取り扱う
(1) 気分障害(双極性障害、精神病性うつ病を除く)、身体表現性障害、不安障害
(2) 線維筋痛症、過敏性腸症候群など機能性身体症候群に含まれる病態
前提II. 以上の検索によっても慢性疲労の原因が不明で、しかも下記の4項目を満たすとき
- この全身倦怠感は新しく発症したものであり、発症の時期が明確である
- 十分な休養をとっても回復しない
- 現在行っている仕事や生活習慣のせいではない
- 疲労・倦怠の程度は、PS(performance status)を用いて医師が評価し、3以上(疲労感のため、月に数日は社会生活や仕事ができず休んでいる)のものとする
前提Ⅲ.下記の自覚症状と他覚的所見10項目のうち5項目以上認めるとき
- 労作後疲労感(労作後休んでも24時間以上続く)
- 筋肉痛
- 多発性関節痛。腫脹はない
- 頭痛
- 咽頭痛
- 睡眠障害(不眠、過眠、睡眠相遅延)
- 思考力・集中力低下
(以下の他覚的所見(3項目)は、医師が少なくとも1ヶ月以上の間隔をおいて2回認めること) - 微熱
- 頚部リンパ節腫脹(明らかに病的腫脹と考えられる場合)
- 筋力低下 臨床症候によるCFS診断の判定
- 前提Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、を満たしたときCFSと診断する
- 感染症後の発病が明らかな場合は感染後CFSと診断する
- 気分障害(双極性障害、精神病性うつ病を除く)、身体表現性障害、不安障害、 線維筋痛症などの併存疾患との関連を次のように分類する
A群:併存疾患(病態)をもたないCFS
B群: 経過中に併存疾患( 病態) をもつCFS
C群: 発病と同時に併存疾患(病態)をもつCFS
D群: 発病前から併存疾患(病態)をもつCFS - 前提Ⅰ、Ⅱ、Ⅲのいずれかに合致せず、原因不明の慢性疲労を訴える場合、特発性慢性疲労 (Idiopathic Chronic Fatigue:ICF)と診断し、経過観察する
慢性疲労症候群と鑑別すべき疾患
鑑別すべき病態も詳細に診断基準で定められています。
以下のとおりです。
- 臓器不全:(例;肺気腫、肝硬変、心不全、慢性腎不全など)
- 慢性感染症:(例;AIDS、B型肝炎、C型肝炎など)
- リウマチ性、および慢性炎症性疾患:(例;SLE、RA、Sjögren症候群、炎症性腸疾患、 慢性膵炎など)
- 主な神経系疾患:(例;多発性硬化症、神経筋疾患、癲癇、あるいは疲労感を惹 き起こすような薬剤を持続的に服用する疾患、後遺症をもつ頭部外傷など)
- 系統的治療を必要とする疾患:(例;臓器・骨髄移植、がん化学療法、脳・胸部・ 腹部・骨盤への放射線治療など)
- 主な内分泌・代謝疾患:(例;下垂体機能低下症、副腎不全、甲状腺疾患、糖尿病など)
- 原発性睡眠障害:睡眠時無呼吸、ナルコレプシーなど
- 双極性障害、統合失調症、精神病性うつ病、薬物乱用・依存症など
PS(performance status)による疲労・倦怠の程度
「強い疲労」を客観的に評価するために、PSが定められています。
0: 倦怠感がなく平常の生活ができ、制限を受けることなく行動できる。
1: 通常の社会生活ができ、労働も可能であるが、 倦怠感を感ずるときがしばしばある。
2: 通常の社会生活ができ、労働も可能であるが、 全身倦怠の為、しばしば休息が必要である。
3: 全身倦怠の為、月に数日は社会生活や労働ができず、 自宅にて休息が必要である。
4: 全身倦怠の為、週に数日は社会生活や労働ができず、 自宅にて休息が必要である。
5: 通常の社会生活や労働は困難である。軽作業は可能であるが、 週のうち数日は自宅にて休息が必要である。
6: 調子のよい日は軽作業は可能であるが、 週のうち50%以上は自宅にて休息している。
7: 身の回りのことはでき、介助も不要ではあるが、 通常の社会生活や軽作業は不可能である。
8: 身の回りのことはある程度できるが、しばしば介助が必要で、 日中の50%以上は就床している。
9: 身の回りのことはできず、常に介助が必要で、 終日就床を必要としている。
慢性疲労症候群の治療
CFSは確立された根治的な治療法がありません。治療の主体は、症状を緩和することや患者さんが自己管理できるように導き、生活の質を向上させることです。まず、患者さんが苦しむ症状が病気によるものであると認め、安心させたうえで協力して治療に向かう環境を整えます。
治療は薬物によらない介入と薬物療法があります。
疲労に対する治療
疲労や消耗に対する薬剤治療は有効とされているものが少ないですが、漢方薬が疲労症状、全身消耗性症状の寛解に有効とする報告があります。
薬剤以外の治療として、段階的運動療法が疲労度の改善、身体症状や疼痛の緩和に有効です。この治療では段階的に運動を行い、身体機能を高めて、疲労感や機能障害の症状を改善させます。
和温療法(60℃の遠赤外線乾式均等サウナ治療)や ヨガ療法、認知行動療法が有効な場合もあります。
睡眠障害に対する治療
CFSでは、睡眠をとっても体力の回復が感じられないと感じたり、寝る前と同じくらい 疲れていると感じながら目覚めたりします。また、睡眠パターンの障害として、入眠困難や長く睡眠をとれず頻繁に覚醒してしまったり、昏睡状態になってしまったりする睡眠があります。
このような睡眠障害に対し、以下のような治療法があります。
- リラックスできて徐々に気持ちが落ち着くような活動を就寝前に1時間ほど行う
- 毎日同じ時間に就寝して目覚めるようにする
- 症状が悪化すると睡眠の妨げとなるため、日中の活動のペースの調整を行い悪化を避ける
- 午後3時以後の昼寝や休息を避ける
- 朝の一定時間、屋外や窓際、あるいは人工光でフルスペクトラムの光を浴びる
- カフェインを含む飲料や食品の摂取量を減らすかやめる
- 騒音対策として耳栓や防音装置を使用する、あるいはパートナーから離れた別の寝室で眠る
- アイマスクや遮光カーテンを用いて、寝室を完全に暗くする
- 眠れない場合は、起きて別の部屋へ移動し、眠くなるまで静かに過ごす(読書や、穏やかな音楽 またはリラクゼーションテープを聴くなどし、コンピュータやiPadまたはTVなどは使用しない)
- 無理に眠ろうとしない
- 就寝時間に炭水化物の軽食を摂ることは有用かもしれない
痛みに対する治療
CFSの患者さんでは、程度はさまざまですが痛みを訴える方がいます。頭痛もしばしば聞かれる症状です。痛みが身体の広範囲にわたる場合、線維筋痛症が併存している場合もあるでしょう。
痛みに関する治療のうち、薬物以外の治療として、活動ペースの調整、理学療法、ストレッチ、マッサージ、 指圧療法、ヨガ、太極拳、瞑想などが有用な可能性があります。そのほか、 温パックまたは冷パック、温浴も有効なことがあります。
痛みに対する薬物療法として、ときに麻薬を使用するほどの重度の痛みを生じることがあります。ペインクリニックなど、専門家を受診するのがよいでしょう。
一般的に痛み止めとして使われるアセトアミノフェンやNSAIDsは無効であることが多く、慢性痛の治療として三環系抗うつ薬やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)が使用されることがあります。抗うつ薬は、うつ症状のあるCFS患者さんに対しても有効性が報告されています。
慢性疲労症候群になりやすい人・予防の方法
CFSの発症が多いのは30〜50歳台です。米国では患者さんの70%が女性であると推定されており、女性に多い疾患です。
遺伝性や家族内の発症が認められることもありますが、明確な遺伝性は証明されていません。
ウイルス、細菌、寄生虫などの感染症や予防接種、外傷やトラウマの後に発症することがありますが、きっかけが認められない患者さんもいます。したがって、明らかになっている予防法はありません。
参考文献




