

監修医師:
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)
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群馬大学医学部卒業。その後、伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院で循環器内科医として経験を積む。現在は「Myクリニック本多内科医院」院長。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会専門医。
目次 -INDEX-
ネフローゼ症候群の概要
ネフローゼ症候群とは、何らかの原因で尿中に蛋白質がたくさん漏れ出てしまい、血液中のアルブミンと呼ばれる蛋白が減少した状態です。アルブミンは水分を血管内に保ち、体内の血液循環を正常に行うための重要な役割を持ちます。アルブミンの働きによって、多くの組織から余分な水分が尿として体外に排出されますが、アルブミンが減少すると水分が体内に残って浮腫みが生じます。これがネフローゼ症候群です。小児から高齢者まで幅広い年齢で発症し、わが国では10万人に5人くらいの頻度で起こると言われています。 浮腫みによって肺、皮膚、心臓、腸、陰嚢などに水分が溜まった結果、- 体重の増加
- だるさ
- 食欲の低下
- 息苦しさ
- 腎機能低下
- 免疫機能低下による感染症
- 凝固系の異常による深部静脈血栓症
- 血栓症(肺梗塞、脳梗塞)
ネフローゼ症候群の原因
蛋白尿と低蛋白血症が認められればネフローゼ症候群に該当しますが、原因によって一次性と二次性に分けられます。一次性ネフローゼ症候群
明らかな原因となる病気がないものを一次性ネフローゼ症候群と呼び、指定難病の1つです。以下の4タイプに分けられます。 毎年6,000人から7,000人が診断され、約17,000人の患者さんがいるとされています。 微小変化型 腎臓の糸球体に明らかな変化がないにも関わらず、糸球体の血管から蛋白質が漏れ出てしまうことで生じます。小児〜40歳くらいまでに多く見られます。急に発症し、喘息や花粉症などのアレルギー反応が誘発すると考えられています。 膜性腎症 糸球体の血管壁に免疫複合体(異常な抗体:膜型ホスホリパーゼA2受容体やトロンボスポンジン1型ドメイン含有7Aなど) が沈着し、蛋白が漏れ出てしまうことで生じます。原因がなく沈着する場合は一次性に分類される特発性の膜性腎症であり、高齢者に多い傾向があります。 巣状分節性糸球体硬化症 一部(巣状)の糸球体が、部分的(分節性)に血管が硬くなることで生じます。 膜性増殖性糸球体腎炎 糸球体の血管壁だけでなく、血管と血管を保持しているメサンギウム領域にも炎症が起こって生じます。若年〜高齢者まで幅広く発症します。 膜性腎症や巣状分節性糸球体硬化症の場合は、次第に腎機能が低下した結果、将来的に透析が必要になる可能性もあります。二次性ネフローゼ症候群
全身性の病気が原因で生じたものを二次性ネフローゼ症候群と呼びます。多くは膜性腎症のタイプです。 糖尿病 発症後10〜20年で合併症として生じることがあります。 膠原病 全身性エリテマトーデスや、関節リウマチなどで生じることがあります。 そのほか、感染症、悪性腫瘍などでも生じることがあります。 そのほか、薬剤性で起こるものも二次性ネフローゼ症候群に分類されます。発症頻度が高い薬剤は以下のものです。- 抗生物質・抗菌薬:アミノグリコシド系抗生物質、βラクタム系(ペニシリン系)抗生物質
- 非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)
- 抗がん薬:シスプラチン
- 造影剤
ネフローゼ症候群の前兆や初期症状について
症状が乏しく健康診断を受けて初めてわかる場合もありますが、以下のような症状が見られた場合は、すぐに医療機関で相談しましょう。- 尿の泡立ち
- 尿量の減少
- 足の浮腫み
- 身体のだるさ
- 体重増加
- 息苦しさ
ネフローゼ症候群の検査・診断
厚生労働省の研究班が定めた診断基準を満たすかどうか、以下の検査によって確かめます。尿検査
一定量の蛋白が尿中に認められるかどうか確認します。- 尿蛋白1日3.5g以上、定性検査で4+が持続する
- 以上に準じて、随時尿において尿蛋白/尿クレアチニン比が 3.5 g/gCr 以上である
血液検査
低アルブミン血症の有無をはじめ、炎症反応、凝固機能、脂質、免疫、ウイルス抗体なども確認します。- 血清アルブミン値 3.0 g/dL 以下
- 参考:血清総蛋白量 6.0 g/dL 以下
- 脂質異常症(高 LDL コレステロール血症)
腎生検
糸球体の変化の有無を確認するため、腎臓に直接針を刺して組織を採取し、顕微鏡で観察します。一次性ネフローゼのタイプを鑑別するためにも有用です。ネフローゼ症候群の治療
最も重要なのは、尿中の蛋白質を減らすことです。浮腫みを改善するための対症療法と、原因となる病気の治療を行います。浮腫みの改善
以下の対症療法によって、浮腫みを改善します。- 食事中の塩分制限
- 水分制限
- アルブミン製剤の投与
- 利尿剤の使用
薬物療法
ステロイドや免疫抑制剤などで治療します。どのタイプであっても、2年以上ステロイドや免疫抑制剤を使い続けることも珍しくありません。 特発性ネフローゼ症候群はステロイド治療によっておよそ80%は寛解となりますが、微小変化型ではステロイドや免疫抑制剤を減量すると再発を繰り返すことが多い傾向にあります。腎機能が低下することは少ないですが、80%は再発し、さらにそのうちの半数が1年に4回以上再発すると「頻回再発例」と呼ばれます。 また、リツキシマブと言うリンパ球を減らす新しい薬が使われることもあります。ネフローゼ症候群になりやすい人・予防の方法
明らかな原因がわかっていない一次性ネフローゼ症候群については、発症リスクが高い人や予防法についてもよくわかっていません。なるべく早く発見し、早めに対処することが大切です。ネフローゼ症候群になりやすい人
一次性ネフローゼ症候群になりやすい人については、はっきりした情報がありません。 二次性ネフローゼ症候群の原因となる病気に罹患している人、原因になりうる薬剤を使用している人はネフローゼ症候群になりやすいと言えます。日頃から尿の様子や身体の浮腫みなどに気を配るようにしましょう。 一次性ネフローゼ症候群のうち、巣状分節性糸球体硬化症については原因となる遺伝子がわかってきて遺伝性のものがあると判明しましたが、その他のタイプについては遺伝性はないとされています。ネフローゼ症候群の予防法
ネフローゼ症候群の予防法として、明確に挙げられていることはありません。 一次性ネフローゼ症候群は、ごく一部の遺伝性のものを除いて明らかな原因がわかっていません。 二次性ネフローゼ症候群の場合は、原因になる病気に罹患している人、薬剤を使用している人は、もし症状が現れたら早く気がつくように意識しておくとよいでしょう。 また、ネフローゼ症候群は、尿蛋白や低アルブミン血症の影響によって心血管疾患や感染症、血栓症などの発症リスクが高くなる傾向があります。 これらの予防のための感染症対策(手洗い、予防接種)、循環器のスクリーニング検査なども大切です。関連する病気
- 膜性腎症
- 糖尿病性腎症
参考文献




