

監修医師:
濵﨑 秀崇(医師)
目次 -INDEX-
妊娠糖尿病の概要
妊娠糖尿病とは、妊娠中に初めて指摘された糖尿病のことを言います。糖尿病とは、インスリンが十分に働かないために、糖代謝が正常に行えず高血糖の状態となる病気で、妊娠中以外にも発症しますが、妊娠前に糖尿病が判明している場合は妊娠糖尿病ではなく、糖尿病合併妊娠となります。
妊娠糖尿病は、胎児や母体にさまざまな合併症を引き起こすため、ハイリスク妊娠に分類されます。妊婦さんの7-9%がかかると言われており(日本糖尿病・妊娠学会のホームページQ1. 妊娠糖尿病はどれくらいの頻度であるのですか?によると約12%となっています。)、決して稀な疾患ではありません。
母体合併症:妊娠高血圧症候群、羊水過多、巨大児による肩甲難産、網膜症・腎症・神経障害などの一般的な糖尿病の合併症
胎児および新生児の合併症:流早産、子宮内胎児死亡、巨大児、呼吸障害、心肥大、黄疸、低血糖
妊娠糖尿病と診断された場合は、産婦人科医、小児科医、内科医が連携して厳重な血糖コントロールや妊婦、胎児および新生児の管理が必要です。
治療は食事療法、またはインスリン療法を行います。まずは食事療法を行いますが、一日の食事を4-6回に分けて血糖値が急に上がったり下がったりしないようにします。①空腹時の血糖値95 mg/dL未満および食後1時間の血糖値140 mg/dL未満、あるいは②空腹時の血糖値95 mg/dL未満および食後2時間の血糖値120 mg/dL未満、が目標です。血糖コントロールが目標に達しない場合は、インスリン療法を導入します。
出産後はインスリンの必要量が大幅に減少し、耐糖能異常が軽快しますが、妊娠糖尿病の妊婦さんは将来の糖尿病発症リスクが約7倍ほど高いとされています。産後1-3か月後に糖尿病の検査をし、問題がなくても定期的なチェックをおすすめします。
妊娠糖尿病の原因
妊娠中、特に妊娠中期から後期は、胎盤からインスリンに拮抗するホルモン(ヒト胎盤ラクトーゲン、プロゲステロン、エストロゲン、コルチゾールなど)が分泌されるため、インスリン抵抗性が増大します。
母体のインスリン分泌が、インスリン抵抗性に追いつかなくなると高血糖の状態となり、妊娠糖尿病を発症します。
妊娠糖尿病の前兆や初期症状について
一般的には初期や中期で行うスクリーニング検査で判明することが多いのですが、ほかにも「赤ちゃんが妊娠週数と比較して大きい」「羊水が多い」「尿糖陽性が続く」など妊婦検診のときの超音波や尿検査で妊娠糖尿病を疑い、詳しい検査をすることがあります。
また、自覚症状として高血糖に伴う症状(のどが渇く、水分摂取量が多い、尿量が多い)や、悪心・嘔吐・腹痛などのケトーシスの症状が現れたときは血糖値が異常に高くなっている可能性があり危険です。
妊娠糖尿病の前兆や初期症状が見られた場合に受診すべき診療科は、産婦人科です。妊娠糖尿病は妊娠中に発生する糖尿病であり、産婦人科で診断と治療が行われています。インスリン療法が必要となった場合は糖尿病専門医の受診が望ましいです。
妊娠糖尿病の検査・診断
スクリーニング検査
1)妊娠初期:随時血糖、空腹時血糖、HbA1cのいずれかの測定
妊娠初期の血糖コントロールはとても重要であり、コントロール不良であると胎児の先天異常の確率が上昇します。そのため、妊婦検診の初回の健診で、空腹時血糖、HbA1c、随時血糖のいずれかを全妊婦またはハイリスク妊婦に行います。
随時血糖の場合は95-100 mg/dLの間で、各施設がカットオフ値を決めています。
2)妊娠中期(24ー28週):50gGCT法または随時血糖測定
上記の初期検査で問題のなかった妊婦でも、妊娠中期に血糖コントロールが悪くなることがあるため、妊娠中期に50gGCT法または随時血糖測定を行います。
50gGCT法では≧140 mg/dLを陽性、随時血糖では≧100 mg/dLを陽性とします。
診断検査:75gOGTTまたはHbA1c
スクリーニング陽性妊婦に対して行われる検査です。
75gOGTTにおいて下記の次の基準の1点以上を満たした場合に妊娠糖尿病と診断します。
- 空腹時血糖値 ≧92mg/dl (5.1mmol/l)
- 1時間値 ≧180mg/dl (10.0mmol/l)
- 2時間値 ≧153mg/dl (8.5mmol/l)
また、空腹時血糖値 ≧126 mg/dlまたはHbA1c値 ≧6.5%の場合は「妊娠中の明らかな糖尿病」と診断されます。
妊娠糖尿病の治療
目標血糖値は、未だ明らかなエビデンスは確立していませんが、日本糖尿病学会糖尿病診療ガイドライン2024では、早朝空腹時血糖95mg/dL未満かつ食後1時間血糖値140mg/dL未満、もしくは食後2時間血糖値120mg/dL未満のコントロールを維持することが理想的としており、これに準じた目標にしている施設が多くあります。
また、日本糖尿病学会や日本糖尿病・妊娠学会では、HbA1c 6.0-6.5%、6.0%未満が理想的としています。
1.食事療法
妊娠糖尿病と診断された場合は、まず糖尿病に準じた食事療法を行います。妊婦のBMIや、血糖自己測定の推移を見ながら摂取して良い食事量を決めます。必要に応じ、1日のトータルの食事量はそのまま、4-6回にわける分食という対応をとる場合があります。
食事療法の1日総摂取エネルギー量は
標準体重(kg)×30kcal + 付加量
を基本とし、負荷量については、健常かつ普通の体格の妊婦においては、避妊時に比べて
初期+50Kcal、中期+250Kcal、後期+350Kcal
を目安とします。妊婦の妊娠前の体格や、自己血糖測定により変動します。
妊娠糖尿病の妊婦の食事量は、ここから30%程度のエネルギー制限食としますが、あまりに制限しすぎるとケトアシドーシスという危険な状態に陥ることがあるため、医師や栄養士と相談しながら行ってください。
標準体重:身長(m)× 身長(m)× 22
2.インスリン
食事療法でコントロール不良の場合は、インスリンを導入します。妊娠前からインスリン抵抗性改善薬などの糖尿病治療薬を内服している方の場合も、内服薬からインスリンに切り替えます。内服薬は胎盤を通過するため、胎児へのリスクが否定できないとされており、日本では内服薬は禁忌となっています。
インスリンを使用すると生涯打ち続けることになるのではないかと心配される方もいますが、ほとんどの場合は妊娠中のみに必要で、出産後は不要となることが多いため、過剰に心配しないようにしましょう。
3.胎児の評価
妊娠糖尿病を含む糖代謝異常合併妊娠では、32週以降に子宮内胎児死亡のリスクが高まります。特に血糖コントロールが不良の妊婦の場合はノンストレステスト(NST:胎児が元気かを評価する検査)などを用いて胎児の評価を適切に行い、異常を認めた場合は早期に入院管理を行うことがあります。
また、血糖コントロールの状況に関わらず、週数が増えていくにつれて巨大児も増加します。巨大児、肩甲難産のリスクを考慮して、ある程度の週数(38週など)になったら積極的に誘発分娩を行うか、待機するか(胎児の推定体重が4200gまで待つ、あるいは42週まで待つ)を比較しても、帝王切開率や肩甲難産率は変わらなかった、あるいは積極的に介入することでその確率が低下した、などさまざまな報告があり、一定の見解はまだありません。
施設の状況や、妊婦あるいは胎児の状態を総合的に判断して分娩方針を決定することになります。
妊娠糖尿病になりやすい人・予防の方法
妊娠糖尿病になりやすい人として、肥満、血縁者に糖尿病の方がいる、前の妊娠で妊娠糖尿病と診断されている、巨大児を妊娠したことがある、などがあります。
耐糖能異常はもともとの体質であることもあり、完全な予防は難しいですが、自分がハイリスクであるかを知っておき、妊娠前に体重コントロールや正しい食習慣、運動習慣をつけておくことは大切です。
妊娠初期の血糖コントロールが悪いと胎児の先天異常と関連すると言われています。
妊娠初期のHbA1cが6.4-7.3%で5.4%、≧7.4%では17.4%とそのリスクは大きく上昇します。肥満と耐糖能異常は合併することが多いため、妊娠を考えている方は、適切な体重コントロールを意識しましょう。
関連する病気
- 妊娠高血圧症候群
- 巨大児
- 2型糖尿病




