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おたふく風邪(流行性耳下腺炎、ムンプス)の概要
おたふく風邪は、ムンプスウイルスによる感染症です。2〜3週間の潜伏期間があり、片側もしくは両側の耳下腺が発熱や痛みを伴って腫れます。耳下腺の腫れが生じる7日前から9日後までウイルスを排泄します。発症後は1〜2週間程で軽快していきます。
合併症には重篤な後遺症を残す疾患もあるため注意してください。例えば、成人以降におたふく風邪に罹患すると男性では、20〜30%の方で睾丸炎を発症しやすくなります。また、女性では7%程度が卵巣炎を合併するといわれています。重症度は年齢とともに高くなるため、ワクチンを接種して予防に努めてください。
おたふく風邪(流行性耳下腺炎、ムンプス)の原因
原因はムンプスウイルスで、経路は唾液の飛沫による人から人への感染です。
ウイルス自体の感染力が強く、飛沫や接触感染で広がります。感染力の強さを表す基本再生産数は4~14と高く、水痘や風疹と同じくらいの感染力の強さです。
おたふく風邪(流行性耳下腺炎、ムンプス)の前兆や初期症状について
平均して18日前後の潜伏期間の後に発症し、両側または片側の耳下腺の腫脹・疼痛・発熱・嚥下痛が主症状として現れます。耳の下・頬の後ろ・顎の下などの耳下腺部が片側から腫れ、1〜2日程で両側にいたり3日程でピークになって7〜10日程で消えます。
腫れが片側しか生じない場合もあるため臨機応変に対応してください。舌下腺や顎下腺が腫れる場合も、48時間以内にピークがきます。罹患した80%程の方に38〜39度くらいの発熱がみられ、合併症がなければ1〜3日程で熱も下がります。おおむね1〜2週間で症状は和らぎ、一般的に予後は良好です。
ムンプスウイルスは唾液中に排出され、飛沫感染や接触感染で伝播します。感染しても症状が出ない不顕性感染の方が30〜35%程いるのもおたふく風邪の特徴です。1歳で20%、4歳以上で90%程が発症するなど年齢が上がると顕性発症率が高くなるともいわれています。
また、髄膜炎・脳炎・睾丸炎・卵巣炎・膵炎・ムンプス難聴などの合併症を生じ、重い後遺症が残るケースもあります。無菌性髄膜炎の発生頻度は1〜10%程で、一般的に予後は良好です。脳炎は0.02〜0.3%と発生頻度は低いですが、後遺症や死に至ることもあるため注意が必要です。
男性で思春期以降に感染すると、感染者の20〜30%程で睾丸炎を発症しやすくなります。症状には睾丸の腫大・激痛・頭痛・下腹部痛がみられ、10%程に機能障害がみられます。
患者さんの0.1〜1%で発生するとされているムンプス難聴は片側で急性に生じ、重度の感音難聴で予後不良のケースが少なくありません。15歳以下での発症率が高く、5〜9歳で高いのが特徴です。幼少児では症状を伝えられないために見落とされる可能性があります。耳鳴りやめまいを伴う状態や片側が障害されて音の方向がわかりにくいなどの症状は、QOLの低下にもつながります。かつては15,000〜20,000人に1人とされていましたが、近年では100〜1,000人に1人と発生頻度が少なくない報告もあります。
症状があった場合には、子どもの場合は小児科、大人の場合は内科または耳鼻咽喉科を受診しましょう。
おたふく風邪(流行性耳下腺炎、ムンプス)の検査・診断
おたふく風邪の診断基準は次のとおりです。下記のいずれか2つ以上あてはまる場合におたふく風邪と診断されます。
- 周囲でおたふく風邪が流行っていて、48時間以上持続する耳下腺の腫脹がある
- 検体からムンプスウイルスが分離できる
- 検体からムンプスウイルスの遺伝子が検出される
- ムンプスウイルスに特異的なIgM抗体がある
- 風疹の抗体かムンプスウイルスのIgG検出ELISA抗体の数が発症期間で有意に上昇している
診断の確定には実験室での検査が必要になります。直接的な診断方法はウイルスの分離です。分離するとウイルスの特性や遺伝子など多くの情報が得られます。唾液からは発症7日前から出現9日後まで、髄液からは症状が出てから5〜7日くらいまでは分離が可能です。
しかし、ウイルスの分離には時間がかかるため、血清学的検査で行われます。血清学的検査は、体内に侵入した病原体の抗原や病原体の攻撃のために作られたたんぱく質の抗体を検出する検査です。血清学的検査には、補体結合法・赤血球凝集抑制法・中和抗体法・酵素抗体法があります。
なかでも酵素抗体法のIgM抗体の検出は、感度の高さや手技の簡易さから多用されている方法です。ただし、すでに感染している方ではIgM抗体が検出されない場合もあるため、使用が限られます。おたふく風邪に初めて感染する場合、急性期でIgM抗体が陽性を示すことは少なくありません。IgMは、初期抗体と呼ばれ、感染してすぐに作られる抗体です。
血清学的検査以外にも病原学的検査があり、感染している病原体を特定する検査となります。病原学的検査には、ウイルス遺伝子を検出する方法とウイルスを分離する方法があります。なかでも、RT-PCR法やRT-LAMP法はウイルス遺伝子を検出する方法で広く使われている検査法です。RT-LAMP法は手技がわかりやすく反応時間も短く済みます。RT-PCR法は感度が高く、ワクチン株と野生株との鑑別も可能です。
おたふく風邪(流行性耳下腺炎、ムンプス)の治療
おたふく風邪には、ムンプスウイルスに対する専用の薬などはないため対症療法で治療を行います。発熱には鎮痛解熱剤を投与し、髄膜炎の合併症には安静にしてもらい、脱水などの症状には輸液の投与で対応します。
おたふく風邪から合併症にかかり、以下の症状がある場合は医療機関を再受診してください。
- ひどい頭痛・発熱・嘔吐・けいれんなど
- 1週間以上経ってもひかない耳下腺部の腫れ
- 5日以上続く発熱
- 赤くなる耳下腺部の腫れ
- 男性:睾丸の痛みがある
- 女性:下腹部の痛みがある
おたふく風邪は学校保健安全法で第二種感染症に指定されており、出席停止期間が決まっています。出席停止期間はおたふく風邪の場合、耳下腺・顎下腺・舌下腺の腫れが生じて5日経ち、かつ全身状態がよくなるまでです。
合併症で生じるムンプス難聴の治療では、聴力が改善する可能性が低く、両側性に生じた際には人工内耳を埋め込む手術を行います。ムンプス難聴になると聴力の回復は難しいため、ワクチンでの予防が重要になります。
おたふく風邪(流行性耳下腺炎、ムンプス)になりやすい人・予防の方法
おたふく風邪になりやすいのは、抗体を持っていない子どもです。3〜6歳の年齢層で60%程を占めるとされていましたが、2010年頃から6歳未満の割合が減り、10歳以上が増加の傾向にあります。ムンプスウイルスに一度罹患すると、亡くなるまで免疫を持っているとされていますが、近年では再感染するケースも出てきています。
おたふく風邪にかかったことがある場合にも耳下腺の腫れが1週間程続く際には再感染の可能性が高いため注意が必要です。再感染は初感染例より軽症で、耳下腺も片側のみ腫れるケースが少なくないです。おたふく風邪の予防には、手洗いやうがいの敢行やマスクの着用、ワクチン接種を推奨します。ムンプスウイルスは飛沫や接触感染で広がるため、手洗い・うがいの徹底・マスクの着用での感染対策が重要です。
また、ワクチン接種は1歳以上の小児に2回うつことが推奨されています。ワクチンの有効率は80〜90%のため、保育園や小学校での集団生活が始まる前にワクチン摂取を済ませておくと、感染した場合も軽症ですむ可能性が高くなります。日本では、1989年からMMRワクチンの定期摂取が始まりましたが、副反応として無菌性髄膜炎が多発したため1993年に定期接種が中止になりました。
無菌性髄膜炎の発生頻度は、自然感染が1.24%に対し、ワクチン接種では0.03〜0.06%と高くありません。任意接種のため、おたふく風邪のワクチン接種率は30〜40%程に留まっており、現在でも全国的な流行が4〜5年ごとに繰り返し起きています。免疫が作られるまでに4週間程かかるため、ワクチン接種を行っていない方は早めにワクチン接種を行ってください。
関連する病気
- 無菌性髄膜炎
- 睾丸炎
- 卵巣炎
- 聴力障害
- 膵炎
- 脳炎
- 視神経炎
参考文献




