目次 -INDEX-

脂質異常症(高脂血症)
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

プロフィールをもっと見る
京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

脂質異常症(高脂血症)の概要

脂質異常症とは、血液中の脂質代謝に異常を来たし、脂質の値が基準値から外れた状態を言います。いわゆる「生活習慣病」の一種で、2007年までは「高脂血症」と呼ばれていましたが、名前が改められました。

脂質はLDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪(トリグリセライド:TG)と3種類に分れており、LDLコレステロールは「悪玉コレステロール」、HDLコレステロールは「善玉コレステロール」と呼ばれることもあります。また、non-HDLコレステロールと呼ばれる脂質も存在し、これは血中の総コレステロールからHDLコレステロールを除いたものです。

これらは動脈硬化の主要なリスク因子で、血管が詰まりやすくなるため脳卒中や心筋梗塞など命に関わる病気を引き起こす可能性があります。「コレステロールが異常値と言われたら気をつけなさい」と言われるのはこうした理由からです。

家族性高コレステロール血症

脂質異常症の中に、遺伝的にLDLコレステロールが高値となる家族性高コレステロール血症があります。基本的には常染色体優性遺伝であり、日本人の約300人に1人が該当すると考えられている疾患です。ホモ接合体、ヘテロ接合体で重症度は異なり、ホモ接合体の場合は指定難病となっています。

幼少期から動脈硬化が進行するため心血管疾患のリスクが高く、早期発見、早期治療が求められる病気です。特徴的な所見として、脂質異常のほかにアキレス腱の肥厚や家族歴が挙げられます。

脂質異常症(高脂血症)の原因

脂質異常症の原因は、以下に記載されたものです。「生活習慣病」の名の通り、食生活を始めとした生活習慣によるものが多いと言えます。

脂肪分の摂り過ぎ

LDLコレステロールが高値となる原因として、

  • 飽和脂肪酸を含む食材の摂り過ぎ…肉の脂身、バター、ラード、生クリーム、カカオの油脂、加工食品など
  • コレステロールを含む食材の摂り過ぎ…鶏卵の黄身、魚卵など

が挙げられます。LDLコレステロールの値を下げたい場合、まず指導されるのは飽和脂肪酸の摂取量を減らすことです。

甘いもの、お酒などの取り過ぎ

中性脂肪は、特に甘いものやお酒、油もの、糖質などからの摂取エネルギー過多で高値となります。

肥満、運動不足、喫煙

HDLコレステロールは基準よりも低値のときに問題となります。これは「高」脂血症の名前が改められた要因の一つです。
HDLコレステロールの値は中性脂肪の値と相関があり、中性脂肪が高値のときにHDLコレステロールは低値となる傾向で、肥満や運動不足、喫煙が原因となることが知られています。

甲状腺機能低下症

甲状腺ホルモンの分泌量が低下して発症する甲状腺機能低下症によって、LDLコレステロールが高値になることがあります。これは続発性(二次性)高脂血症と呼ばれる状態です。

脂質異常症(高脂血症)の前兆や初期症状について

脂質異常症には、これといった前兆や自覚症状がありません。健康診断などの結果から知る方が大半と思われます。致命的な病気を発症してから初めてわかる場合もあるため、早期発見のためにも人間ドックや健康診断を定期的に受診しましょう。

家族性高コレステロール血症の場合、家族内に脂質異常症と診断されている人がいる、アキレス腱に脂肪が沈着して肥厚する、といったことで気付かれる場合もあります。
脂質異常症の前兆や初期症状が見られた場合に受診すべき診療科は、内科です。脂質異常症は血液中の脂質の異常による疾患であり、内科で診断と治療が行われています。

脂質異常症(高脂血症)の検査・診断

脂質異常症を疑われた場合、以下の検査が行われます。また、日本動脈硬化学会が定めた診断基準をご紹介します。

血液検査

採血し、血液中に含まれる脂質の値を測定します。
基本的に空腹時の採血結果を診断や評価に使うことが多い傾向です。適切な治療のためにも、採血の前に食事を控えるかどうか確認しておくと良いでしょう。
場合によっては、随時採血といって食事の有無に関係なく採血が行われることもあります。

頸動脈エコー

脂質異常症は動脈硬化のリスク因子であることから、脂質異常症が疑われる場合はエコー(超音波)検査で血管壁が厚くなっていないか、塊ができて詰まっていないかを確認することがあります。
頸動脈は左右に存在する脳に血液を送るための太い血管で、全身の動脈硬化の程度を反映すると言われています。

診断基準

以下が脂質異常症の診断基準です。

  • LDLコレステロール
    140mg/dL以上…高LDLコレステロール血症
    120~139mg/dL…境界域高LDLコレステロール血症
  • HDLコレステロール
    40mg/dL未満…低HDLコレステロール血症
  • 中性脂肪
    空腹時の採血で150mg/dL以上または随時採血で175mg/dL以上…高トリグリセライド血症
  • non-HDLコレステロール
    170mg/dL以上…高non-HDLコレステロール血症
    150~169mg/dL…境界域高non-HDLコレステロール血症

FHの診断基準

以下が成人におけるFHの診断基準です。

  • 高LDLコレステロール血症…治療をしていない状態のLDLコレステロールが180mg/dL以上
  • 腱黄色腫…手の甲、肘、膝などに黄色いできものがある、アキレス腱を触ったときに硬くなっている、分厚くなっている
  • FHあるいは早発性冠動脈疾患の家族歴…2親等以内の家族に家族性高コレステロール血症や、若いうちに心筋梗塞や狭心症と診断された人がいる

このうち2項目以上に当てはまる場合はFHと診断されます。
また、

  • 2項目以上を満たさなくてもLDLコレステロール250mg/dL以上の場合
  • 2または3を満たしてLDLコレステロールが160mg/dL以上

に当てはまる場合、診断されないまでも強く疑われます。

脂質異常症(高脂血症)の治療

脂質異常症は、基本的には一次予防として生活習慣を見直すことで改善を促します。それでも目標値に達しない場合や、冠動脈疾患の既往がある場合は二次予防として薬物療法が考慮されます。
また、背景から評価されるリスクの高さによって脂質の管理目標値はそれぞれ異なっており、糖尿病、慢性腎臓病、末梢動脈疾患、非新原生脳梗塞などは高リスクの病態とされます。

生活習慣の改善

最初に行うのは生活習慣の改善です。食事療法、運動療法によって脂質の値の改善を目指します。
食事療法では、まず肉の脂身や甘いもの、脂っこいものといった脂質や糖質を多く含む食材を控えます。さらに、サンマ、サバ、イワシなどの青魚に多く含まれるω-3系多価不飽和脂肪酸は中性脂肪を低下させる作用があるため積極的に摂取するといいでしょう。
運動療法では、ウォーキングや水泳、サイクリングなどの有酸素運動を中心に、毎日合計30分以上、週3回以上で行うのが目標です。
さらに、お酒やタバコといったリスク因子になる習慣は徐々にでも頻度を減らし、できればやめる、肥満の場合は減量する、といったことも大切です。

薬物療法

生活習慣を改善しても脂質の値が管理目標値に到達しない場合は、薬を内服して脂質のコントロールを行います。治療薬には複数の種類があり、患者さんそれぞれの病態を考慮して決定されます。
ただし、脂質の値が管理目標値にならないからといって全員が薬を飲み始めるわけではありません。

脂質異常症(高脂血症)になりやすい人・予防の方法

脂っぽいものを好む人、運動不足でカロリー過多の人など生活習慣が乱れている人は注意した方が良いでしょう。一方、生活習慣に関係なく遺伝的に脂質異常となりやすい人もいます。治療だけでなく予防のためにも生活習慣の改善が有効です。

脂質異常症(高脂血症)になりやすい人

リスク因子から考えると、脂質異常症になりやすいのは以下に該当する人と言えます。

  • 肉の脂身やバターなどを好んで食べる
  • 甘いものが好き
  • ついたくさん食べすぎてしまう
  • 食べる量に比べて運動量が少ない
  • 煙草を吸う
  • お酒をよく飲む
  • 肥満体型である
  • 家族に脂質異常症と診断されている人がいる

脂質異常症(高脂血症)の予防法

治療でも行われる生活習慣の改善策が、そのまま予防法となります。

  • 飽和脂肪酸を含む食材を食べ過ぎない
  • 糖質を食べ過ぎない
  • 食べ過ぎを控える
  • 飲酒と喫煙を控える
  • 減量する
  • 適度な運動を心がける

関連する病気

この記事の監修医師