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マラリア
中路 幸之助

監修医師
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)

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1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。

マラリアの概要

マラリアは、ハマダラカという蚊を介してマラリア原虫に感染することにより発症する重篤な感染症です。主に熱帯および亜熱帯地域で流行しており、特に南米アマゾン河流域、パプアニューギニア、サハラ以南のアフリカなどが高度流行地とされています。

世界保健機関(WHO)の推計によれば、毎年2億人以上が罹患し、約200万人が死亡しており、大部分はサハラ以南のアフリカの5歳未満の小児です。日本国内の年間の感染者数は50〜70人程度であり、これらの症例はすべて海外で感染した後に帰国したものであることが特徴です。

マラリアは潜伏期間が1〜4週間程度あり、流行地から帰国後に発症することが一般的です。感染したマラリア原虫の種類によって病型や症状の経過が異なり、なかでも熱帯熱マラリアは適切な対応が遅れると短期間で重症化し、致死的となる可能性があります。
現在、マラリアは100ヵ国以上で流行しており、アフリカ、アジア、南太平洋諸国、中南米などで多くの発生が見られます。アジア地域では三日熱マラリアが問題となっており、三日熱マラリアに対する対策も重要です。

日本国内での報告例は輸入例に限られ、1991年以降、国内感染は報告されていませんが、依然として注意が必要です。国内に生息するハマダラカもマラリアを媒介する可能性があるため、適切な検疫措置が求められています。しかし、近年の温暖化傾向にもかかわらず、国内でのマラリア再興のリスクは低いとされています。

マラリアの原因

マラリアは、プラスモディウム属(Plasmodium spp.)の原虫が原因で引き起こされる感染症です。この原虫を媒介するのがハマダラカという蚊で、主にメスのハマダラカが産卵のために吸血する際に感染が広がります。マラリアの感染はヒトからヒトへ直接伝播しないとされています。

マラリアの感染プロセス

マラリア原虫を持つハマダラカがヒトを刺すと、蚊の唾液腺に存在するスポロゾイトが唾液と一緒にヒトの体内に注入されます。注入されたスポロゾイトは血流に乗り、約45分で肝細胞に到達し侵入します。

その後、肝細胞内でスポロゾイトは分裂を開始し、数千個のメロゾイトに変わります。肝細胞が破壊されると、メロゾイトは血流に放出され、次のステージに進みます。

メロゾイトは赤血球内に侵入し、初期の輪状体と後期の栄養体、分裂体のステージを経て、最終的に赤血球を破壊して新たなメロゾイトを放出します。このサイクルが繰り返されることで感染が進行し、症状が現れます。

そして、一部の原虫は雌雄の区別がある生殖母体に分化します。ヒト体内では有性生殖を行わないですが、蚊に吸われると中腸内で合体受精し、オーシスト(接合子の周りの被膜や被殻)を形成します。オーシスト内で多数のスポロゾイトが形成され、新たな感染サイクルが始まります。

マラリアの主な病原体

マラリアの主な病原体は、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)、三日熱マラリア原虫(Plasmodium vivax)、四日熱マラリア原虫(Plasmodium malariae)、卵形マラリア原虫(Plasmodium ovale)、サルマラリア原虫(Plasmodium knowlesi)があります。

熱帯熱マラリア原虫は世界で広範囲に感染しており、重症化しやすく、適切な治療を行わないと死に至る場合があります。潜伏期間は約7〜14日とされています。

三日熱マラリア原虫は、潜伏期間は約10日〜数ヵ月で、症状が再発する場合があります。韓国や中国などの温帯地域での流行が見られます。

四日熱マラリア原虫は潜伏期間が長く、ほかの種類に比べて重症化のリスクは低いとされています。

卵形マラリア原虫は、三日熱マラリア原虫と同様に肝細胞内で休眠体を形成し、長期間経過後に症状が再発する場合があります。

サルマラリア原虫はヒトへの自然感染例が東南アジアで確認され、第5のヒトマラリアとして認識されています。主にマカク属のサルを媒介にしています。

マラリアの前兆や初期症状について

マラリアの初期症状は、39度以上の突然の高熱です。発熱は悪寒戦慄(寒気や震え)を伴って始まります。発熱前に体温が急激に上昇する過程で、約1〜2時間程続く悪寒を感じ、その後4〜5時間程度の高熱が続く灼熱期に移行します。発熱と悪寒戦慄の繰り返しが、マラリアの特徴的な症状とされています。

発熱の周期は原虫の種類によって異なります。熱帯熱マラリアでは発熱は不規則で、しばしば約36〜48時間ごとに高熱が生じます。一方、三日熱マラリアと卵形マラリアの場合、発熱は48時間周期で現れます。四日熱マラリアでは、発熱は72時間ごとにみられるとされます。また、サルマラリア(P. knowlesi)による感染では24時間ごとに発熱が生じる場合があります。

発熱以外の初期症状として、強い頭痛、全身の筋肉痛や関節痛がみられる傾向があります。痛みは倦怠感や疲労感も伴い、全身に強い不快感を感じるとされています。

その他、消化器系の症状としては、悪心や嘔吐、下痢がしばしば見られ、場合によっては呼吸器系の症状である咳や息切れが現れる場合もあります。
さらに、循環器系の症状として、マラリア原虫が赤血球を破壊するために貧血が発生する場合があります。脾臓が腫れる脾腫も特徴的な症状の一つです。
症状が表れた場合は、受診前に事前に医療機関へ電話で問い合わせ、渡航歴などを伝えたうえで受診しましょう。また、近隣に感染症内科などの専門機関がある場合はそちらへ相談しましょう。

マラリアの検査・診断

赤血球がマラリア原虫に感染しているかどうかを確認するために、血液検査が行われます。血液検査はマラリアが疑われる初期段階で行われ、ほかの感染症との鑑別を助けます。そして採取した血液を用いて塗抹標本を作成し、光学顕微鏡で観察します。顕微鏡検査ではマラリア原虫の形態を直接確認できるため、これにより診断が確定します。

しかし、熱帯熱マラリア原虫の場合は輪状体のみがみられる傾向にあり、原虫の数が少ないときは見逃される場合もあります。そのため、マラリアの感染が濃厚な場合は、ほかの検査法との併用が望ましいとされています。

診断キットもありますが、日本では未承認です。診断キットでは数滴の血液を使用して短時間で検査結果を得ることが可能とされており、設備の整っていない地域や緊急時に有用とされています。

マラリアの診断には、患者さんの行動歴や臨床情報、さらに世界的なマラリアの疫学的状況の把握も加味されます。例えば、熱帯地域から帰国後に発熱がみられる場合、デング熱などのアルボウイルス感染や腸チフスとの鑑別が行われます。

マラリアの治療

マラリアの治療で重要なのは、早期発見と適切な治療の開始です。治療は主に抗マラリア薬によって行われますが、具体的な薬剤の選択は感染した地域や患者さんの状態によって異なります。

抗マラリア薬は内服薬として処方されます。軽症から中等症の患者さんに適用されます。そして、重症者には注射薬が用いられます。迅速に治療をしなければならない場合や、内服が困難な場合に使用されます。

アルテミシニン誘導体多剤併用療法は、複数の薬剤を組み合わせて使用し、薬剤耐性の発生を抑えつつ、治療効果を得られる可能性があります。今日では、このアルテミシニン誘導体多剤併用療法が推奨されています。

また、三日熱マラリアや卵形マラリアの場合、肝細胞内に休眠する原虫(ヒプノゾイト)が存在し、ヒプノゾイトが原因で再発する場合があるとされています。これらのタイプのマラリアには、休眠原虫を殺滅するための薬剤投与が必要とされています。

マラリアになりやすい人・予防の方法

マラリアの流行地(南米アマゾン河流域、サハラ以南のアフリカ、大洋州地域などの地域)に長期滞在する予定がある渡航者は、感染リスクが高いとされています。また、免疫力が低下している方も、マラリアに感染しやすいとされています。

行動や生活習慣も、マラリア感染のリスクに影響を与えます。例えば、蚊の活動時間である夕方から朝方までの間に屋外で活動する方は、蚊に刺されるリスクが高くなります。防蚊対策を怠る、予防薬を服用しないなど、適切な予防策を十分に講じないときも同様です。

マラリアの予防には予防薬の使用が重要です。
予防薬は、渡航前に医療機関で医師の処方を受けましょう。予防薬は、渡航先の流行状況や滞在期間、個人の健康状態に基づいて選ばれます。予防薬は医師から指示された期間中、渡航前から帰国後まで、規定どおりに服用することが重要です。

マラリアを予防するためには、蚊に刺されないようにする対策も重要です。
マラリアを媒介するハマダラカは夕方から夜間に活動するため、流行地では夜間の外出を控えましょう。そして、肌の露出を避けるため、長袖や長ズボンを着用し、蚊に刺されないようにし、虫よけ剤や寝るときには蚊帳を使用して、蚊の接近や就寝中の蚊の侵入を防ぎましょう。
また、窓や戸に網戸が設置されている、エアコンが設備されているなど、清潔で防蚊対策が施された宿泊施設を選ぶこともよいでしょう。

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