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サルコイドーシス
渡邊 雄介

監修医師
渡邊 雄介(医師)

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1990年、神戸大学医学部卒。専門は音声言語医学、音声外科、音声治療、GERD(胃食道逆流症)、歌手の音声障害。耳鼻咽喉科の中でも特に音声言語医学を専門とする。2012年から現職。国際医療福祉大学医学部教授、山形大学医学部臨床教授も務める。

所属
国際医療福祉大学 教授
山王メディカルセンター副院長
東京ボイスセンターセンター長

サルコイドーシスの概要

サルコイドーシスは、全身のさまざまな部位に炎症が生じ、非乾酪性類上皮細胞肉芽腫という結節(しこり)が形成される原因不明の多臓器疾患です。サルコイドーシスは、肺、眼、皮膚、神経などに多くみられますが、全身のどの臓器にも影響を与える可能性があります。なかでも肺に病変が出ることが多く、咳や呼吸困難が典型的な症状です。

サルコイドーシスは、症状が軽度の場合には自然治癒の傾向があるようですが、心臓や神経など重要な臓器に病変がみられる場合には早急な治療が必要です。治療は主にステロイド薬を使用します。診断には、採血検査、画像検査、気管支鏡検査などが行われます。

症候群として現れることもあり、レフグレン症候群やヘールフォルト症候群が代表的です。レフグレン症候群は、関節炎、結節性紅斑(皮膚下にしこりが発生する疾患)、肺門リンパ節の腫れを特徴とし、自然治癒の傾向が高いです。ヘールフォルト症候群は、耳下腺の腫れ、ぶどう膜炎、慢性の発熱を伴い、こちらも自然治癒の傾向があります。

サルコイドーシスは、全身にわたって類上皮細胞肉芽腫が形成される病気ですが、病変の発生場所によって異なる名称が付けられます。例えば、肺に病変が現れた場合は肺サルコイドーシス、心臓に現れた場合は心臓サルコイドーシス、眼に現れた場合は眼サルコイドーシスと呼び、それぞれ区別されています。

サルコイドーシスは、全身の臓器に影響を及ぼし、時には重症化する可能性もあるため、早期の診断と適切な治療が重要です。症状がある方や心配な方は、呼吸器内科、皮膚科、眼科を受診してください。

サルコイドーシスの原因

サルコイドーシスの原因はいまだに明確に解明されていませんが、何らかの抗原物質に対するTh1型細胞免疫反応(IV型アレルギー反応)が引き起こされることで全身に肉芽腫が発生すると考えられています。

また、アクネ菌などの微生物が原因の候補に挙げられることもあり、感染症や環境内の物質(カビなど)が関与している可能性もあるとされています。遺伝的要因も考えられますが、サルコイドーシスは一般には遺伝せず、他人に感染せず、がんのような悪性疾患でもありません。

サルコイドーシスの前兆や初期症状について

サルコイドーシスは、約30〜50%の患者さんが無症状で、健康診断や眼の症状などをきっかけに発見されることがあります。病変が現れる場所によって初期症状や前兆は異なり、全身症状として発熱、疲労、胸痛、関節痛などが現れることもあります。
呼吸器の症状がある場合は呼吸器内科、皮膚や心臓の症状がある場合は循環器内科や皮膚科、リウマチ・膠原病内科などを受診してください。

肺サルコイドーシス

サルコイドーシスを多く侵す臓器は肺です。肺に肉芽腫ができると、咳、胸痛、息切れなどの胸部症状が現れます。胸部X線検査では、肺と心臓が接する部分や気管の右側にあるリンパ節の腫大が確認されることがあります。進行すると瘢痕化や嚢胞形成が生じ、真菌による感染で出血を引き起こすこともあります。また、サルコイドーシスによる重度の肺障害は右心不全(肺性心)を招くことがあります。

皮膚サルコイドーシス

皮膚サルコイドーシスは、顔、手足、背中、お腹、お尻などに現れる皮膚症状を特徴とします。主な症状は痛みやかゆみを伴わない紅斑(赤い斑点)などで、皮疹や皮下の硬いしこりもみられることがあります。紅斑やしこりは数ヵ月で消失する可能性が高いようですが、再発する場合もあります。

また、発熱や関節痛が伴うこともあります。
症状が長期化すると、鼻、頬、唇、耳などに色調が変わった平らな斑点や隆起した斑点(凍瘡状狼瘡)が現れ、鼻腔に肉芽腫ができることもあります。

眼サルコイドーシス

眼サルコイドーシスは主にぶどう膜に炎症を引き起こし、霧視、羞明、飛蚊症、視力低下などの症状が現れます。患者さんの約25%に眼の病変が見られ、なかでもアフリカ系アメリカ人や日系人に多く見られるそうです。

炎症が持続すると緑内障となり、緑内障になると失明のリスクもあります。また、結膜に無症状の肉芽腫ができることもあり、涙腺が侵されることで眼の乾燥や痛みが生じる場合もあります。

心臓サルコイドーシス

心臓サルコイドーシスでは、心臓に肉芽腫が形成されることで不整脈が生じます。重症化すると動悸や息切れ、心不全もみられます。心臓の電気伝導系の周辺に肉芽腫ができると、命に関わるリスクが高まります。

サルコイドーシスによって肺にも影響が現れ、肺動脈の血圧が上昇する肺高血圧症に進行すると、肺性心(右心室に障害が生じる状態)が引き起こされることもあります。日本では、サルコイドーシスによる死因の半数以上が心臓病変に関連しているといわれています。

神経サルコイドーシス

神経サルコイドーシスは、神経に肉芽腫の発生で多様な神経症状を引き起こします。顔面神経麻痺、手足のしびれ、体の痛み、意識障害、けいれん、人格変化が典型的な症状です。また、中枢性尿崩症による多尿もみられます。脳神経が侵されると、二重視や難聴、顔の片側の垂れ下がりなども発生します。

肝臓と脾臓

サルコイドーシス患者さんの多くに肝臓の肉芽腫が見られますが、多くの場合は無症状です。血液検査で肝臓の異常が判明する場合があり、10%未満の患者さんでは肝腫大が見られます。黄疸はまれです。脾臓の腫大も一部の患者さんに見られ、上腹部に痛みを伴うことがあります。

筋肉や骨

筋肉サルコイドーシスは主にふくらはぎに腫瘤が見られ、骨では手足の指に痛みが伴います。

高カルシウム

サルコイドーシスにより血中カルシウム濃度が上昇し、食欲不振、吐き気、のどの渇き、過剰な尿生成がみられる場合があります。長期間続くと、腎結石や慢性腎臓病のリスクがあります。

サルコイドーシスの検査・診断

サルコイドーシスは主に肺や胸部のリンパ節に発生し、胸部X線検査で発見されることが多いようです。異常が見られた場合や症状が疑われる場合には、胸部CT検査、ガリウムシンチグラフィー、血液検査、尿検査、呼吸機能検査、眼科検査、心電図検査、内視鏡検査など多岐にわたる検査を行い、総合的に診断を行います。

最終的な確定診断は、生検による病変組織の顕微鏡検査で行います。特に乾酪壊死を伴わない類上皮細胞肉芽腫が認められることが診断の決め手となります。しかし、生検が難しい場合や肉芽腫が見つからない場合には、ほかの検査結果を総合して診断を確定します。

血液検査では、アンジオテンシン変換酵素(ACE)、リゾチーム、可溶性インターロイキン-2受容体(sIL-2R)が高値になることが多く、カルシウム濃度が上昇する場合があります。尿検査では尿中カルシウム濃度の上昇が確認されることがあります。また、ツベルクリン反応検査はサルコイドーシスにより陰性化する傾向があります。

画像検査では、胸部X線検査や胸部CT検査で肺のリンパ節の大きさや肺内の影を確認し、気管支鏡検査で免疫細胞の種類や比率を調べます。ガリウムシンチグラフィーやFDG-PET/CTなどの画像検査は、サルコイドーシスの活動性部分を特定するために用いられます。

さらに、蛍光眼底造影検査でぶどう膜炎の有無を確認する可能性もあります。サルコイドーシスは全身の臓器に影響を与える可能性があるため、包括的な診断が求められます。

サルコイドーシスの治療

サルコイドーシスの治療は、多くの患者さんでは必要ありませんが、症状の緩和や病状の進行抑制のために必要になる場合があります。非ステロイド系抗炎症薬は痛みや発熱を和らげるために使用され、息切れ、関節痛、胸痛、発熱などの症状がある場合にはコルチコステロイド(炎症軽減の強い薬)が用いられます。コルチコステロイドは、高カルシウム血症や心臓、肝臓、神経系に異常がある場合にも効果的といわれています。
ステロイドが無効な場合などには、免疫抑制薬が使用されることがあります。

心臓の病変には植込み型除細動器やペースメーカーが必要になることがあり、重度の場合には臓器移植も検討されます。治療が機能しているかは、CT検査、胸部X線検査、血液検査などでモニタリングし、再発防止のためにこれらの検査を定期的に行います。COVID-19の患者さんの場合は、免疫抑制薬の使用が慎重に判断されます。

サルコイドーシスのなりやすい人・予防の方法

サルコイドーシスは、日本で10万人に約1.7人の割合で発症し、女性は男性の約2倍、自覚症状があるとされています。年齢別では、男女ともに20歳代と50歳代に多く、なかでも男性は若年層、女性は高齢者に多いようです。

サルコイドーシスの原因は未解明であり、予防法も確立されていません。そのため、早期発見と適切な管理が重要です。


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