監修医師:
坂本 好昭(医師)
脂肪腫の概要
脂肪腫は、皮下に発生する軟部組織の腫瘍の中では最も多くみられる良性の腫瘍(できもの)です。
好発部位は頚部、背部、臀部、上腕、大腿などですが、顔面や四肢末端、心臓、眼窩内、腸管など、脂肪組織の存在する部位にはどこにでも出現する良性腫瘍です。
脂肪腫には、皮下組織に見られる浅在性脂肪腫と、筋膜下、筋肉内、筋肉間に見られる深在性脂肪腫があります。皮下の脂肪腫は切除が容易です。
筋肉内脂肪腫は稀ですが、皮下の脂肪腫とは違い周りの筋肉内に浸み込むように浸潤します。そのために再発する場合があり、周囲の正常な筋肉を含めて切除する事があります。
普通は、成熟脂肪組織で構成される柔らかい単発性腫瘍ですが、稀に多発性することがあります。
脂肪腫自体は肉眼的には周囲との境界ははっきりとして、薄い被膜をかぶり、割面は淡黄ないし、橙黄色を示し、多脂性です。ある程度以上に大きいものは不規則な小葉構造をとります。
病理組織学的には成熟した脂肪細胞からなり、一見正常脂肪組織と区別がつきにくいですが、細胞は多少大きさ、形状に不同があり、正常よりやや大きいとされます。
薄い結合組織性の被膜があり、結合組織性の隔壁により小葉に分かれています。
脂肪腫の亜型には、
- 血管脂肪腫
- 血管筋脂肪腫
- 線維脂肪腫
- 骨髄脂肪腫
- 褐色脂肪腫
- 紡錘細胞脂肪腫
- 多形性脂肪腫
- 軟骨脂肪腫
などがあります。
血管筋脂肪腫は成熟脂肪細胞とともに血管成分が多く、最大径が1~2センチと小ぶりで、しばしば多発します。
紡錘形細胞脂肪腫/多型細胞脂肪腫は40-60代男性の項部や肩に多発する皮下腫瘍で、一般的な脂肪腫よりも硬い傾向にあります
脂肪腫の原因
脂肪腫の病因は不明ですが、いくつかの研究で遺伝的な関連が示されており、約3分の2の脂肪腫に遺伝的異常が見られます。
遺伝的な関連の可能性に加えて、特定の部位への外傷と脂肪腫に関連があると示唆されています。
研究によると、軟部組織に直接的な衝撃を受けた後の外傷後イベントとして脂肪腫の成長が関連しています。
上記のリスク要因に加え、肥満、アルコール、肝疾患、および耐糖能異常も脂肪腫の形成に繋がる可能性があるとされています。
発生時期は幼少時と考えられていますが、緩徐に発育するため発見は遅く、20歳以下には稀で、40~50歳代に多く見られます。
男女比は報告により一定しませんが、女性に多いとされ、また、肥満者に多いとも言われています。生下時より存在することもあります。
脂肪腫の前兆や初期症状について
一般的には弾性軟のなだらかに隆起する皮下腫瘤として触知します。
通常、痛みなどの症状は無く、皮膚がドーム状に盛り上がり、柔らかいしこりとして触れます。血管脂肪腫の場合は疼痛を有する場合もあります。
身体の各部に発生しますが、背部、肩、頸部などに多く、次いで上腕、臀部、大腿などの身体に近い方の四肢に多くみられます。
顔面、頭皮、下腿、足などはまれです。大きさは数mm径の小さなものから、直径が10センチ以上に及ぶものまであります。放置すると徐々に増大することが多い傾向にあります。
脂肪腫の前兆や初期症状が見られた場合に受診すべき診療科は、形成外科です。
脂肪腫は皮膚の下にできる良性の腫瘍であり、形成外科で診断と治療が行われています。
脂肪腫の検査・診断
診断は、臨床症状と画像検査で行います。
画像検査にはエコー検査、CT検査、MRI検査があります。特にMRIが有用です。
区別を要する疾患として、皮膚由来の嚢腫や軟部組織の肉腫(悪性腫瘍)などがあります。
急速に増大した場合や、硬さが不均一な場合は脂肪肉腫の可能性があり、MRI検査でも不均一な像が見られます。
診察や画像だけでは悪性の脂肪肉腫と鑑別が困難なこともあり、摘出し、病理組織学的検査を行った方が良いと思われます。
また、診察や画像診断などから悪性を否定できない場合は摘出手術をする前に、生検(病変の一部を切り取って組織や細胞などを、顕微鏡などで調べる検査)を行うことがあります。
脂肪腫の治療
脂肪腫は良性腫瘍なので、徐々に大きくなりますが、放置しても命に関わることはありません。
しかし大きくなってから手術をすると、手術のリスクが高くなる、傷跡が大きくなる、もし悪性だった場合には治療の遅れが問題となる、などのリスクがあります。
したがって、ある程度の大きさになったものでは手術により摘出したほうが良いと思われます。摘出の目的は整容的な改善と病理組織学的診断です。
手術では腫瘍の直上を、ほぼ腫瘍の直径に一致するように切開し、被膜を破らないように周囲組織から剥がして、摘出します。摘出後は、血腫(血が溜まること)を予防するため十分に止血を行い、必要に応じてドレーンを挿入し、圧迫固定します。
巨大な脂肪腫では脂肪吸引法も適応となることもありますが一般的ではありません。
手術に関しては腫瘍の存在部位や大きさ、合併症のリスクなどを総合的に判断して局所麻酔や全身麻酔、日帰りや入院などを決めます。
例えば、癒着が強いことが疑われる後頚部や肩の腫瘤、大きい腫瘤、神経や血管が近くに走行している場合などは、全身麻酔下に入院で行うのが安全です。
小さく、皮膚の直下にあるものは局所麻酔で日帰り手術が適していると思われます。
腫瘍の部位や場所によっては術後の神経障害や摘出後の陥凹変形をきたすこともあります。
手術で摘出した検体は病理検査という細胞の検査に提出します。
脂肪腫になりやすい人・予防の方法
明確な原因は判明しておらず、遺伝性もあるとされています。
一方で、肥満の方や糖尿病、脂質異常症の方にできることが多いという報告もあります。
予防としてできることとしては、栄養バランスの取れた食事と定期的な運動を行うこと、肝臓に負担をかけるアルコールや脂肪の摂取を控えることなどがあげられます。
参考文献
- 日本形成外科学会 日本医科大学武蔵小杉病院
- 雑誌形成外科 2019 増刊vol.62