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点頭てんかん
菅原 大輔

監修医師
菅原 大輔(医師)

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2007年群馬大学医学部卒業 。 自治医科大学附属さいたま医療センター小児科勤務 。 専門は小児科全般、内分泌代謝、糖尿病、アレルギー。日本小児科学会専門医・指導医、日本内分泌学会専門医、日本糖尿病学会専門医、臨床研修指導医。

点頭てんかんの概要

点頭てんかんとは、乳児期に発症する特殊なタイプのてんかんで、頭が突然カクンと前に倒れたり、手足を左右対称に硬直させたりする特徴的な発作が1日に何度も起こる病気です。

このような発作は「てんかん性スパズム(点頭発作)」と呼ばれており、繰り返し発生するのが特徴です。また、点頭てんかんは「乳児てんかん性スパズム症候群」「ウエスト症候群」といった名称でも知られています。

点頭てんかんは、主に何らかの脳障害が原因と考えられています。患者の約8割は、出生前や出生直後に起きた脳の障害が関係していることがわかっています。ただし、すべてのケースで原因がはっきりとしているわけではなく、近年、一部の症例において、特定の遺伝子異常が関連している可能性も指摘されています。

点頭てんかんの症状は、1日に何度も繰り返す点頭発作で、約8〜9割の患者に発達の遅れがみられます。治療は発作を抑える薬物療法が基本となり、主に副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)や抗てんかん薬が使われます。

小児の難治性てんかんの中でも、点頭てんかんは最も患者数が多く、日本国内では少なくとも4000人以上の患者がいると推定されています。しかし、約半数の方は治療により長期的にてんかん発作を抑えられることが報告されています。

出典:公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター ウエスト症候群(指定難病145)

点頭てんかんの原因

点頭てんかんは、脳の画像検査などで異常が認められる「症候性」と、発症までの発達に問題がなく、検査でも原因が特定できない「潜因性」に分類されます。

このうち、点頭てんかん全体の約8割を占める症候性では、出生前や出生直後に起こった脳の障害が関係していることが多いとされています。たとえば、出産時に赤ちゃんの脳が酸素不足になることで生じる低酸素性虚血性脳症、染色体の異常、先天的な脳の形の異常をともなう症候群、脳出血、脳梗塞、未熟児に多くい脳の白質の障害である傍側脳室白質軟化症、結節性硬化症などが挙げられます。

これらはいずれも脳の構造や働きに影響を及ぼし、点頭てんかんの原因になりうると考えられています。

しかし、すべての患者に共通する原因はまだ明らかになっておらず、現在も原因解明に向けた研究が続けられています。近年では、遺伝子検査技術の進歩により、一部の症例では特定の遺伝子変異が見つかるケースも報告されています。

点頭てんかんの前兆や初期症状について

点頭てんかんは、生後数ヶ月のうちに突然発症することが多く、生後3か月から11か月の間、特に6か月前後が最も発症しやすい時期とされています。一方、2歳を過ぎてから発症することは非常にまれとされています。乳児期の特定の時期に集中して発症するため、赤ちゃんの日々の発達や動きに注意を払うことが大切です。

点頭てんかんに特有の発作は「てんかん性スパズム(点頭発作)」と呼ばれ、とくに覚醒直後に多くみられます。発作はごく短い時間で起こり、平均して10秒程度の間隔で繰り返されるのが特徴です。1回だけの発作はまれで、ほとんどが数回繰り返されます。

発作時には、腕や脚の筋肉がピクっと一瞬収縮するような動きがみられ、多くの場合、左右対称に起こります。ただし、まれに左右で異なる動きをすることもあります。赤ちゃんが座っているときには、頭が前にカクンと倒れるような動きをともなうこともあります。

また、発症前後には、赤ちゃんが笑わなくなったり、不機嫌になったり、それまでできていた首すわりやお座りができなくなったりすることもあります。

これらの発作は、抱っこしたりつねったりするなどの刺激で止まることはなく、何度も繰り返すことが特徴です。一見すると、赤ちゃんのちょっとした動きのように見えることもあるため、発作に気づきにくい場合もありますが、少しでも異変を感じたときには早めに医療機関を受診することが重要です。

出典:公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター 概要・診断基準等 ウエスト症候群

点頭てんかんの検査・診断

点頭てんかんは、発症年齢や発作の特徴、脳波検査などの結果をもとに総合的に判断して診断されます。乳児期に特有のてんかん発作がみられたり、精神や運動の発達に遅れがあったりする場合に、点頭てんかんが疑われることがあります。

脳波検査では、発作と発作の間の脳波を調べたときに「ヒプスアリスミア」と呼ばれる点頭てんかんに特有の異常な波形が確認されることが多くあります。

また、MRIやCTなどの画像検査により、原因となる脳の障害の有無を確認することもあります。点頭てんかんと似た症状を示す「乳児ミオクロニーてんかん」や、病気ではない「身震い発作」などもあるため、これらを鑑別することも診断に重要です。

点頭てんかんの治療

点頭てんかんの治療では、てんかん発作を抑えるための薬物療法が中心になります。

副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を用いた治療が第一選択とされることが多く、発作を抑えられる効果が期待できます。また、結節性硬化症が原因となっている場合には、ビガバトリンという抗てんかん薬が使用されることが多いです。

ほかの抗てんかん薬も治療に使われることがあり、発作を抑えられる割合はACTH治療より劣るものの、副作用が比較的少ないため、ACTH治療の前に検討されることがあります。

薬による治療以外には、特定の栄養バランスを保った食事を摂る「ケトン食療法」と呼ばれる食事療法も選択肢のひとつとなっています。

また、脳の一部に限定された異常があり、その部分を手術で取り除くことが可能な場合には、外科的な治療が検討されることもあります。

点頭てんかんになりやすい人・予防の方法

点頭てんかんは、その多くが出生前後に脳に何らかの損傷や異常がある場合に発症するとされています。そのため、脳障害がある赤ちゃんは点頭てんかんを発症するリスクが高いと考えられます。

点頭てんかん自体は遺伝することがないとされていますが、遺伝性の脳の病気に伴って点頭てんかんを発症することもあります。

現時点では、点頭てんかんを確実に予防する方法は確立されていません。ただし、妊娠中の健康管理や、出生前後の適切な医療によって、脳に損傷を与えるリスクを軽減することは可能です。早産や分娩時のトラブル、酸素不足など、脳に大きな負担がかかる状況を避けることで、結果的に発症リスクを下げることが期待できます。

関連する病気

  • 乳児スパズム
  • 乳児てんかん性スパズム症候群
  • 新生児低酸素性虚血性脳症
  • 先天奇形症候群
  • 結節性硬化症
  • 未熟児傍側脳室白質軟化症
  • レノックス・ガストー症候群
  • 乳児ミオクロニーてんかん

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