目次 -INDEX-

尿閉
村上 知彦

監修医師
村上 知彦(薬院ひ尿器科医院)

プロフィールをもっと見る
長崎大学医学部医学科 卒業 / 九州大学 泌尿器科 臨床助教を経て現在は医療法人 薬院ひ尿器科医院 勤務 / 専門は泌尿器科

尿閉の概要

尿閉とは、膀胱に尿が溜まっているにもかかわらず、自力で尿を排出することができない状態を指します。

尿は腎臓で作られ、尿管を通って膀胱に蓄えられます。そして、ある程度、膀胱に尿が溜まると、尿意を感じて尿道から体外へ排出されるのが通常の排尿の仕組みです。

しかし、膀胱の筋肉が収縮できなくなったり、膀胱の開口部が閉塞されたりするなど、この一連の流れのどこかに異常が生じると、尿閉が起こることがあります。

尿閉を改善するためには、薬物療法やカテーテル治療、原因によっては手術が行われることがあります。特に高齢者では、尿閉が進行しても症状に気づかないことがあるため、泌尿器科の専門医を受診して治療を受けることが大切です。

尿閉の原因

尿閉の原因は多岐にわたりますが、大きく分けて、機械的閉塞と機能的閉塞の2つに分類できます。

機械的閉塞は、尿路(尿道、前立腺など)が物理的に塞がれることによって起こります。主な原因としては、前立腺肥大症や尿道狭窄、尿路結石、腫瘍などがあります。

前立腺肥大症は、加齢に伴って前立腺が肥大し、尿道を圧迫することで起こります。尿道狭窄は、炎症や外傷などが原因で尿道が狭くなる病気です。尿路結石は、尿中の成分が結晶化して結石となり、尿路を塞ぐことがあります。腫瘍は、膀胱がんや前立腺がんなどが尿路を圧迫することがあります。

また、機能的閉塞は、尿路の機能障害によって起こります。主な原因としては、神経因性膀胱や薬剤の副作用、手術後の合併症などがあります。

神経因性膀胱は、脳や脊髄などの神経の病気や障害によって、膀胱の機能がうまく調節できなくなる状態です。糖尿病や脳卒中などが原因となることがあります。薬剤の中には、膀胱の収縮を抑制する作用があるものがあり、それが尿閉の原因となることもあります。手術後には麻酔などの影響で、一時的に膀胱の機能が低下し、尿閉が起こるケースもあります。

このように、尿閉はさまざま原因によって起こる可能性があるため、原因に合わせた治療を受けることが重要です。

尿閉の前兆や初期症状について

尿閉の前兆や初期症状は、その原因によって多様ですが、共通して見られる症状もいくつかあります。
まず、排尿困難が、尿が出にくい、または排尿に時間がかかるという形で現れます。これは、尿道が何らかの原因で狭窄しているか、膀胱の収縮力が低下しておりうまく排尿できない場合に生じます。そのため、排尿に通常よりも長い時間を要するようになり、トイレに長時間滞在する傾向が見られるようになります。
また、尿閉の初期症状として頻尿が現れることがあります。これは、膀胱に十分尿を溜めることができなくなることによって、通常よりも頻繁にトイレへ行く必要を感じる状態です。しかし、頻繁にトイレへ行っても、排尿後に残尿感があることが多く、すぐにまた尿意を催す悪循環に陥ることがあります。
残尿感は、排尿後にも膀胱内に尿が残っている感覚を指します。これは、膀胱が完全に空にならないために起こり、残尿が多い状態は、尿路感染症を引き起こすリスクを高めます。
下腹部膨満感も、尿閉に伴う症状の一つです。これは、膀胱内に尿が溜まっていることによって、下腹部に張りや圧迫感を感じる状態を指します。重い感じや不快感を伴うこともあります。
急性尿閉では、これらの症状に加えて、突然の激しい下腹部痛が現れる場合があります。

尿閉の検査・診断

尿閉の検査・診断は、まず問診と身体診察から始まります。

問診では、症状やこれまでの経過、服用している薬などを詳しく確認します。症状については、いつから始まったのか、どのような状態か、痛みや発熱はあるかなどを聞き取ります。

身体診察では、下腹部を触って膀胱が腫れていないか、押すと痛みがあるかなどを調べます。

これらの基本的な診察に加えて、必要に応じてさらに詳しい検査が行われます。尿検査や血液検査では、尿に細菌や血液が混じっていないか、腎臓の機能が正常かどうかを評価します。超音波検査では、膀胱に尿がどれくらい溜まっているか、前立腺が大きくなっていないかなどを確認します。

内視鏡検査では、尿道や膀胱の中を直接観察し、炎症や狭窄などがないかを調べます。

これらの検査をもとに、尿閉と診断され治療が開始となります。

尿閉の治療

尿閉の治療は、原因や症状の程度によって異なります。
h3:薬物療法
前立腺肥大症による尿閉の場合は、薬物療法が有効な場合があります。薬物療法は、手術をせずに症状を改善することが目的です。

前立腺や膀胱頸部の筋肉を緩め、尿道を広げることで排尿を促したり、前立腺を縮小させることで尿道を広げたりします。

これらの薬を使う際には、副作用が現れる可能性があるため、症状に注意し専門医に相談しながら治療を進めます。
h3:導尿・カテーテル挿入
手術後や検査など、尿を速やかに排出する必要がある場合は、尿道から膀胱にカテーテルを挿入し、導尿を行います。カテーテル挿入は、尿閉の症状を一時的に改善するための処置です。

また、長期間にわたり排尿が困難な場合には、留置カテーテルを挿入します。留置カテーテルは、自力で排尿できない場合に、尿を体外へ排出するための手段です。

しかし、カテーテル挿入は、感染症や尿道損傷などの合併症のリスクがあるため、できるだけ短期間の使用にとどめることが望ましいです。
h3:手術
尿閉の原因疾患を根本的に治療するために、手術が行われることがあります。

手術は、薬物療法やカテーテル挿入で改善しない場合や、原因疾患を根治する必要がある場合に行われます。

前立腺肥大症には、内視鏡で前立腺を切除する「経尿道的切除術(TURP)」などが行われます。TURPは、比較的安全な手術ですが、出血や感染などの合併症が起こることがあります。

尿道狭窄には尿道拡張術を行うこともあります。尿道拡張術は、尿道を広げるための処置ですが、再狭窄する可能性もあります。

尿道からの排尿が困難な場合は、腹部から膀胱に管を通す「膀胱瘻造設術」を行って、尿を体外へ排出させることもあります。

尿閉の原因に合わせて、それぞれの手術が選択されます。

尿閉になりやすい人・予防の方法

尿閉は、特定の要因を持つ人に起こりやすい傾向があります。特に高齢の男性は、前立腺肥大症が尿閉の主な原因となることが多いです。加齢に伴い前立腺が肥大化し、尿道を圧迫することで排尿が困難になるためです。

ただし、高齢男性の場合、前立腺肥大症だけでなく、膀胱機能の低下や神経系の疾患も尿閉を引き起こす要因となることがあります。

神経系の疾患である。脳卒中、パーキンソン病、脊髄損傷などは、膀胱の収縮や尿道の開閉を制御する神経に影響を与え、正常な排尿機能を妨げることがあります。

また、糖尿病も尿閉のリスクを高める要因の一つです。糖尿病による神経障害は、膀胱の機能を低下させ、排尿がスムーズに行えなくなることがあります。

特定の薬剤の使用も尿閉を引き起こす可能性があります。抗コリン薬や抗ヒスタミン薬などは、膀胱の収縮を抑制する作用があるため、尿閉の原因となることがあります。これらの薬剤は市販薬にも含まれている場合があるため、注意が必要です。

手術後の患者も一時的に尿閉になることがあります。麻酔や手術の影響で、膀胱や尿道の機能が一時的に低下することがあるためです。手術の種類や範囲によって、尿閉のリスクが異なります。

尿閉を予防するためには、日常生活での注意が重要です。適切な水分摂取は、尿意を感じたら我慢せずに排尿することも重要です。

関連する病気

この記事の監修医師