

監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
バーター症候群の概要
バーター症候群は、腎臓の機能障害により、脱水や脱力感などの症状があらわれる病気です。
先天性疾患であり、病態によっては出生前診断により、胎児期に兆候をとらえられるケースがあります。
多くは乳幼児期までに診断されることが多いとされていますが、まれに成人になってから判明するような例もあります。
まれな疾患であり、海外の報告によると発症率は100万人あたり1人程度です。
症状や原因が類似しているギッテルマン症候群と合わせて、「遺伝性塩類喪失性尿細管機能異常症」とも呼ばれる場合もあります。
バーター症候群では、腎臓にある尿細管の機能が障害され、「低カリウム血症」や「代謝性アルカローシス」を引き起こします。
バーター症候群の原因は遺伝子の変異とされていますが、根本的な治療法は確立されておらず、継続的な対症療法が必要です。
通常では薬物療法が選択され、偏った電解質バランスの補正や脱水状態などの改善のためにカリウム製剤や輸液などが使用されます。
腎臓の機能低下により腎不全を発症した場合には、腎移植が検討される場合もあります。
バーター症候群は、家族にバーター症候群をわずらっている人がいるとリスクが高まる可能性があります。
すでにバーター症候群と診断されている場合は、病状の悪化による腎臓機能の低下を未然に防ぐことが重要です。
なかでも感染症を発症しやすい乳幼児は、水分摂取ができなくなり、脱水による急性腎不全を引き起こす可能性があります。

バーター症候群の原因
バーター症候群の原因は、腎臓に関連する遺伝子の変異です。
腎臓はネフロン(血液の濾過や尿の生成を担う構造)という構造からなる臓器です。
バーター症候群では、ネフロンの一部である「ヘンレループの上行脚」における細胞膜の遺伝子に変異が起こり、機能障害を引き起こすと言われています。
バーター症候群は、発症の原因となる遺伝子変異により1型、2型、3型、4型、4b型の5つに分類されます。
日本では、3型のバーター症候群がもっとも多く、全体の16%を占めるという報告もあります。
また、バーター症候群と類似した症状を示すギッテルマン症候群は、ネフロンの一部である「遠位尿細管」の細胞膜に遺伝子変異が起こり発症すると言われています。
バーター症候群の前兆や初期症状について
バーター症候群では体内の電解質のバランスが乱れ、低カリウム血症や代謝性アルカローシスを発症しやすくなります。
具体的な症状としては、脱水や脱力感、多飲多尿、嘔吐、高カルシウム尿症、腎臓の石灰化などが挙げられます。
腎臓の石灰化が進行すると、腎臓の機能低下を招き、末期腎不全につながる可能性もあります。
一部のバーター症候群では感音性難聴や成長障害を合併し、「音が聞こえにくい」「身長が伸びない」などの症状が認められる場合もあります。
バーター症候群の検査・診断
バーター症候群の診断では、血液検査や尿検査、利尿薬負荷試験、遺伝子検査、問診の聴取、画像検査などが実施される場合があります。
バーター症候群の主な診断基準としては、低カリウム血症や代謝性アルカローシス、高レニン・高アルドステロン症などが挙げられます。
上記の診断基準に当てはまるか確認するために、血液検査や尿検査などがおこなわれます。
主にカリウムやカルシウム、マグネシウム、レニンやアルドステロンなどの濃度を確認し、異常がないか確認します。
利尿薬負荷試験では、異なる種類の利尿薬を使用して、薬剤の作用が認められるか確認します。
主にバーター症候群の分類を鑑別する目的で実施されます。
バーター症候群の確定診断には、遺伝子検査が重要です。
遺伝子検査では遺伝子の解析をおこない、原因となる遺伝子に変異がないか確認します。
腎臓の石灰化が疑われたり、脱力感や嘔吐などの症状が認められたりした場合には、他の疾患との鑑別のために、画像検査(レントゲン検査、エコー検査、CT検査、MRI検査など)が実施される場合もあります。
バーター症候群の治療
バーター症候群には、根本的な治療法が確立されていません。
このため、バーター症候群では、継続的な対症療法が必要です。
通常、偏った電解質バランスの補正や脱水状態などの改善のために、薬物療法が選択されます。
電解質バランスの補正では、カリウムの補充のためにカリウム製剤が投与されるケースが多いです。
カリウム製剤を使用する場合は、通常、抗アルドステロン薬やアンジオテンシン変換酵素阻害剤の併用がおこなわれます。
低カリウム血症が十分に改善されない場合には、非ステロイド性抗炎症薬が使用される場合もあります。
脱水状態では大量の輸液が選択され、成長障害や低身長が認められる場合には、成長ホルモン補充療法が必要なケースもあります。
また、腎臓の機能低下により腎不全をきたしているケースでは、腎移植が検討される場合もあります。
バーター症候群になりやすい人・予防の方法
バーター症候群は遺伝子の変異によって引き起こされる疾患であることがわかっています。このため家族歴によっては発症リスクが高まる可能性があります。
まれな疾患であり、完全に予防することは難しいと言えます。
すでにバーター症候群と診断されている場合は、病状の悪化による腎臓機能の低下をできる限り防ぐことが重要です。
とくに感染症を発症しやすい乳幼児では、軽度な風邪やインフルエンザなどの感染症により水分摂取ができなくなり、脱水による急性腎不全を引き起こす可能性があります。
乳幼児に対しては、感染症対策として、周囲の大人も手洗いうがいやマスクの着用などの感染症対策に取り組むことが重要です。
飲み物を拒むなどの乳幼児の普段と異なる様子の変化がみられた場合には、できる限り早めに医療機関を受診しましょう。
参考文献




