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膜性増殖性糸球体腎炎
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

膜性増殖性糸球体腎炎の概要

膜性増殖性糸球体腎炎 (MPGN) は、糸球体という腎臓のろ過装置に構造的な異常が生じる疾患群です。膜性増殖性糸球体腎炎 自体は腎生検に立脚する病理診断名で、様々な原因により発症します。膜性増殖性糸球体腎炎 には、原因が特定できない一次性と、ウイルス感染や自己免疫疾患、血液疾患などが背景にある二次性があります。いずれも免疫複合体や補体の異常な沈着が関与して炎症を起こし、タンパク尿や血尿、浮腫、高血圧などの症状を引き起こします。初期には無症状のことも多く、健康診断の尿検査で発見されることがあります。確定診断には腎生検が必要で、分類や原因精査により治療方針が定まります。原因が明らかであればその治療が優先され、一次性の場合はステロイドや免疫抑制剤による治療が検討されます。膜性増殖性糸球体腎炎 の発症自体を予防することは難しいものの、関連疾患の管理や健診による早期発見が重要です。

膜性増殖性糸球体腎炎の原因

糸球体とは、私たちが腎臓で血液をろ過するときの「ろ紙」にあたるもので、要らないものは尿中に捨てて、捨てたくないもの (タンパク質など) は通さないようにしています。 膜性増殖性糸球体腎炎 (Membranoproliferative glomerulonephritis:MPGN) は、糸球体の構造に特徴的な変化を伴う疾患群であり、病理診断名です。つまり膜性増殖性糸球体腎炎は特定の疾患を指すものではなく、糸球体が膜性増殖性糸球体腎炎といわれるような状態になる疾患はたくさんあります。

膜性増殖性糸球体腎炎はさらに原因によって一次性と二次性に分類されます。 一次性 膜性増殖性糸球体腎炎 は特定の基礎疾患を認めないにもかかわらず発症するタイプで、二次性膜性増殖性糸球体腎炎の背景には慢性感染症 (C型肝炎、感染性心内膜炎など) や自己免疫疾患、悪性腫瘍、慢性肝疾患などの様々な疾患が関与しています (参考文献 1, 2) 。

いずれの型でも、糸球体に免疫複合体や補体成分が沈着することによって炎症や構造破壊が生じ、腎機能の低下します。

膜性増殖性糸球体腎炎の前兆や初期症状について

膜性増殖性糸球体腎炎 の初期は無症状で、健康診断の尿検査でタンパク尿や血尿が偶然発見されることがあります。 初期症状として多いものに浮腫 (むくみ) があります。糸球体構造が破壊されることによってタンパク質が尿中に排泄されるようになります。血液中のタンパク質は血管内に水分を保つ役割があるのですが、膜性増殖性糸球体腎炎 の進行によって血中のタンパク質が少なくなると血管の外へ水分が逃げて行ってしまい、皮下組織に溜まった水が浮腫みとして現れます。 血液の水分が血管外に出て行ってしまうため、腎臓に流れる血液量が減ってしまいます。すると腎機能が低下するほか、血圧をあげるためのホルモンが分泌され高血圧になります。

症状が出る前に尿検査や血液検査の異常を拾い上げることが、最も重症化予防に有効です。健康診断で異常を指摘された際は、放置せずに近くの内科を受診してください。 浮腫・高血圧の原因は、膜性増殖性糸球体腎炎をはじめとした腎疾患以外にも、心臓や肝臓の病気が背景にある場合があります。こちらも放置せずに近くの内科を受診してください。

膜性増殖性糸球体腎炎の検査・診断

いきなり 膜性増殖性糸球体腎炎 と診断するわけではなく、まずは血液検査や尿検査で「糸球体疾患があるかもしれないぞ」と疑うことが診断の第一歩です。また、どの程度尿中にタンパク質が漏れ出てしまっているのかは、重症度の判定や治療方針の決定に重要な情報です。 一定以上タンパク質が尿に捨てられてしまっている場合には「ネフローゼ症候群」とよばれる状態に陥っていると判断されます。

「補体」という免疫系の構成要素が膜性増殖性糸球体腎炎の発症に関与していることが知られており、補体が消費されることにより膜性増殖性糸球体腎炎では補体の血中濃度が低下することが知られていて、特徴的な所見です (参考文献 3)。

顕微鏡的に 膜性増殖性糸球体腎炎 と診断するためには腎生検が必須です。超音波を使いながら長い針を背中側から刺して、腎臓の一部を採取します。 顕微鏡的特徴からⅠ型からⅢ型まで分類され (参考文献 1) 、原因の推定や治療方針の決定に役立ちます。

膜性増殖性糸球体腎炎と分かったあとは、なぜそうなったのか調べます。後述するような原因になりうる疾患の有無をしらべる診察。検査を並行して行います。

膜性増殖性糸球体腎炎の治療

原疾患が判明した場合には、原因の治療をします (参考文献 1) 。原疾患が治癒したりコントロールがつくと、膜性増殖性糸球体腎炎の進行も止まることが多いです (参考文献 4) 。 特に原因の見つからない、一次性膜性増殖性糸球体腎炎の発症には免疫学的なメカニズムが関与していると考えられているため、ステロイドやシクロスポリン、ミコフェノール酸モフェチル (MMF) などの免疫抑制剤をつかって疾患のコントロールをねらいます (参考文献 1, 4) 。

膜性増殖性糸球体腎炎になりやすい人・予防の方法

膜性増殖性糸球体腎炎の原因となる疾患がいくつか知られており、それらの疾患の患者は二次性膜性増殖性糸球体腎炎の発症リスクが高いと考えられます。原疾患として知られているものには次のものがあります (参考文献 2)。

  • 免疫複合体疾患:ループス腎炎、紫斑病性腎炎など
  • 異常蛋白が増える疾患:クリオグロブリン血症など
  • 感染症:B型・C型肝炎ウイルス、パルボウイルスB19、細菌性心内膜炎、シャント腎炎など
  • 腫瘍:悪性リンパ腫、白血病、多発性骨髄腫など
  • 肝疾患:肝硬変、アンチトリプシン欠損症など

発症を予防することは難しいですが、背景疾患のある方は定期的な外来受診をすることで腎臓の異常を早期発見することができます。また、健康診断で腎臓機能の異常が発覚し、早期発見につながることも多いです。膜性増殖性糸球体腎炎予防に限りませんが、健康診断の異常は放置せずに医療機関を受診してください。

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