

監修医師:
佐伯 信一朗(医師)
膀胱尿管逆流症の概要
膀胱尿管逆流症は、膀胱にたまった尿が本来は逆流しないはずの尿管を通って腎臓の方へ逆流してしまう病気です。尿は通常、腎臓で作られ尿管を通って膀胱に運ばれますが、逆流があると尿が腎臓側に戻ってしまい、腎盂や腎実質に負担をかけます。特に感染を伴うと腎盂腎炎や腎瘢痕の原因になります。子どもの尿路感染症の背景に膀胱尿管逆流症が存在することが多く、適切な診断と治療が重要です。この病気は主に乳幼児期に発見されることが多く、早期に診断し適切に管理することで、長期的な腎機能障害を予防できます。
膀胱尿管逆流症の原因
多くの膀胱尿管逆流症は生まれつきの構造的な異常によるものです。尿管が膀胱に斜めに入り込み、本来は尿が逆流しないような弁の役割を果たしていますが、この構造が短かったり緩かったりすると逆流が起こります。これを一次性膀胱尿管逆流症と呼びます。まれに神経因性膀胱や尿道閉塞といった膀胱の機能異常によって二次性に膀胱尿管逆流症が生じることもあります。また、出産時の未熟な膀胱機能や解剖学的異常が関与している場合もあります。家族歴のある子どもでは遺伝的な素因も指摘されています。
膀胱尿管逆流症の前兆や初期症状について
膀胱尿管逆流症そのものは通常自覚症状がありません。しかし、尿路感染症のきっかけになることが多く、発熱、腹痛、側腹部痛、排尿時痛、頻尿、尿失禁、血尿、尿の濁りや悪臭といった尿路感染症の症状が出現します。小さい乳児では不機嫌、哺乳不良、体重増加不良、黄疸といった非特異的な症状のみの場合もあります。乳児では泣き止まない、眠りが浅い、哺乳量が減るといったサインが唯一の手がかりになることもあります。こうした症状が見逃されると診断が遅れることもあり、腎瘢痕形成のリスクが高まります。
膀胱尿管逆流症の検査・診断
まずは尿路感染症の有無を確認します。尿検査では白血球や細菌の有無を調べ、必要に応じて尿培養で菌の同定を行います。尿の採取は清潔な方法が重要で、乳児ではカテーテル採尿や膀胱穿刺が推奨されています。繰り返す尿路感染症の背景として膀胱尿管逆流症を疑うことが重要です。
画像検査としては、すべての子どもに腎臓・尿路の超音波検査を行います。腎臓の大きさ、形、尿路の拡張、腎盂や腎杯の拡張の有無を確認します。超音波で異常がある場合や感染を繰り返す場合は、膀胱尿道造影が診断の標準です。膀胱尿道造影は尿道にカテーテルを挿入し造影剤を注入しながら排尿時の尿の流れを観察する検査で、逆流の有無と程度を詳細に評価します。逆流の程度は重症度によりグレード1からグレード5まで分類されます。造影に伴う放射線被曝と侵襲性を考慮し、検査の必要性を慎重に判断します。
また、腎瘢痕の評価にはジメルカプトサクシン酸シンチグラフィが行われます。この検査は腎臓の瘢痕や局所機能低下を調べる目的で行われ、感染治療後4〜6ヶ月経過してから施行するのが望ましいとされています。早期に実施すると一時的な炎症性変化を瘢痕と誤認する可能性があるため、適切な時期の評価が重要です。
膀胱尿管逆流症の治療
治療は重症度と経過によって異なります。軽度の膀胱尿管逆流症は成長とともに自然に治癒することが多く、経過観察が基本です。尿管の成長とともに逆流が改善し、学童期までに自然消失することも少なくありません。一方、中等度から高い重症度では尿路感染の再発を防ぐことが重要です。感染が繰り返されると腎瘢痕や腎機能低下の原因になります。
抗菌薬による予防投与は、過去にはすべての患者に行われていましたが、近年は必要性が見直されています。正常な尿路構造で排尿習慣に問題がない子どもでは予防投与は推奨されません。一方、重症の膀胱尿管逆流症や膀胱腸管機能異常を伴う場合、再発性尿路感染症予防のために抗菌薬の予防投与が考慮されます。ただし使用する薬剤の種類は医師が慎重に判断し、副作用や体質に配慮しながら選択されます。
外科的治療は以前よりも適応が限定されつつあります。抗菌薬予防を行っても感染を繰り返す場合や家族の強い希望がある場合には手術が検討されます。手術には尿管再建術や内視鏡的治療があります。内視鏡的治療は体への負担が少ない治療法として広く普及していますが、再治療が必要となる場合もあり、長期成績を見ながら慎重に選択されます。
膀胱尿管逆流症になりやすい人・予防の方法
膀胱尿管逆流症は先天性の割合が多く、家族内発症も報告されています。男児より女児に多く、特に乳児期の発熱性尿路感染症は膀胱尿管逆流症の存在を疑うきっかけになります。兄弟姉妹や親に既往歴がある場合はスクリーニングを行うこともあります。便秘や膀胱腸管機能異常があると尿路感染症を繰り返しやすく、膀胱尿管逆流症の経過にも悪影響を及ぼします。
予防の基本は、尿路感染症を早期に発見し適切に治療することです。排尿習慣の確立、便秘の改善、適切な水分摂取、トイレトレーニングの支援が重要です。特に便秘のコントロールは再発防止に大きく寄与します。トイレトレーニングが完了し、膀胱腸管機能異常がなく、過去1年以内に尿路感染症の再発がない場合は、予防的抗菌薬の中止も検討されます。早期介入と適切なフォローアップによって、多くの子どもが腎機能障害を残さず成長できることが期待されています。
参考文献
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