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急速進行性糸球体腎炎
前田 広太郎

監修医師
前田 広太郎(医師)

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2017年大阪医科大学医学部を卒業後、神戸市立医療センター中央市民病院で初期研修を行い、兵庫県立尼崎総合医療センターに内科専攻医として勤務し、その後複数の市中急性期病院で内科医として従事。日本内科学会内科専門医、日本腎臓学会腎臓専門医、日本透析医学会透析専門医、日本医師会認定産業医。

急速進行性糸球体腎炎の概要

急速進行性糸球体腎炎とは、「急性あるいは潜在性に発症する血尿、蛋白尿、貧血と急速に進行する腎不全をきたす症候群」とWHOにより定義され、本邦では厚生労働省により「腎炎を示す尿所見を伴い数週から数か月の経過で急速に腎不全が進行する症候群」とされています。急速進行性糸球体腎炎は一つの疾患というよりも、共通の病理像を示す複数の疾患からなる臨床症候群で、大きく3病型に分類されます。臨床症状として血尿、尿量減少、高血圧、下腿浮腫といった腎不全からなる症状の他に、呼吸困難などの肺症状、皮疹や発熱といった膠原病や血管炎様の症状を呈することもあります。血液検査では3ヶ月以内に推定糸球体濾過量が30%以上低下するのが目安となり、原因となる抗体などを測定したり腎臓以外の病変を検索します。診断、治療可能性、予後推定のためにも可能な限り腎生検を施行し、病理診断を行います。治療は副腎皮質ステロイドや免疫抑制剤を使用したり、疾患によっては血漿交換療法などを行います。無治療であれば多くが末期腎不全に至り、適切な治療を開始しても病勢が強い場合は末期腎不全に至ることもあります。

急速進行性糸球体腎炎の原因

急速進行性糸球体腎炎は臨床症候群であり、様々な疾患が含まれ、一次性と二次性に分類されます。

一次性(腎のみを障害する)には、Pauci-immune型や抗糸球体基底膜抗体による半月体形成性糸球体腎炎や、IgA腎症や膜性増殖性糸球体腎炎などの半月体形成を伴う糸球体腎炎があります。二次性(全身性疾患や感染症に伴い腎を障害する)には、顕微鏡的多発血管炎などの全身性血管炎、全身性エリテマトーデスなどの膠原病、溶連菌感染後糸球体腎炎などの感染に伴う腎炎や薬剤性などがあります。

いずれも、腎臓の糸球体細血管壁に対する障害が起き、多くが壊死性半月体形成性糸球体腎炎と呼ばれる病理像を呈します。半月体形成性糸球体腎炎は免疫グロブリンの沈着様式により、1)線上型、2)、顆粒状型、3)沈着がないかごく軽度の微量免疫型(Pauci-immune型)の3つの病型に分類されます。

本邦では2002年以降の臨床病型として最多なのがPauc-immune型半月体形成性糸球体腎炎(43.9%)で、次いで顕微鏡的多発血管炎(22.8%)、抗糸球体基底膜抗体型半月体形成糸球体腎炎(3.9%)が続き、他にはIgA腎症、紫斑病性腎炎、全身性エリテマトーデスといった疾患が1~2%となっています。

急速進行性糸球体腎炎の前兆や初期症状について

急速進行性糸球体腎炎に特異的な症状はなく、原疾患により多彩な症状を呈します。前兆の特徴として、上気道炎などの感冒症状や感染症症状のような漠然とした全身倦怠感や微熱、食欲不振などを訴えて受診に至ることもあります。これらに伴い短期間で進む体重減少が高頻度で認められます。初発症状から感染症や感冒が疑われ、抗菌薬の投与が行われるものの、微熱をはじめとする炎症症状の改善が得られなかったり、再増悪することにより、単なる感染症でないと気づかれることが多いです。症状としては他に顕微鏡的血尿や肉眼的血尿が出現することもあります。原疾患が全身性疾患(血管炎や全身性エリテマトーデスなど)の場合、咳嗽や呼吸困難、血痰などの呼吸器症状、紫斑や紅斑といった皮疹、血便や腹痛といった消化器症状、しびれや感覚異常といった神経症状などを認めることがあります。

急速進行性糸球体腎炎の検査・診断

尿検査にて、血尿が高頻度にみられ、蛋白尿、糸球体型赤血球、白血球やさまざまな細胞性円柱を伴います。血液検査では血清クレアチニンの上昇、CRPや赤沈といった炎症マーカーの上昇、貧血の進行、補体の低下や各種抗体(抗糸球体基底膜抗体、MPO-ANCA、PR3-ANCAなど)を確認します。腹部超音波により多くが腎臓は正常からやや腫大している所見を認めます。CTなどで間質性肺炎や肺胞出血などの肺病変といった腎外病変の有無を確認します。確定診断と進行度、予後の見通しや治療判定のために腎生検を可能な限り行います。全身状態が不良で安全に腎生検が施行できない場合は初期治療を優先し、全身状態が落ち着いてから実施することも考慮します。腎病理所見では、糸球体に免疫グロブリンの沈着を認めないか微小であるPauci-immune型で、ANCA陽性のANCA関連血管炎・腎炎が大多数を示します。重症度分類として、血清クレアチニン値、年齢、肺病変の有無の4項目でスコア化され、GradeⅠ~Ⅳまでの臨床重症度があり、腎予後や生命予後を予測します。

急速進行性糸球体腎炎の治療

治療は原疾患に応じて治療を行います。多くの初期治療では、副腎皮質ステロイドの投与に加え、免疫抑制剤(シクロホスファミドやリツキシマブなど)を併用し治療を開始します。補助療法として重篤な腎機能低下の進行時には血漿交換療法の併用も考慮します。初期治療時の感染症併発は生命予後の規定因子であり、免疫グロブリン大量療法や、感染症予防薬の長期投与も考慮されます。急性期の後は副腎皮質ステロイドを漸減し、寛解維持療法を行います。副腎皮質ステロイド長期投与による副作用に対して、感染予防や骨粗鬆症に対する投薬を行います。免疫抑制療法開始前にはB型肝炎ウイルスや結核菌感染のスクリーニング検査を行い、発症予防や適切なモニタリングを行います。

予後として、生存率は発症6ヶ月で90.6%、24か月で86%程度の生存率とされます。腎予後(末期腎不全に至らない率)としては発症6ヶ月で79%、24か月で75.6%が腎機能を温存できているととされます。一方、抗糸球体基底膜型の急速進行性糸球体腎炎では腎予後は極めて不良であり、24ヶ月以内に60%近くが末期腎不全に至り維持透析を要するとされます。急速進行性糸球体腎炎の死因の約半数が肺炎などをはじめとした感染症であり、その他呼吸不全や播種性血管内凝固症候群などで死亡に至るとされます。

急速進行性糸球体腎炎になりやすい人・予防の方法

本邦において、急速進行性糸球体腎炎は年間約2700~2900例発症していると予測されます。最多病型のpauci-immune型の一次性半月体形成性糸球体腎炎は、平均発症年齢67歳、次いで多い顕微鏡的多発血管炎は68歳と高齢者に多いとされます。予防の方法は確立されていません。

参考文献

  • 1)Kidney Disease: Improving Global Outcomes (KDIGO) Glomerular Diseases Work Group. KDIGO 2021 Clinical Practice Guideline for the Management of Glomerular Diseases. Kidney Int. 2021;100(4S):S1.
  • 2)Up to date:Overview of the classification and treatment of rapidly progressive (crescentic) glomerulonephritis.
  • 3)厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業) 難治性腎障害に関する調査研究班. エビデンスに基づく 急速進行性腎炎症候群 RPGN 診療ガイドライン 2020. 東京医学社. 東京. 2020
  • 4)Jennette JC. Rapidly progressive crescentic glomerulonephritis. Kidney Int. 2003;63(3):1164.

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