

監修医師:
大坂 貴史(医師)
クラミジア尿道炎の概要
クラミジア尿道炎は、日本でも非常に多く見られる性感染症のひとつで、クラミジア・トラコマティスという細菌が原因となります。クラミジアは世界的にも感染者数が多く、特に若年層に多くみられます。この病気は性行為によって感染が広がり、男性では主に尿道に炎症を起こします。一方、女性では子宮頸管、卵管、骨盤内まで感染が広がることもあります。クラミジアは感染しても症状が出にくい特徴があり、感染に気づかず放置されることで重い合併症へと進展することがあります。
クラミジア尿道炎の原因
クラミジア・トラコマティスは、人の細胞の中に寄生して増殖する特殊な細菌です。このため、免疫から逃れやすく、感染が長引くことがあります。感染経路は主に性行為(腟性交、口腔性交、肛門性交)です。性行為を通じて尿道や性器の粘膜に付着し、そこで細胞内に侵入して炎症を引き起こします。妊婦が感染している場合は、出産時に新生児に感染し、結膜炎や肺炎の原因にもなります。
クラミジアは感染後すぐに症状が現れないことが多く、長期間気づかずに生活する人も少なくありません。特に女性では無症状が多く、感染が進行して骨盤内に広がると不妊や慢性的な骨盤痛の原因となることもあります。
クラミジア尿道炎の前兆や初期症状について
クラミジア尿道炎は、多くの場合は無症状のまま経過します。男性でも約半数、女性では約7割が症状を自覚しないと報告されています。しかし、症状が現れた場合は次のようなものがあります。
男性では、尿道からの透明または白っぽい分泌物が見られます。排尿時に痛みや灼熱感があり、尿道口の違和感やかゆみ、頻尿、残尿感を訴えることもあります。また、放置すると精巣上体炎(副睾丸炎)を起こし、陰嚢の腫れや痛みが生じることもあります。
女性では、おりものの増加、不正出血、性交時の痛み、下腹部の重苦しい感じなどがあります。しかしこれらは他の婦人科疾患と区別がつきにくく、症状が軽微であることも多いため注意が必要です。感染が卵管に広がると卵管炎、さらに骨盤内腹膜炎を起こし、骨盤内膿瘍、不妊症、異所性妊娠(子宮外妊娠)の原因になることがあります。
クラミジア尿道炎の検査・診断
診断には主に尿検査や分泌物検査が用いられます。従来は顕微鏡検査や細菌培養も行われていましたが、現在では精度の高い遺伝子検査(PCR法)が主流となっています。PCR法は少量の菌でも高精度で検出でき、早期診断に非常に有効です。男性では初尿(最初に出る尿)を採取し、女性では膣や子宮頸部のぬぐい液を採取して検査します。
検査の際にはクラミジア以外の性感染症の同時検査も推奨されます。特に淋菌との混合感染がしばしば認められるため、包括的なスクリーニングが行われます。また、HIV、梅毒、B型・C型肝炎ウイルス感染の有無も確認されることが一般的です。
クラミジア尿道炎の治療
クラミジア尿道炎の治療は抗菌薬が基本です。最も一般的に使用されるのはマクロライド系抗菌薬で、一度の内服で高い効果が得られる薬剤が用いられることもあります。テトラサイクリン系のドキシサイクリンも高い治療効果があります。治療期間は数日から1週間程度で、多くの患者は完全に治癒します。
治療中はパートナーの同時治療が非常に重要です。パートナーが治療を受けずに残っていると、性交渉を通じて再感染してしまうことがあります。再感染を防ぐためには治療期間中は性行為を控え、治療後も再検査によって治癒を確認することが推奨されます。
まれに治療抵抗性のクラミジアが報告されることもあり、治療後の症状残存や検査陽性が続く場合は抗菌薬の変更が検討されます。近年、抗菌薬耐性菌の動向にも注意が払われていますが、現在のところクラミジア・トラコマティスは比較的治療しやすい菌とされています。
クラミジア尿道炎になりやすい人・予防の方法
クラミジア尿道炎は、性行為を行うすべての人が感染の可能性を持ちますが、特に若年層での感染率が高く、10代後半から20代にピークを迎えるとされています。複数の性的パートナーがいる場合、コンドームを使用しない場合、パートナーの感染歴がある場合は感染リスクが高まります。
予防の基本はコンドームの使用です。コンドームは正しく使用すれば高い予防効果があります。また、定期的な性感染症の検査も大切です。症状が出にくい感染症であるため、無症状でも感染している可能性を考慮し、定期検診が推奨されています。特に新しいパートナーとの性行為の前には双方での検査が理想的です。
妊娠中の女性は定期的な検査が勧められており、感染していた場合は妊娠中に治療を行うことで母子感染を防ぐことができます。新生児期にクラミジア感染が移行すると、新生児結膜炎や肺炎を起こす可能性があるため注意が必要です。
クラミジア尿道炎は早期発見・早期治療が可能な感染症です。定期検査とパートナー管理を徹底することで、多くの合併症を防ぐことができます。性感染症に対する正しい知識と予防行動が社会全体の感染拡大防止に直結します。
参考文献
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