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出血性膀胱炎
佐伯 信一朗

監修医師
佐伯 信一朗(医師)

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兵庫医科大学卒業。兵庫医科大学病院産婦人科、兵庫医科大学ささやま医療センター、千船病院などで研鑽を積む。兵庫医科大学病院産婦人科 外来医長などを経て2024年3月より英ウィメンズクリニックに勤務。医学博士。日本産科婦人科学会専門医、日本医師会健康スポーツ医、母体保護法指定医。

出血性膀胱炎の概要

出血性膀胱炎とは、膀胱の内側を覆う粘膜が傷つくことで出血が起こり、尿に血が混ざる状態を指します。典型的な症状は血尿で、尿がピンク色から真っ赤に見えることもあります。また、排尿時の痛みや頻尿、尿が出にくいといった排尿障害がみられることもあります。重症例では血液の塊が尿道に詰まり排尿困難や尿閉を引き起こすこともあります。出血性膀胱炎は原因によって急性型と慢性型に分かれますが、いずれも適切な診断と治療が重要です。

出血性膀胱炎の原因

出血性膀胱炎の原因は多岐にわたりますが、主に感染、薬剤、放射線治療の影響が挙げられます。感染性ではウイルスによるものが特徴的です。特に骨髄移植後やがん治療後など免疫抑制状態の子どもに多く、BKウイルスやアデノウイルスが原因となることがあります。これらのウイルスは膀胱粘膜に感染し炎症と出血を引き起こします。

薬剤性の原因としては、抗がん剤のシクロホスファミドがよく知られています。この薬は膀胱内で代謝物を生成し、粘膜を障害することで出血性膀胱炎を誘発します。高用量で投与された場合に特にリスクが高まります。

また、骨盤内のがんに対する放射線治療も重要な原因の一つです。放射線により膀胱の血管が傷つき、数ヶ月から数年後に遅発性の出血性膀胱炎を発症することがあります。慢性期には膀胱の線維化や血流障害が進行し、出血が持続することがあります。

出血性膀胱炎の前兆や初期症状について

初期には尿に血が混ざる血尿が最も目立ちます。血尿は軽度なこともありますが、突然真っ赤な尿が出る場合もあります。血尿が続くと尿が濁り、悪臭が生じることもあります。尿の回数が増えたり、排尿時に痛みを伴う頻尿や排尿痛も出現しやすくなります。特に薬剤性では治療中あるいは治療後しばらくして発症することが多く、放射線性では治療終了から数か月〜数年後に出現する場合があります。免疫抑制下のウイルス性膀胱炎では、全身倦怠感や発熱を伴うこともあります。

出血性膀胱炎の検査・診断

診断の基本は詳細な問診です。直近の薬剤使用歴、移植歴、放射線治療歴、感染症罹患歴が重要な情報となります。尿検査では赤血球の出現や感染の有無を調べ、尿培養やウイルス検査が追加されることがあります。

画像検査では、超音波検査で膀胱内の血塊や粘膜の異常を確認します。CT検査が追加される場合もあります。膀胱鏡検査では粘膜の出血斑や壊死所見、血栓形成の状態が直接観察できます。放射線性の出血性膀胱炎では特有の粘膜の毛細血管拡張所見が確認されます。

出血性膀胱炎の治療

治療は原因によって異なります。軽症の場合には十分な水分摂取を促し、尿量を増やして血液や代謝産物を膀胱から早く排出させることが重要です。

感染が原因の場合には、適切な抗菌薬や抗ウイルス薬が使用されます。ウイルス性出血性膀胱炎においては、支持療法が中心となりますが、重症例では抗ウイルス薬が考慮される場合もあります。

薬剤性では原因薬剤の中止や用量調整が行われます。シクロホスファミド使用時には、予防的に水分補給を徹底し、膀胱保護薬を併用することがあります。放射線性の場合には高圧酸素療法が有効とされており、特に難治例に対して行われます。高圧酸素により虚血状態の膀胱組織に酸素を供給し、血管新生を促すことで出血を抑えます。

重症例では、膀胱内を洗浄して血液凝固塊の除去を行い、尿路閉塞を防ぎます。さらに難治性の場合には、膀胱動脈塞栓術や外科的治療が検討されることもあります。

出血性膀胱炎になりやすい人・予防の方法

骨髄移植や臓器移植を受けた人、がん化学療法や放射線治療を受けた人、免疫抑制療法中の人は特に出血性膀胱炎を発症しやすい傾向があります。予防のためには、化学療法中の十分な水分補給、膀胱保護薬の適切な使用、放射線治療後の定期的なフォローアップが重要です。移植後のウイルスモニタリングや早期治療介入も重症化予防に役立ちます。

参考文献

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