淋菌性尿道炎

監修医師：
佐伯 信一朗（医師）

淋菌性尿道炎の概要

淋菌性尿道炎は、淋菌（Neisseria gonorrhoeae）という細菌が尿道に感染して起こる病気です。性行為を通じて感染が広がる性感染症の一つであり、世界的にも日本国内でも感染者数は非常に多く報告されています。男性では主に尿道に感染し、女性では子宮頸管や卵管まで広がることもあります。感染力が非常に強く、わずかな接触でも感染する可能性があります。近年は、抗菌薬に対する耐性を持った淋菌が増えてきており、治療が難しくなるケースも問題となっています。

淋菌性尿道炎の原因

原因となる淋菌は、粘膜と粘膜の接触により感染します。主に膣性交、肛門性交、口腔性交によって感染が広がります。感染後は尿道の粘膜に付着し、炎症を引き起こします。特に男性では、感染から数日以内に症状が出ることが多く、早期に気づかれる場合が多いです。一方、女性では症状が軽い、あるいは無症状であることも多く、知らないうちに感染が広がり、合併症が進行するケースがあります。

また、妊婦が感染している場合、出産時に赤ちゃんに感染が及び、新生児結膜炎（淋菌性眼炎）を起こすこともあります。性行為の経験があれば誰でも感染の可能性があり、特に若年層の感染が目立っています。

淋菌性尿道炎の前兆や初期症状について

男性では、感染後2〜7日ほどで症状が出ることが多いです。典型的な症状は、尿道から膿が出ること（排膿）、排尿時の痛みや灼熱感、尿道のかゆみ、頻尿、残尿感などです。膿は白色〜黄色がかっており量も多く、衣服に付着するほど分泌されることもあります。

女性では症状がはっきり出ないことが多く、気づかれず放置されやすい特徴があります。症状がある場合は、おりものの増加、不正出血、性交時の痛み、下腹部の違和感などが挙げられます。感染が広がると骨盤内炎症性疾患を起こし、不妊症や子宮外妊娠の原因になることもあります。

さらに、男女ともに咽頭感染や直腸感染を起こすこともあり、咽頭感染では喉の違和感、痛み、直腸感染では排便時の痛みや出血、膿の排出がみられることもあります。これらは症状が目立たない場合が多く、見逃されることがあります。

淋菌性尿道炎の検査・診断

診断には主に尿検査、分泌物検査、ぬぐい液の検査が用いられます。近年は遺伝子検査（核酸増幅検査、NAAT）が主流で、感度・特異度ともに非常に高く、正確な診断が可能です。男性では初尿を採取し、女性では膣や子宮頸管のぬぐい液を使用します。

クラミジアとの混合感染が多いため、淋菌が疑われた場合はクラミジア検査も同時に行うのが一般的です。また、他の性感染症（HIV、梅毒、B型肝炎、C型肝炎）についても併せて検査を行うことが推奨されています。

淋菌性尿道炎の治療

治療の基本は抗菌薬です。かつてはペニシリン系、キノロン系の抗菌薬が使用されていましたが、耐性菌の増加によりこれらが効かなくなるケースが増えています。現在は、第三世代セフェム系抗菌薬やマクロライド系抗菌薬の併用療法が推奨されています。代表的な治療としては、セフトリアキソンの筋肉注射とアジスロマイシンの内服を併用する方法があります。

治療後は、必ず治癒確認の再検査（テスト・オブ・キュア）が行われます。耐性菌の問題から、治療後に菌が残っていないことを確認することが重要です。また、パートナーの同時治療も欠かせません。治療が成功しても、パートナーが未治療であればすぐに再感染してしまいます。治療中は性行為を控え、パートナーの治療完了を確認することが大切です。

淋菌性尿道炎になりやすい人・予防の方法

淋菌は感染力が非常に強いため、性行為の経験があるすべての人に感染のリスクがあります。特に複数のパートナーとの性行為、コンドームを使用しない性行為は大きなリスク要因です。若年層、性的パートナーが多い人、性感染症の既往がある人は特に注意が必要です。

予防の第一は、コンドームの正しい使用です。膣性交だけでなく、口腔性交、肛門性交でもコンドームの使用が推奨されます。また、定期的な性感染症のスクリーニング検査も有効です。特に新しいパートナーができた場合や、複数パートナーがいる場合は検査の頻度を高めることが望まれます。

性感染症の正しい知識を持つこと、異変に早く気づいて受診することが、合併症を防ぐカギとなります。感染の早期発見と早期治療により、重篤な後遺症は防ぐことが可能です。