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後腹膜線維症
前田 広太郎

監修医師
前田 広太郎(医師)

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2017年大阪医科大学医学部を卒業後、神戸市立医療センター中央市民病院で初期研修を行い、兵庫県立尼崎総合医療センターに内科専攻医として勤務し、その後複数の市中急性期病院で内科医として従事。日本内科学会内科専門医、日本腎臓学会腎臓専門医、日本透析医学会透析専門医、日本医師会認定産業医。

後腹膜線維症の概要

後腹膜線維症は、腹部大動脈下部および腸骨動脈周囲に線維性かつ炎症性の組織が形成され、しばしば尿管や他の腹部臓器を巻き込むまれな疾患です。特発性と続発性に分類され、特発性は多くがIgG4関連疾患によるものとされており、他にも喫煙やアスベストの暴露が誘因となることがあります。続発性では薬剤、悪性腫瘍、感染、放射線治療や外科手術などといった原因により発症します。腰背部から側腹部の疼痛を自覚することが多く、血液検査では腎機能障害や炎症反応上昇が認められます。画像検査では水腎症といった尿路閉塞や、大動脈や後腹膜周囲に特徴的な病変を認めます。治療はステロイドによる治療が奏効しますが、尿路や血管閉塞がある場合はそれらに介入的処置を行います。

後腹膜線維症の原因

後腹膜線維症は特発性と続発性に分類されます。

特発性後腹膜線維症(70%)は自己免疫性で、単独または他の自己免疫疾患、とくにIgG4関連疾患と関連します。IgG4関連疾患は特発性の35~60%を占めます。多くは大動脈炎に起因して周囲に線維性反応を起こすと考えられます。発症には環境要因(喫煙、アスベスト)と遺伝的要因も関与しているとされます。

続発性後腹膜線維症は薬剤性(麦角アルカロイド、ドパミン作動薬、抗TNFα薬など)、悪性腫瘍、感染症、放射線治療、外科手術、後腹膜出血などが原因とされます。

後腹膜線維症の前兆や初期症状について

最も頻度の高い初発症状は疼痛(腰背部・腹部・側腹部)で、90%以上の患者に認めます。活動や体位に影響されず、夜間に増悪する傾向があります。鼠径部へ放散する側腹部痛や、男性では50%以上が精巣痛を訴えるという報告もあります。その他、倦怠感、食思不振、体重減少、発熱、悪心嘔吐、下腿浮腫といった非特異的な症状が出現します。下部尿路症状として頻尿、尿意切迫感、排尿痛はありますが血尿はまれとされます。下肢動脈圧迫による間欠性跛行や大動脈分枝の圧迫により嗄声や乾性咳嗽などが出現することもあります。新規に発症した高血圧、男性では陰嚢水腫や静脈瘤などがみられることもあります。

後腹膜線維症の検査・診断

血液検査では、特異的なマーカーはありませんが、IgG4関連疾患によるものであればIgG4高値となることがあります。血清クレアチニンや尿素窒素の上昇など腎機能障害が50%以上で認めます。正球性貧血を指摘されることもあります。CRPなどの炎症マーカーは多くの患者で上昇します。腹部超音波検査では水腎症を認めることがあり、8~30%程度が腎実質の萎縮を認めます。造影CTやMRで腎周囲や大動脈周囲などの後腹膜臓器の特徴的画像の有無を検索し、場合によっては生検による病理組織診断を行います。

鑑別診断としては、尿路結石、後腹膜原発の悪性腫瘍(リンパ腫、胚細胞腫瘍、肉腫)、他臓器原発の後腹膜転移(前立腺癌、乳癌、大腸癌)、後腹膜繊維腫症、炎症性偽腫瘍、感染症、エルドハイム・チェスター病、血管炎(巨細胞性動脈炎、高安動脈炎)などが挙げられます。

後腹膜線維症の治療

治療の主な目標は閉塞病変の解除、進行の抑制、再発の予防の3点となります。

初期治療としては、保存的治療としてグルココルチコイドによる免疫抑制療法があり、炎症と浮腫による一過性の閉塞の解除を目的とし、4週間程度継続し治療効果判定を行います。保存的治療に効果が乏しく、血管や尿路の閉塞がある場合、介入的処置(尿管ステント留置や経皮的腎瘻)を行います。尿路閉塞の解除が必要なのは、特発性後腹膜線維症で中等度~高度の水腎症、もしくは片腎のみかつ軽度の水腎症、軽度水腎症かつ腎機能低下の場合であり、続発性後腹膜線維症でも水腎症があれば尿路閉塞解除を検討します。閉塞解除が困難な場合や悪性腫瘍の可能性が疑われる場合は、開腹手術も検討します。血管閉塞に対しては血管形成術、ステント留置、外科的バイパス術などの介入治療を行う場合もあります。

続発性後腹膜線維症の原因(腫瘍、感染、薬剤)が判明していれば、原因に対する治療を行います。 IgG4関連疾患の治療についてはIgG4関連疾患に準じた治療を行います。

非IgG4関連疾患の特発性後腹膜線維症は免疫抑制療法が中心となり、初期治療は高用量グルココルチコイドを4~8週間投与します。治療奏効率は75~90%と高く、ステロイドの反応性は良好とされます。高用量ステロイドの長期使用が困難な場合は、低用量ステロイド+免疫抑制薬(リツキシマブ、メトトレキサート、ミコフェノール酸モフェチル)を併用します。ステロイド完全禁忌の場合は、リツキシマブ単独で治療効果判定(4~8週後)を行います。適宜症状に応じて画像検査で尿路閉塞解除の有無を確認します。治療反応性がある場合はグルココルチコイドを数か月かけて漸減します。反応が乏しい場合は 生検で診断の確認や、他の免疫抑制薬への切り替えを検討します。再発する可能性があることから、治療終了後も長期間にわたり、画像検査と血液検査で経過観察が必要となります。

後腹膜線維症になりやすい人・予防の方法

後腹膜線維症は稀な疾患であり、疫学的研究は限られています。特発性後腹膜線維症の発症率は、年間10万人あたり0.1〜1.3例と報告されています。後腹膜線維症の一表現型である炎症性腹部大動脈瘤は、全腹部大動脈瘤の約4〜10%を占めるとされます。特発性後腹膜線維症は主に40〜60歳代に発症する傾向があります。一部の研究では、男性:女性の比率が2:1〜3:1とされ、男性に多いとされています。アスベストおよび喫煙歴は、後腹膜線維症の発症リスクを3〜4倍に増加させるとされています。 喫煙とアスベスト曝露の両方がある場合、発症リスクは8〜12倍に上昇すると報告されています。予防策は確立されていませんが、禁煙により発症リスクを低減することが期待できます。

参考文献

  • 1)van Bommel EF, et al. Long-term renal and patient outcome in idiopathic retroperitoneal fibrosis treated with prednisone. Am J Kidney Dis. 2007;49(5):615.
  • 2)Vaglio A, Palmisano A, et al. Prednisone versus tamoxifen in patients with idiopathic retroperitoneal fibrosis: an open-label randomised controlled trial. Lancet. 2011;378(9788):338. Epub 2011 Jul 4.
  • 3)Boyeva V, et al. Use of rituximab in idiopathic retroperitoneal fibrosis. BMC Rheumatol. 2020;4:40. Epub 2020 Aug 6.
  • 4)van Bommel EF, et al. Idiopathic retroperitoneal fibrosis: prospective evaluation of incidence and clinicoradiologic presentation. Medicine (Baltimore). 2009;88(4):193.

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